Goenitz
1 ここ最近、スパーリング中にパートナーの「スパイダーガード」に捕まると、その場で考え込んでしまう。
「スパイダーガード」は、これに捕まった際にどう対処していいのか分からず、パニックを引き起こしてしまうという点で初心者泣かせのテクニックだと思っている。少なくとも白帯の頃の私は相当泣かされた。
あれから幾年月を経て、今では「スパイダーガード」に対する「パス公式」をいくつか知るようになった。
一時期はこれらの「パス公式」を活用して、「スパイダーガード」をパスしたこともあったが、最近はこうした「パス公式」を用いて「パスガード」する事に疑問を感じている。
「スパイダーガード」はボトムがトップと4点コネクションを作るに際して、両手指(と両足裏)を用いている。「スパイダーガード」で長年にわたって指を酷使していれば、軟骨がすり減って曲がる人も出てくるし(私も指が変形した「スパイダーガード」使いを何人も見ている)、靭帯を切る人も出てくるだろう。
そう考えると、「スパイダーガード」を用いる人が指を怪我するのは自己責任と言えるのではないだろうか?BJJでは「指を直接掴む」行為は反則であるが、「指を責める」行為については明確に規定されていない。だから、「スパイダーガード」に本気で対処しようと思うのであれば、「パス公式」を覚えるより、袖のグリップを自分の足で蹴って切った方が遥かに合理的だと思う(「ラッソーガード」において、ラッソーに取られた側のグリップに対して、トップが手のひらを外側に返して切りに行くのも同じである)。
そうしたグリップの切り方は相手の指を怪我させる可能性が極めて高いので、道場内では勿論試合でも私が実際に使う事はないのだが、それでも「スパイダーガード」において、その使用によるメリットをボトムが享受しつつ、トップはそのデメリットを具体化させる行為を(ルール上禁止されていなくても)相手を慮って、と言えば聞こえはいいが、忖度して行ってはならないという空気が私には今一つ納得できない。
足でグリップを蹴って対戦相手の指を破壊した日系ブラジル人の試合を見たこともあるが、それは蹴る側に良心が欠けているのか、「スパイダーガード」を捕る側にその使用に伴うリスクに対する危機意識が低いのか、正直即断しかねる。
2 また、「スパイダーガード」は、トップが「パスガード」しようとして前に出る(=前に崩れる)ことを前提として各種のテクニックが組み立てられている。
ここで山脇先生が使用されている「スイープ」を仕掛ける際に「受け」が前に崩れている点を見ればその事は一目瞭然だろう。それは、「スパイダーガード」からの基本テクニックであるところの「三角締」や「巴スイープ」についても同様に当てはまる(注1)。
注1)
「スパイダーガード」は、トップが前に出る事を前提に組み立てられた技術体系である点が分かれば、少なくとも「スパイダーガード」にやられないための対策は比較的簡単に立てられる。
「スパイダーガード」にやられる原因が(トップが)「前に出る」事にあるのだから、その対策は「前に出る」事の反対、つまり「後ろに下がる」事がひとつの選択肢になる。1で紹介した「スパイダーガード」に対する3つの「パス公式」のうち、最初の動画がこの発想に立っている。「後ろに下がる」事で、相手の足裏の「コネクション」を外し、強い「オープンガード」を作るための鉄則である「4点コネクション」を解除して、そこからトレアナで「パスガード」している。
また、B・ファリアが言うように、「オープンガードの展開になったら、まず正座してしまう」というのも他のひとつの選択肢になる。トップが立っているからこそ「デラヒーバガード」に移行されたり、「50/50」や「Xガード」に入られるのであり、「正座をして、〔背筋を伸ばし〕膝裏を閉じてしまえば、ベリンボロに入られる事もないし、スパイダーガード以外のオープンガードをシャットアウト出来る」というファリアの意見に私も賛成である。
ただ、私が「スパイダーガード」を前にして考え込んでしまうのは、「スパイダーガード」の対処法について迷っているからではない。「スパイダーガード」に捕った側(ボトム)がトップが「パスガード」しようと前に出てくるのを手ぐすね引いて待っている状況で、どうして「パスガード」しなければならないのだろうか?という点にある。
3 競技柔術において、相手のガードをパス(「パスガード」)すれば3点が入る。「パスガードすれば3点入る」という事がルール上定められているだけで、「パスガードしなければいけない」という決まりはない。「パスガード」にトライしなければいずれ指導が来るのは事実だが、「パスガード」しようとして相手の術中に嵌まるくらいなら、私は身を守るために「何もしない」という選択肢がどうして許されないのか?という疑問を抱いている。
グラップリングでMMAクラスに通っている子とスパーする際、彼らは競技柔術のルールを知らないから、私が彼らを「クローズドガード」に捕らえると、センスのある子ほど「両脇を閉じ、頭を下げて、その場でじっとしている」。「じっとしている」と言うのは「何もしない」と同義ではなく、「クローズドガード」を割ろうとして自分から墓穴を掘るより、私のミスを待っているのである。
そうした彼らの・・・私から見れば・・・至極まともな反応も競技柔術の中では指導が来てしまう。
「スパイダーガード」は競技の中で生まれた技術で、その有効性を否定する気は毛頭ないが、暗黙のルールとして、指を怪我させるようなグリップの切り方は許されないし、「パスガード」しなければならないという競技のルールを裏返した同調圧力があって始めて成り立っていると私は考えている。
BJJが格闘技なのかスポーツなのか自己規定出来ていない点が「スパイダーガード」を巡る攻防に顕著に出ているから、私はこれに接すると考え込んでしまうのだろう。
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