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仕事の選びかた〜小林えみさんの講演会で考えたこと 前編

「よはくのある仕事〜女性の独立系出版社・独立系書店の始め方〜」というタイトルの講演会に行ってきた。
講師はよはく舎・マルジナリア書店代表の、小林えみさんだ。東京都府中市の、市立中央図書館で講演会は開催された。

私は書店が好きだし、とりわけこのマルジナリア書店さんだとか、荻窪のtitleさん、西荻窪のナワ・プラサードさん、柴崎の手紙舎さんのお店など、特色のある個人書店は特に好きだ。ちなみに自遊人さんの泊まれる本屋である、箱根本箱と松本本箱も偏愛している。だから、私自身は別に出版社も書店も始める予定はないが、旧ツイッターで案内を見た、こちらの講演会に赴くことにしたのだった。

まず冒頭で、小林さんはスライドを提示した。

「夢を実現したんですか」
「仕事は毎日楽しいですか」
「書店にある本は自分の趣味ですか」

とよく聞かれる、というスライドだ。

ある意味失礼にも思える質問だが、一方でそう聞きたくなる気持ちもわからないではない。マルジナリア書店はとても素敵な書店だから、趣味でやってるのだろうか、と思いたくなる気持ちは理解できる。実際のところはどうなのだろう?

しかしその答えはNO、だという。むろん、仕事を通して楽しいこともあるし、そういう瞬間もあるが、仮にベーシックインカムがあった場合にも現在の仕事をするかというと、しないだろう、ということだった。仕事はあくまでも生活のために必要なこと。仕事を楽しもうとすること自体に欺瞞があるのではないか、と。
もちろん好きなことを仕事にしても構わないし、仕事の中に喜びはあるが、仕事を楽しもうとすると、無理が出るのではないか、と小林さんはいう。
好きなことを仕事にするよりもっと大切なことは、仕事も含めて人生を楽しんでいるか、ということだ、というのが、小林さんの見解だった。

それを聞いて、私はとても共感した。
小林さんは私より若干年下だが、同世代と言っても差し支えない範疇だろう。私たちの時代は就職氷河期だった。
小林さんは本に携わる仕事をしたいと思い、新卒時に出版社を受けた。小林さんが入社した出版社は、新卒採用がその年3人あったらしい。男性社員は営業へ、そして女性2人のうち1人は経理へ配属予定。編集に配属されるのは1人だという。小林さんも同期の女性も、編集への配属を希望した。しかし、結果的に小林さんが編集、もう1人は経理に回ったという。
そこでもし小林さんが経理を担当することになっていたら、今の人生はなかっただろう、ということだった。だから今の仕事に就いたのは偶然なのだ、と。
小林さんはその会社を3年で辞めて転職し、もう1人の女性はのちに結局、編集部門に異動したらしい。
そして小林さんの知り合いで、他社で新卒で編集者になったものの、辞めた人も複数いる、ということだった。

実は私も昔、ほんの少しだけ編集をやっていた時期がある。新卒の時に入った会社で編集をやって、辞めたクチだ。私はマスコミの仕事がしたくて業界への就職を希望し、出版社もその一つだった。
出版社の仕事は全然嫌いではなかった。でもどちらかというと半ば偶然に、仕事を変わることになった。今は出版とは全く違う分野で、営業の仕事をしている。

ただ、編集の仕事を離れる時に、好きなことを仕事にするのは良し悪しだよな、と思ったことは確かだ。厳密に言うと、編集というよりは記事を書く仕事を、特に私は好んでいた。ただ、仕事となると、自分が好きなことを、好きなようにだけやればいい、ということには当然ならない。だから今では、出版業界にはなんの未練もない。

その当時の私の上司は、優秀な女性だった。いい仕事をした。ちなみに編集の業界には、優秀な女性が多く勤めている。
しかし彼女が最も愛しているのは映画で、出版ではないという。しかし映画は仕事にしたくない、趣味で楽しみたい、とも言っていた。私にもなんとなくその気持ちはわかる。
そして私は、別に自分が営業に向いているとも思えないが、結果的に長い間続けている程度には向いているようだし、大きな会社に勤めているので、効率よく稼げている。

そして文章は、こうして誰にも頼まれたわけでなくとも、好きこのんで書いている。そんな人生を、各論はともかく、全体としては楽しんでいる。小林さんの幸福観と同じだ。(後半に続く)

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