HIKIWAKE

1 以前ウチの道場で一緒に練習していた子のMMAの試合があった。

 彼は、試合開始早々相手をテイクダウンして、パスガードし、バックを取って、試合時間の半分以上をバックキープして攻め続けていた。
 それでも試合結果はドロー。

 不思議に思って理由を聞いてみたら、試合の最終局面で、相手選手がバックからエスケープし、離れ際に一発(パンチを)貰って足にきてしまった(のがジャッジに響いてしまった)らしい。

 ブラジリアン柔術的な発想から言えば、良いポジションを取って、圧倒的に試合を支配していたのは彼なのだから、彼の勝ちだろう。

 だが、もし私が(彼ではなく)相手選手の知り合いだったらどうだろうか?
 バックを取られても、きっちりディフェンスしてそこからエスケープし、一発クリーンヒットを当てたのだから、相手選手の勝ちだと思ったかもしれない。

 私がMMA未経験者だからそう感じるのかもしれないが、一般論として、「試合の結果を判定で決める」という行為は、ジャッジの主観に相当程度左右されてしまうのではないか?と感じた。

2 試合後の彼は、「ジャッジのせいにはしたくない。MMAで勝ちたかったら、一本取って勝たないとダメだ」と語っていたが、「いくら何でもそれは自分に厳し過ぎではないか?」と私は思ってしまう。

 夜勤で仕事しながら、毎日2部練をこなしている彼ですら、試合時間内に相手を(T)KOもしくはサブミッションで仕留め切るのは難しい。
 当然、相手選手も彼に負けないだけの練習をこなして、双方の実力が拮抗しているからこそ「引き分け」という結果になったのだと推察されるが、MMAというのは本当に大変な格闘スポーツだと改めて実感させられた。

 相手を倒すためには、グラップリングだけでなく、打撃やケージレスリングも含めて、技術を幅広く、そしてある程度深く身につけなければならない。
 それに加えて、さらに審判の目も気にして戦わなければならないとすれば、選手にとってやる事が多すぎて、その全てを消化しきる事は不可能に近いだろう。

 MMAで勝つために、あるいは、プロになるために頑張っている若者達を見ていると、彼らの努力が等しく報われて欲しいと願ってしまう。
 現実には、勝者の陰には必ず敗者がいるので、全ての選手の努力が報われるわけではない・・・むしろ、大多数は報われない・・・・という事は分かっているのだが、それでも彼らの労苦からジャッジ判定まで頭に入れて戦う事くらいは取り除いてあげられないものだろうか?

3 「試合」とは、予め定められたルールに則って、対戦する両者が自らの技量の優劣を競うモノである。

 試合時間内に(T)KOもしくはサブミッションで決着が着かなかった場合に、それでも両者の優劣を決めようとするからこそ、ジャッジによる判定が必要となるのであろう(コイントスで決めるというのも一つの手だが、それは選手の技量とは全く関係のない、運の強さで決着を付けようとするものだから、それを受け入れる人は誰もいないだろう)。

 ジャッジも人の子である。
 だから、判定において、ジャッジ個々人の印象点に試合結果が左右される事が出てくるのは致し方ないと思う。
 かと言って、全試合(T)KOもしくはサブミットして勝つというのは、双方が厳しい練習を積み重ねているMMAの試合ではあまりにハードルが高すぎる。

 日本では、MMAの試合の結果が賭けの対象になっていないのだから、時間内に決着が着かなければ(少なくともワンマッチの場合)引き分けでも構わないのではないか?と私は思う。

 冒頭の彼に対して、私からは「負けなかったのだから立派なモノだよ。所詮は素人の意見かもしれないけど、引き分けは勝ちに等しいと僕は思っている」と伝えておいた。

4 (アマチュアの)MMAの試合を見ていると、バックを取ったら「4の字ロック」に両足を組む選手を多く見掛ける。

 「4の字ロック」は、バックキープ力に優れていると考えての事だろうが、実は相手の腰に片足を巻き付けるタイプの「4の字ロック」は、ロックが外れないという意味においては、固定力が優れているが、実は「後ろから相手を抑え込む」という意味では、ほとんど効果がない。

 また、一度「4の字ロック」を組んでしまうと、バックからのアタックはほぼ「裸締め(RNC)」だけに限定されてしまうので、バックを取られた側としてもディフェンスが(対応する必要のあるサブミッションがひとつしかないから)容易になってしまうという欠点すらある。

 さらに、下の画像のように、もしバックを取られた側が「4の字ロック」の外足の上に自分の足を掛ける事が出来れば、(掛けた足を内側に折り曲げるのではなく)「自分の腰を持ち上げる」(各種の絞めにおける腰の使い方と同じ)だけで、相手の外足に「フットロック」を極めることが出来る。

バックを取られている人物が、「4の字ロック」の外足(左足)の上からフックを掛けている


 ダナハー門下をはじめとして、アメリカのプロ・グラップリングで用いられる「4の字ロック」は、日本の(アマチュア)MMAで使われている「4の字ロック」とは別物である。

 JTがここで説明しているように、「4の字ロック」は相手の腰ではなく、アバラ(正確には、横隔膜)を挟みこむように掛ける事で、相手の動きを制し、呼吸を困難にする。
 要するに、相手をコントロールするだけでなく、呼吸を困難にする事で、相手の体力を削るのが「4の字ロック」の目的である。

 BJJのルール上このやり方が許されるかは別にして、「4の字ロック」の効果的な使い方を知っておくと役に立つ事もあるだろう。

 

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