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第9回 ほんまのってなに?

吉田家の二番目の のぶゆき兄ちゃんと星野家の二番目のたか兄ちゃんは同じ歳で
すごく仲がいい。

吉田のお兄ちゃんたちが遊びにきている時は、お兄ちゃんの言うことを
私がはいはい聞いて仲良くしてるように見えたんだと思う。


実は殴られているということは、吉田のお兄ちゃんたちは知らないはずだ。

そんなことは表に出さないから、星野家の人たちは他の人が居たらめっちゃ優しい。

だから私もすごく嬉しくて、たぶんニコニコしていたのだろう。

危機感を感じなくてもいいし、今日は安全だと思って私も機嫌がよかったのだと思う。


のぶゆき兄ちゃんには、めっちゃ幸せそうに見えていたのかもしれない。

そしたら、のぶゆき兄ちゃんがこんなことを言ってきた。

「ひかり、お前はほんまは俺の妹なんぞ」

「たかの妹違うんやぞ、俺の妹なんや」

「ひかりのお母さんは、あの人やない」


私は、「んー、なんの話かな?」と、意味がわからなかった。


大人になってのぶゆき兄ちゃんに再会した時に聞いたことから、この時のお兄ちゃんの気持ちを想像すると、お兄ちゃんには私がめっちゃ幸せそうに見えたんだろうと思う。

自分はお父ちゃんの再婚相手のお母ちゃんにいろいろ言われてきて、家に帰ると怖くて心臓がバクバクして、毎日玄関開けるのが大変だったそうだ。

そんな生活送ってるとは私も知らなかった。

そんな状況だったから余計にいろいろ思ったのだろう。

幸せそうで楽しそうで、やきもちもあったのかもしれない。


「お前はほんまは俺の妹なんぞ」と言った、この時の のぶゆき兄ちゃんが、
とても寂しそうだったことを覚えている。


吉田家のお兄ちゃんたちが帰った後に家の人たちに聞いてみた。

「のぶゆき兄ちゃんがほんまのお兄ちゃんなん?」

「ほんまのお母さんって誰なん?」


「いらんこと言いやがって、あいつ! お前は妹やぞ!」と上のお兄ちゃんはすごい怒っていた。


そして、ママが話してくれた。

「そうや、あきひこと のぶゆきがほんまのお兄ちゃんや」

「あんたのほんまのお父さんは、吉田のお父ちゃんで、ほんまのお母さんは、
レンちゃんや」

「レンちゃんはあんたが2歳の時に胃癌で死んでしもてん」


「ほんまの」とか、私にはよくわからなかった。

私にとってみれば、お兄ちゃんは全員お兄ちゃんだし、星野のパパママも、吉田のお父ちゃんお母ちゃんも、お父さんとお母さんだったし、私の世界はそれでしかない。

「ほんまのって、なんやろ」と、しばらく考えていた。


もっと小さい頃、吉田のお父ちゃんと戯れて楽しく遊んでいた時にママが来て、「パパが泣いているからパパのところに行って」と言われたことがあった。

パパは、
「あんなに可愛がったのにコレか!」と、怒りに変わっていた。

その時を境にパパがお風呂に入れてくれなくなったり、パパの膝の上でご飯を食べなくなったりしたのを思い出した。


なんとなく、「あーそういう意味か」と少しわかってきた。

誰に言うでもなく、自分の中で心静かに、さらっと。


この頃、テレビドラマの「不良少女とよばれて」を見た。

主人公は母親の「あなたさえ生まれていなければ」という言葉をきっかけに非行の道を歩み始めたことが描かれている。

主人公の境遇と自分を重ねて、なんか納得できた。


「そうや、これや」

「うん、これにならな」と思った。


自分の生い立ちを知ってしまったから。



つづく


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