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ウィンターガーデン 

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庭から生まれたオハナシたち。
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ウラニワさん。(暑中見舞いが来た日)

ウラニワさん。(暑中見舞いが来た日)

わたしが、
ウラニワさんと会ったのは、

わたしの髪がつやつやと黒く
今より、肌もみずみずしく、
顎のかたちが、すう、と綺麗で

でも、それをちっとも
うれしい、と思えず、

眠たいような一重瞼が
二重になったら、
すこしはマシになるのに、

と、そんなことを、まだ、
思っていたような時期だった。

短大を卒業し、

OLさん、と呼ばれる
事務員として、数年、働き、

変化の無い、
まいにちに安堵

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急募、使い魔さん

急募、使い魔さん

貼り紙というのは
なかなかに効果があるものだ、と
知ったのは、つい先日です。

庭の柘榴の幹にぺたりと
それを貼っておいたら

次々と、履歴書が
根元に置かれ、

わたしは、

おやおや、
誰にも見えないと思っていても
誰かには見えるものなのだな

と、感心したのです。

履歴書のひとつは
おおきな落ち葉で

確かになにか
書いてあるのですが

きらきら光る、
透明のインクなので
ほとんど読み取れ

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るすばんランプ店

るすばんランプ店

月に2度3度しか
訪れない庭へ

久しぶりに来たら、
お店ができていました。

夏至が近づいた 
日暮れは明るく

わたしが
それに気づいたのは

独りの夕食用にこしらえた
えんどう豆のスープを

やれやれ、ようやく
庭に来られた、

と、パンと一緒にゆっくり
食べ終えた、そんな頃でした。

🍂

庭の奥に、ぼうっと光る
看板には、

るすばんランプ店

とあります。

『なにかしら?』

わた

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summer festival

summer festival

夏至まつり
summer festival
かみんぐすーん

と、白いチョークで
書かれた、小さな黒板が、
小径からちらちらと
見えています。

垣根越しですが、

その枝のひとところが
うさぎの抜け穴みたいに

まるく、剪られ
ぽかん、と
隙間が空いていて

それが、ふと、見えたのです。

こどもの《ごっこ遊び》でしょうか?

この黒板のしたで、
お母さんとこどもが
おままごとをしたのでしょうか

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魔女庭づくり

魔女庭づくり

誰からも
忘れられていた庭だった。

かつての夢に支えられ、
老人が護っていた庭だった。

彼が病を得て、去る、と
たちまち、冬がおとずれ、
庭は、荒れ果てていった。

わたしは、そこへ
入ることができた。

庭への鍵が、手にあったから、だ。

🍂

11月の日は短く、
伸び放題のモッコウバラの蔓の
奥に絡んでいる枯れきった枝を、
剪っていくだけで暮れてしまった。

翌朝は、草を抜き、
古い落ち

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芙蓉シュークリーム店

芙蓉シュークリーム店

芙蓉の、朝ひらく
白い花をみるたび、

昔風の、皮の薄い
シュークリームが食べたくなり

だから、その店を見つけたときは
うれしいながら、びっくりしました。

その店のなまえは
《芙蓉シュークリーム店》と言います。

素朴な墨文字で書かれた看板はちいさく
秋風に、かたかた揺れています。

店主さんは、白いエプロンをして
店の奥で、シュークリームの皮を
と、ふわり、と焼いています。

とても、忙しそ

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