見出し画像

ヒトはなぜ浮気するのか?

つれづれ人類進化考 第2回



前回では、ヒトはペアボンディング(愛の進化)直立二足歩行を同時並行で進化させたと書いた。

では、なぜヒトは浮気するのか?

進化が不十分なのか?    失敗なのか?

現時点での私の結論は ”進化の本質が表れている” だ。

では、以下に論を展開してみる。


生殖に関係する3か所の脳機能

生殖に関係する脳機能は3つあり、それぞれ別の脳の個所が割り当てられている。

その3つの脳機能は、性欲恋愛感情愛着だ。

それぞれ、テストステロンドーパミンオキシトシンのホルモンが司る。

恋愛感情はヒトにおいて進化したものだが、ドーパミンも脳底の腹側被蓋野もヒトの専売特許ではない。爬虫類脳とも呼ばれ、多くの動物においても強い衝動や動機付けに重要で、生きるのに不可欠の脳機能を担っている。

テストステロンも、オキシトシンも同様だ。

人間は単に、そこに新しい任務を担わせるように進化したのだ。

進化はマイナーチェンジの積み重ねだ。
決して、インテリジェントデザインではない。
ヘッケルの反復説は、現代の生物学ではそのまま受け入れられないとされるが ”発生の初期ほど進化的により古い形質が現れる傾向にある” はそのとおりだと思う。
ヒトの脳も進化の時系列に沿うように脳の部位が積み重なっている
いずれにしても生殖に関わる箇所は、脳の深い場所にあり、強い本能や衝動を司るから、理性では自在にコントロールしえないかもしれない。


不倫を後悔する夫

生殖に関する3つの脳機能はそれぞれ独立して機能発揮できる

端的にいえば、

非常に強烈な恋愛感情で結ばれて、かつ長期間の愛着を保持していても、他の相手と寝ることもできる。

それぞれが独立した機能だから


TED日本語 - ヘレン・フィッシャー: 技術は進歩しても愛の形が変わらないのはなぜか | デジタルキャスト (digitalcast.jp)

博士の話より
「 この3種類の働きと脳の他の領域が合わさって 性生活、恋愛生活 そして家庭生活を統率していました。
しかしこれらの仕組みは脳の皮質よりも人が感情を感じたり感情が生まれる 大脳辺縁系よりもずっと深層に位置します。
脳の最も原始的な部分です ここに関連するのは エネルギー、集中、渇望、動機、欲求、欲動などです 」

でも実際に起きれば、悲劇的な結果を招く可能性が高い。
浮気は、それにより殺人が引き起こされる社会でもおきる。
愛する恋人を失い、愛する子供の家庭を壊し不幸にすることがあってもだ。

これは、進化的にはミスマッチ?

なら、どう進化すればいいのだろうか?

ヒトに至る系統でのテストステロンの減少

ヒトの系統においてはテストステロンが一貫して減少方向へ進化してきた。
犬歯の縮小、メスをめぐるオス同士の争いの減少がより協調的、協力的なヒトへの進化につながるのだと思う。


子煩悩な父



後の時代には(ホモ属以降)
テストステロン減少により、筋肉維持のために消費していたカロリーを大きくなった脳へ振り向けたことで、脳を増大させることができた。
しかし、テストステロンは筋肉や骨等を維持するためや、他の健康を保つために不可欠なホルモンなので、際限なく減らすわけにいかない。

子育て中の男性のテストステロン値の低下を報告する研究もある

父親になるとテストステロン減少、育児協力に効果 米研究 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

チンパンジーの生殖戦略

ヒトを理解するためには、ごく直近の分岐でありながらも、生殖戦略においては真逆に進化したように見えるチンパンジーと比較してみたい。

アフリカ大型類人猿共通の課題は ”父親による子殺しの回避” といわれる。
チンパンジー流の解決策は、”乱婚と排卵の誇示” だ
チンパンジーは果物を求めて森に広く拡散して遊動する食性を進化させたので、ゴリラのように ”ハーレム形成” はできない。
そこで、メスは ”排卵を誇示” しオスは ”不可避的かつ無差別的” に性行為する乱婚に進化した。
一度の妊娠までに約5千回の交尾が行われるらしいが、メスの生殖器官で多数のオスの精子が競争をする方向に進化した。
逆にいえば、排卵を誇示しないメスに反応しないので、4年間ほどの無月経授乳中のメスと子供はオスの暴力からは逃れられる。

チンパンジー研究で分かった人間の子育ての本質〜松沢哲郎氏に聞く - eduview

奇妙?なヒトの生殖戦略


ヒトはどうか
ヒトではペアボンディングの進化に加えて、排卵の隠ぺい閉経が進化した。
長期的に家族を営み、養育に多くの手間と時間のかかる子供を育てるために進化したのだと思う。
妊娠率の例外的な低さも(類人猿50%、ヒト1割以下)

ところが排卵の隠ぺいと相反する形質も進化している。
女性では、”胸やお尻等の性的なシグナル” を四六時中発信し続ける。
特定の発情期はなくヒトは365日24時間性行為可能だ。
ヒトの性現象は生殖から自由になっている。

これは、家族の維持を妨げるのではないかと考えてしまう。
特に人間のように高い密度で両性が協働する社会では


派手な羽で求愛するオス



一般的には動物のオスがメスの気をひくために装飾する
つまり、オスが装飾を競い、メスに選ばれようと奮闘する。
でも、人間は女性のほうが化粧やファションに関心が高い傾向がある。

卵子は精子の100万倍の体積がある。
つまり、希少性が高い。
一回の妊娠に対する投資量がオスとは比較にならない程大きい。

オスの求愛を選別吟味する有利な立場あるように思えるのになぜ?

お出かけ前の若い女性

ペアボンディングの進化を主導したのはメス

おそらくペアボンディングの進化はメスがオスを選択することで開始されたと考えます。(昔話の難題婿的な状況かも)

そしてペアボンディングの進化がある程度進んだ段階では
浮気性のオスは選ばれにくくなり、基本的にオスはバラマキ戦略をとりえません。

限られた機会(通常は一人のメスしか選べない)しか許容されないのであれば、性質のよさそうなメスを吟味選択する動機がオスの方に生じそうです。

類人猿とは異なるオスの好み


一般的に類人猿は年長のメスを好む。
多分、年長のメスが子育て上手です。(理にかなっている)
子育ては4年くらいです。

ところが、人間はどの民族においても若い女性を好む傾向が強い。

生物学的には若いメスを ”生殖価が高い” と表現する。

人間は約20年位の子育て期間を要する。
これがヒトらしさの進化を可能にしたのですが
その場合は比較的若く、出産、子育てを開始する必要があるでしょう。
女性は短期決戦で、より優秀な性質をもつ配偶相手に求愛させ、子供を産み家族を構える必要がありそうだ。

また、女性の側にも恋愛感情が進化し、自身の恋愛を成就させるためにも、自身の魅力を高める動機が生じる。

売り出し期間を速めたメスの個体が有利に選択されたかもしれない。

こうして、人間は若い女性を好むように進化してきた可能性がある。


一般に狩猟採集民において、最も獲物を持ち帰るのは40代といわれる。
一人前の狩人になれるのは30歳以降らしい。
その集団において政治的、経済的に最も力を持つのは50代の男性だ。

集団におい重要視される年齢のミスマッチが男女間で生じて、浮気が生じやすくなった面もあるかもしれません。
(男女で役割の分化が進んだ以降での話)

狩猟技術の習得には時間がかかる


若さへの選好を増幅させたもの

氷河期(現在の氷河時代である第四紀氷河時代更新世、約258万年前から)に入り、より寒冷化や乾燥化が進み、肉食傾向を強めたヒトは体脂肪率を上昇させる方向に進化しました。
とくに、より大きな脳を成長させなければならないヒトの子供へ授乳するうえでは不可欠な進化です。

運動しなければならない進化上の理由 - 日経サイエンス (nikkei-science.com)

乳房やお尻に体脂肪を蓄える様子が、オス側にとっての性的な魅力になったはずだ。
性的魅力は授乳能力等を含む生殖能力の高さを提示しているはずだ。

ところがこれもトレードオフがある。
重力のある地球上で体脂肪を蓄えれば、経年により垂れさがるので年齢が増幅されて表現されるであろう。

さらに、狩猟や肉食により人類の脳の増大が始まると、益々、難産になり、生理的早産の子供を、さらに長期にわたり養育、教育していく必要から、より早期に出産して子育てを開始する必要が生じたのでしょう。
さらには、自分の子育てあとには、身の回りの若い母の重要な支え手となるべく、閉経も進化しました。
 チンパンジーは(寿命の50歳くらい)まで閉経しない

かわいい孫をあやす

結論


進化は、でたらめな変化(偶然の変化)が自然選択されるなどして積み重なり、継ぎはぎだらけに生物をつくりあげてきたので、辻褄があわないミスマッチ等は避けられません。

肥満症、糖尿病、乳がん、子宮がん、腰痛等 
ヒトはミスマッチ病のオンパレードです。
精神疾患等も、相反する衝動の統合の困難さが関係するように思う。
ヒトのように複雑性が増した時に、必然的なトレードオフは排除困難だ。

排卵の隠ぺい等の発情期の消失、妊娠率の低下、生殖器官の変化等は。もともとは、長期の子育てを担保するためにペアの親密さを高める目的と合目的だったから選択されたと推測するが、生物的な生殖から自由になった性現象は、むしろ婚姻の阻害や家庭の崩壊の原因にもなっている。

性現象以外でも、人間らしい没頭や集中の精神現象が文明を作り上げてきた半面、薬物やギャンブル依存症などの快楽への耽溺も生んだのだ。

浮気は結果としてミスマッチといえるかもしれないが、
おそらく何十万年も前から、ヒトは色々な文化的な手法で対処しようとしてきた。

生物学者や人類学者は、
”ヒトはゆるやかな乱婚” 
とか 
時間差一夫多妻
とか言います。

南米のアチェ族の話を読んだことがありますが
女性は生涯に、平均で13回結婚するらしいです。
つまり、子供ごとに父が違う
さらには、それぞれの子供ごとに第二の父がいることもあるそうです。
妊娠後に第二の父と意図的に関係をもつのです。
たぶん、非常に父が死亡しやすい過酷な社会では保険的に進化した文化かもしれません。



色々な楽しみ



つまり、人間は遺伝子の制約に閉じ込められているのではなく、文化的に多様な方法で生きています。
個々の社会の違いだけでなく、個人の多様性も高く、時代による変化もめまぐるしいのです。

冒頭のヘレン・フィッシャー博士の話に戻りますが
性欲、恋愛欲、愛着
これらの極めて本能的な強い衝動は、理性では到底制御しえないので、
我々は、結局、進化の奴隷ともいえるでしょう。
予防線をはる以外に対策はないと思います。

以上です。ご覧いただきありがとうございました。

挿絵作成には Bing Image Creatorを使用しました

最後に
私はただの人類学ファンです。
きちんとした科学教育も身に着けておりませんので
独断と偏見に満ちた無責任な論考です。
自分のブログ作成スキルを磨く練習目的で作成しておりますのでご了承下さい。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?