スキゾフレニアワールド 第三十九話「幸せ」

 私は輝からの誕生日祝いと結婚指輪を有り難く頂戴した。嬉しかった。そして大粒の涙を流した。込み上げる感情が胸の中のコップに滴り限界を超えてその喜びが溢れて来る。持病なんてどうでも良くなった。其れからと言う物の、段々病院に通う日数も指折り減って来て投薬も少なくなって行った。主治医の先生と吟味して話し合いを何度も重ねて来た。時には輝も同席しては横から茶々を入れて来た。其れでも構わなかった。私はもう、何も恐れない。過去など良い意味で捨てたのだ。此れで良いと心の底からそう言える。そう想えて成らない。自分の境遇や出生を呪った日も多々有ったけど、その悲しみを覆い隠すほどの愛に包まれて生きて居る。目に見える物総てが輝きで満ちている。其処に他意は無い。有難う輝。私と出逢ってくれて。此の世に生まれてくれて。病気を治してくれて、有難う。愛があれば大丈夫。私は何時迄もこの光の中の輝きを抱き締めていた。婚姻届を出した数カ月後、驚く連絡が入った。守屋君からだった。突然の再開も束の間、画家として大成功していた彼から一つの提案を受けた。其れは私に日本より医療の発達した先進国へ行って治療して見ないかという意見だった。費用は勿論全額守屋君負担らしい。隣りに居た輝は二つ返事で承諾した。過去の恋人の思い出をぶり返すより人間のネットワークの輪を利用して今の幸せをより強めろ、と助言が有った。輝らしい明言だ。私は少しの勇気を出して首を縦に頷いた。何て言ったって輝が居てくれる。こんなに心強い事は無い。私は渡米し、一週間の休暇を挟んで最新鋭の治療を受けた。勿論、周りには気心知れた仲間が居る。こんなに嬉しい事は無い。私は幸せだった。此れ以上無いくらいに。いつしか病魔は風化し、輝と同棲生活を始めた頃にはすっかり健康になった。それでも数ヶ月に一度の通院も大切に欠かすこと無く行き続けた。二人で暮らすアパートは慣れない環境下であったけれども、其処には抱えきれ無い程の愛で溢れていた。私は輝を愛している。その気持に嘘偽りなど微塵も無い。100の無果汁無塩無糖の愛情を彼と一緒に吸い続けた。そして七年の月日が立ち、私のお腹の中には新しい命が宿った。私達は其の尊い生命を『春』と名付ける事になる。

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