スキゾフレニアワールド 第十七話「街」

「行く宛は有るのか?」
「誘って来たのはお前だろ」
「高校生のノリは通用しないぜ?」
「相変わらずだな。小憎たらしい所は何も変わって無い」
「お前も図体のデカさはピカ一だぜ」
 僕と梅澤は街へ繰り出して居た。花の日曜日。こうして会うのもメモの思い出以来。男同士の二人きりの外出は友達の少ない僕にとって貴重なシャバな体験であると同時に、同窓会の様な大人の懐かしさも追体験出来る。ニートの僕にとって新鮮な気持ちだった。 「お前何時に成ったら働くんだ?」
「新聞配達員でもいいな」
 梅澤は大きな笑い声を漏らす。気心知れた僕等だからこそ出来る会話であり彼は何を隠そう、僕の立派な友人だ。特に目的も無く街をブラブラする。募る話もあるので僕等は大型商業施設に入った。雨宮は今日は仕事だろうか。僕の脳内に彼女との思い出が過る。隣の梅澤はテンションが上がってくっちゃべって居る。そんな事知る由も無いし知る理由も無い。小腹が空いたので食事を取る事にした。洋風のファミリーレストランで僕等の胃は十二分に満たされる。席に座った僕等の下へウェイトレスが来る。その女性は言った。 「あんた達っ!」
 梅澤は目を丸くして驚く。僕は自分の境遇を呪った。
「長濱。久しぶりだな」
「驚いた? 此処の時給良いのよ」
 何故雨宮じゃ無い。小さな溜息を吐いた僕を一瞥して続けて言った。
「元気そうで何よりよ。どうせ行く宛無いんでしょ」
「そんな所だ。な、小倉?」
「唆られるねその姿」
「バーカあんたなんか興味無いわよ」
 あの日のお返しと一言吐き捨ててその場を去った。これだから女は。偶然の再会に喜びを隠せない梅澤はマシンガントークで僕に猛攻撃する。僕は其れをただ相槌を打ち聞き流す。気が付けば高校生活の話題に話は変わっていた。同じ街に住んでいるのだから会うのも無理は無い。梅澤は思い出話に花を咲かせていた。僕も其れに少し便乗する。その日、何故か雨宮の名前は一言も挙がらなかった。
 その後の行動は大方其の施設で過ごした。ゲーセンに映画。僕は梅澤と居ながら雨宮ならこう考えて言うだろうと愉しい想像をしては心の奥でにやけていた。其の日は其れで終った。
 此の街は僕等が小さな子供だった頃から、何一つ代り映えしない。変わらない町並みが妙に優しく感じ、明日もこんな夕暮れで終わるんだなと思うと感慨深い物が有った。夜、ベッドに入りながら僕は自分に思える全ての事を思った。僕等の未来。雨宮の未来。その時、僕に閃きが神の啓示の如く降って来た。時刻は十時。遅すぎることも無い。僕はその日、雨宮に一言LINEを送って終わらせる事にした。

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