サイコパス・ドラッガー #09 夢のロマン

 東京は今日も歯車を動かし目紛るしく回る。誰もが幸せになりたいと願い、意識を持ち今日を活きて行く。各々が思い思いに耽け、都会に生きて都会に死ぬ。生命とはそう云う生き物だ。誰も其の輪廻から逃れられない。

「言え阿呆共」

 明日美のテレパシーは拍車を掛ける。何ら変わらない平日に寝耳に水の光景だ。沈黙を嫌う野次馬が全てを察して騒ぎ立てる。

「マジで⁉ 神ってね?」

「落ち着けやお前ら。其れを遣るだけじゃねえか」

「今すぐ新世界へ私を連れてって! 幸せにして!」

「待て!セーブセーブッ!」

 保守派の一人がほざく。心の中では大騒動でパニック寸前だ。上辺だけの顔を演じて次の言葉を全員待っている。国会議事堂で内閣不信任案の話し合いを重ねている総理大臣が参加した。

「待て東明日美。こんな事をしてどうにか成ると思っているのか?」

「言え」

「皆平和に静かに暮らしたいだけなんだぞ⁉」

 居間で母と談笑しながら胸の中で怒り狂った。

「日本は此の儘で良いの⁉ 此れを利用しなさいよ‼ 政治家なら国を救えっ!」

 パンピーが好きな事を街頭演説してる。放け。やっぱり私のシナリオ通りの展開だ。人間の脳なんて小さくて大した事無い。明日美は小さく舌打ちをした。ジュースを飲みながら次の鴨を只待っている。小学生の頃の級友が話し掛けて来た。

「明日美、貴方なの?」

「誰あんた」

「貴方障害者になったの? 久しぶりね。こう云うテレパシーはどう?」

 過去になんて依存しない。私の辞書に「追憶」は無い。

「言え」

「貴方神に成ったの?」

 生温い友情なんて糞食らえだ。私は子供でも何でも無い。次の選択肢は、此れだな。

「日本国民面白い事を言え。貴様等の中にバッドホルモン出すぞ」

「待て! そう攻撃するな‼」

「あ?」

「グッドホルモンを出してくれっ! そう云う系だろ⁉」

 凡ての生命体が息を呑む。こんな現実前代未聞だ。第二世界の母国は米騒動レベルの緊急事態だ。テレパシーに飽きた私は三時のおやつを食べながら昼のワイドショーを呆然と眺めていた。

「下衆が調子に乗りやがって」

 夢のゴールは何時になろうか。誰しもがその桃源郷を望んでいる事は言うまでも無い。

 その日のテレパシーは其れで終った。核でも落として殺ろうかな。塵共。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?