ガチスパー考
1 一口に「スパーリング」と言っても、目的に応じていくつかの態様がある。
「スパーリング」をここまで細かく分類する必要があるかはさておき、これを①フリースパー②条件付きスパー③フロースパー(④ブラインドスパー)に分けて、クラス内で実施している道場は多いだろう。
さて、本稿の主題である「ガチスパー」である。
要するに、ブザーが鳴ったら全力全開、本気で相手を倒しに行くスパーリングを意味している。
上で紹介した記事の中では、meat-head sparring という言葉がガチスパーに違いが、meat-head sparring はお互いが了承の上で本気のスパーリングをする場合を指しているようなので、相手の都合などお構いなしに潰しに行く、日本語のガチスパーとは少し意味が異なるだろう。
結論から先に言うと、「柔術の上達にとって、ガチスパーは必要ない」というのが私の意見である。
2 ガチスパーとは似て非なるモノとして、ブラジリアン柔術(BJJ)を始めたばかりの人が「スパーリング」中に力んでしまう現象についてもひと言。
BJJに限った話ではないが、これまで見たこともやったこともない動作(≒技)を習得しようとする場合、今までとは全く異なる新しい身体操作が要求されるので、最初の内は頭のイメージに身体が付いていかず、どうしても無意識に身体に力が入ってしまう(いわゆる「力み」が生じる)。
また、「悪いポジション」つまり、マウントやバックを取られれば、精神的にパニックを起こし、恐怖心から暴れて逃げようと試みるのは生存本能に基づく行動なので仕方がない。
こういった初心者特有の力みについては、テクニックをドリルし、「悪いポジション」に慣れる事を通して解消されるので、「もっと力を抜いた方がいい」という先達のアドバイスに耳を傾ける素直さのある人であれば、時間が解決してくれると思う。
3 さて、いよいよガチスパーの是非についてである。
ガチスパーは、相手を怪我させるから良くない、ひいては、スパーリングの相手がいなくなるという対他的な理由から否定する見解が多いと思う。
もちろん、私もその見解に賛成なのだが、本稿ではガチスパーがそれを行う本人にとっても非常に効率の悪い練習法であるという事を述べてみたい。
ジョン・ダナハーが「柔術の上達は、何よりもまず第一に(練習)量の多寡によって決まる」と述べている。
ガチスパーを一本して、次の「スパーリング」は息を整えるために休み、またガチスパーを再開するという事を繰り返していては、一日の「スパーリング」総数の半分しかこなせない。
2本に一本「ガチスパー」をするよりも、50%の強度で全部の「スパーリング」をこなした方が最終的な練習量は多くなる。
また、若いうちはガチスパーを繰り返していても、一晩寝れば翌日はまた元気溌剌という人が多いかもしれないが、年を取るにつれて・・・人によって程度の差はあるにせよ・・・どうしても練習に伴う翌日以降の疲労が抜けにくくなる。
柔術が強くなりたいと思っているのに、ガチスパーによる疲労で翌日以降の練習を休むのは、これまた練習量の確保という面において、強度の低い「スパーリング」に比べると学習効率が低下してしまう。
まして、BJJを趣味として実践している人が、ガチスパーで疲れ切って、翌日の仕事や日常生活に支障が出てしまうとすれば、本末転倒でしかない。
また、医学的に見て40歳を過ぎると怪我からの回復が(30代までと比べて)極端に遅くなるという点も頭に入れておく必要がある。
ガチスパーというのは、それを望まない相手にとっては迷惑極まりないが、自分の身体に非常に無理を強いている状態でもある。
ガチスパーを続けていれば、年齢に関係なく、高確率で(無理がたたって)いずれ自爆型の怪我をしてしまう。
練習量をこなすには、「継続して道場に通う」事が必要になるが、ある月は週に6回道場に通い、怪我をして次の一月を丸々休んでしまうくらいなら、最初から週に3回でいいので怪我無く道場に通う方が・・・休んでいる間にフィジカルが低下するだけでなく、マッスルメモリーに記憶されていないテクニックは忘れてしまうので・・・技量は確実に上達すると言える。
4 以上の諸点に鑑みると、「柔術の上達にとって、ガチスパーは必要ない」という結論になる。
休みながらガチスパーを繰り返すより、強度を落とした「スパーリング」を無理のない範囲でこなすことの方を・・・特に40代以上の方には・・・勧めたい。
以下は、本稿に「投げ銭」をして下さった方へのお礼として、後日書き足した文章になります。5/21追記
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