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独学の方が語学の読解テキストを安く仕入れる方法

「語学に万能薬はない」が持論です。

現役の文系大学院生として、今まで必要に駆られたり単なる興味に駆られたりしながら、10以上の言語を学習してきました。その中で、今日に至るまで一度もブレることのなかった確信の一つが、上の一言に詰まっています。
そのため、この記事は誰にとっても等しく効果的な学習方法について述べるものではありません。加えて、当記事は中〜上級レベルの読解テキストとにかく安く仕入れることにのみ言及しておりますので、その質や正確性については保証しません。まずは以上のことをご了承ください。

さて、忙しい読者様のために結論から申し上げます。その方法とは、
Wikipediaの記事を使うことです。

まずはやり方を説明します。

皆様が、今学習している言語の読解力を必要とする理由はなんですか。ビジネス利用か、学術利用か、あるいは何かしら興味対象についての理解か…。
では、その分野において、ご自身がよく知っている単語をまずは日本語で打ち込んで、Wikipediaで検索してみましょう。なんでもいいです。ビジネス利用の方ならその業界で国際的に最も有名な企業の名前、歴史学をやっている方なら何か有名な出来事の名前、その国のサッカーについて知りたい方なら好きな選手の名前を、まずはご自身の最も得意な言語で打ち込んでください。

そして、左側か上の方の端っこに言語変換の「文A」マークを探してください↓
そこをクリックしましょう

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クリックすると、いろんな言語の名前が下に表示されます(最初から表示されている場合もあります)。お目当ての言語を見つけたら、それを選択しましょう。
そいや!

その言語の記事が表示されます。それでは辞書を片手に、読解を始めてみましょう。

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さてここから、語学で中〜上級レベルの読解テキストとしてWikipediaを使うことの利点について述べます。

① 自身の専門性に近い話題の文章を選択できる

読解力を高めるために、小説から新聞記事、何かの手続き書類やネット上の書き込みに至るまで、様々な教材を用いるのは確かに有益です。異なるタイプの文章に対する対応力を高め、語彙から言い回しに至るまで多くのことを新たに学べるでしょう。
でも、文法も一通り終わって中級者以上になったら、その言語を用いて自分が達成したい目標にフォーカスを当てた訓練をすることが必要です。例えばその業界の専門用語を、学習している言語でなんと言うのかなどというのは、普通の語学の教科書はなかなか答えてくれません。自分の専門性に特化した教材を選べるのは、目的に合わせたスキルアップにおいて効率を向上させます。また読解の作業中に目標設定を意識しやすいことで、単純にモチベーションの維持にも繋がります。

ポイントは、よく知っているキーワードで、自身の第一言語であれば流暢に説明できるようなものに関して書かれた記事を選ぶことです。ご自分がよくわかっていない概念や言葉に関する記事を読んでも、まだ学習者なのですから、自分の読解が合っているのか間違っているのかがわかりません。わからない単語や表現があっても、意味をある程度推測しながら読めるものが良いです。その方が、単語や表現の飲み込みも早いと思います。

②マイナー言語の記事を入手できる

正直、英語のテキストが欲しいのであれば、わざわざWikipediaを使う必要はないかもしれません。大学の第二外国語で学べるようなものであればまだしも、中級レベル以上ともなると語学用のテキストの入手が著しく困難になる言語というのは、いくらでも存在します。
筆者は以前、大学院の入学試験に向けて、あるマイナー言語の語学力を学術レベルにまで高めるために使える教材のアテが全くないことに愕然としたことがあります。でもそんな時も、Wikipediaが助けてくれました。

「マイナー言語だと、Wikipedia上に記事が存在しない!」という事態が発生するかもしれません。そんな時は、その言語が用いられている社会に寄り添って、どんな記事なら存在しうるかを考えてみてください。例えば、いくら自身の関心に近い記事を選んだ方がいいとはいえ、それが海外ではマイナーな日本の漫画作品に関するものであったら、存在しない可能性が高いですよね。
語学の目的を思い出してみてください。自分と異なる言語環境で生きてきた人の書いた文章を読み取るために学んでいるのだから、「相手の社会ではどのようなことが重要と思われているだろう」という視点に立ってみましょう。このフェーズを踏むことで、自分の住む世界と相手の世界の思わぬ違いを発見したり、逆にその二つの共通点を見出すこともできたりします。語学は異文化理解の過程でもありますから、それを丸ごと楽しむ気持ちで学びましょう。

ただし、Wikipedaがカバーしている言語の種類は、現時点でたった300程度のようです。この数を多く感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、地域研究を選考する院生の端くれである筆者の目から見たら、まだまだ少ないと言えます。

③安くて手軽

わざわざ繰り返すまでもないとは思いますが、一番はこれです。①②でも申し上げたように、専門性の高い文章やマイナー言語の文章というのは、手に入れるのに手間とお金がかかります。インターネットがない時代であれば、書店などに発注して書籍の到着を待たなければなりませんでした。現在でも、論文や新聞の閲覧サイトは多くが有料会員制です。適切な無料記事を求めて、まだ実践に利用するには拙い言語を用いて広いネット空間を探し回るのも、なかなか大変です。それならWikipediaを使いましょう。キーワードさえ打ち込めば、大体どんなデザイン・文章構成が用いられているか予めわかっている記事が、どん、と提示されます。
文章量が多すぎると思ったら、とりあえず一段落だけ読んでみましょう。千里の道も一歩から。語学に近道はありませんから、やれることから少しずつやっていけば良いのです。

以上、

① 自身の専門性に近い話題の文章を選択できる
②マイナー言語の記事を入手できる
③安くて手軽

が、中〜上級読解テキストとしてWikipediaを用いることの利点です。

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以下ではこの方法の短所や、注意しなければならない点にもいくつか触れます。

①答え合わせができない

これは独学であればある程度仕方がないことですが、語学用のテキストで学習することに慣れている人にとっては致命的に思えるかもしれません。何を言いたいのか結局最後まで分からない表現があって、モヤモヤしたまま終わる、ということも起こり得ます。そういうフラストレーションをなるべく減らすために、ご自身のよく知る概念や単語についての記事を参照した方が良いのです。

だけど考えてもみてください。言葉はよく生き物にも例えられるように、日々変化するものですし、その社会の歴史や価値観を反映した豊かな広がりを持ちます。言葉の世界は奥深く、語学とは一生かけても終わることのない登山なのです。そんな中で読解力を高めようと思うのであれば、やはりなるべく多く読むのは必要なこと。学習者向けに解答の用意された文章ばかり読んでいても、規範的な文章しか読めなくなるし、語学力を用いて何をしたいのかという目的を忘れがちです。
分からない部分があっても、それを現時点での自身のレベルとして甘んじて受け入れましょう。解答をチェックして分かったような気になるよりも、その方がよほど経験として実になるはずです。

②内容の正確性が保証されていない

ここで言う「内容」とは、文章のスタイルや文法のこともそうですし、文章が述べている要旨のことでもあります。

皆様はご自分の第一言語でWikipediaの記事を見ていて、「なんか言い回しが不自然だな」とか「明らかに外国語からの直訳だな」と思うものに出くわしたことはありませんか。ネイティブスピーカーから見たらどこか違和感のある表現が見られることがあるのは、教材として用いる上で決定的な弱点だと思います。その違和感は、第二言語以降の言語としてそれを学ぶ人には感知しにくいものです。正直なところ、「完璧な文章を手本にしないと意味がない」とお思いの方は、Wikipediaの使用は避けた方がいいかもしれません。これに関する考え方は個人の信条や語学の目的等によって変わるものなので、そのようなスタンスに対して反発する気は全くありません。
筆者がこの点についてどう考えているかを申しあげますと、「まぁ大体の記事は別にそんなにおかしくないだろうし、いいんじゃない?」です。ハズレにあたることはあるかもしれないけれど、そもそも無料記事なんだし、別にいいでしょと開き直っています。そもそも筆者の場合、ネイティブと同等の読解力水準を目標にしていません。その言語で文学作品が読めなくても、自身の専門分野の論文が読めさえすれば良いと思っています。それに言葉が拙いのが恥ずかしいことだとばかり思っていたら、語学のモチベーションが挫かれてしまいます。不自然な表現を学んで、それを吸収してしまったとしても、実践での運用に移す中で修正していけば良いのです。
文章の要旨が正確でないことについても、同じことが言えます。Wikipediaの記事はネット上の有志によって執筆されたものだから、論文の参考文献なんかに使用しちゃいけませんよ、と言うのは周知の事実です。でも別に語学が目的なのだから、この点もどうでもいいと思っています。

以上、語学の読解テキストとしてWikipediaを使うことのよくない点は、

①答え合わせができない
②内容の正確性が保証されていない

ことでした。これらの短所も考慮した上で、ご自身の学習に取り入れるかどうか、検討してみてください。

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Wikipediaを語学の読解テキストとして用いることについてご紹介してみました。

文法を網羅して、すでに基本的な単語は身についている段階から、少しずつ実際に言語を利用する段階にまで持っていくまでには、読む・書く・話す・聞くの全ての領域において、結構高い段差が存在すると考えています。このレベルまでくると、勉強の量をこなすことが大事です。今はインターネットが使える時代なのだから、利用しない手はありません。

語学は基本的にずっとしんどい道のりですから、せめて教材を入手する段階ぐらいは楽をしましょう。Wikipedia利用、個人的にはおすすめです。
ただし冒頭に申し上げたように、この学習法はただの一例です。語学に通じた方で、筆者と全く意見が噛み合わない方も大勢いらっしゃるでしょう。その点はくれぐれもご留意くださいね。

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