見出し画像

ママゴジラ放射能値は今日いくつ

※短編小説です。
 縦読みが好きな方はこちら→クリック

   ガミガミカウンター


 今日は日曜日。お外は、お日様がニコニコ笑っているお天気。
きっとママはパパに「ヒロトを外に遊びに連れてって」って言う。お掃除の邪魔だからって。そしたら、今、ボクはジャングルジムにはまっているから、パパ、端っこ公園に連れてってくれないかなぁ。
 なんて、思って待っていたのにパパったら
「今日は外はダメだ」
 この間、通販で買ったガンガンなんとかっていう機械を睨みながらパパがぶんぶーんと首を横に振った。
「えーっ、何で」
 ボクが抗議すると
「数値が高い」
「?」
「今日は放射能値が高い。だから外で遊ぶのはダメだ」
「ホーシャ、ノーチ?」
 何のこと? さっぱりわからない。値段が高いってこと? それとも、とーのー病とかいうお爺ちゃんがそれが高いとヤバイって騒いでいる甘い野食べちゃダメっていう病気の何とか値。
 腕まくりをしたママが掃除機を引っ張ってきて、ホースでパパをつついた。
「四歳児にそれ言って、わかると思ってんの? 第一、それ安物の、バッタもんじゃないの。ちゃんと計れるとは思えない」
「どれもこれも品切れで、ようやく入手できたんだぞ。多少、精度は落ちるだろうけれど、全然、使えないってことはないだろう」
 ボクはパパが持ってるガンガンなんとかを覗き込む。
「これ、何て言ったっけ……ガンガンなんとか」
「ガイガーカウンター」
「ガ、イガイガカウンター?」
「違う。イガイガじゃなくて、『ガイガー』カウンター」
「ガイガー戦隊、イガイガジャー!」
 かっと閃いて、ボクは叫んだ。ついでに手を振ってジャンプして、それっぽいポーズをする。
「こらこら、飛び跳ねないの」
 ママがボクをなんとか「める」。あ、たしなめる、だ。
「いっつも言ってるでしょ。マンションなんだから、下のおウチの迷惑になるでしょ」
 ママは、どんどんブリブリしてくる。
「ほら、グダグダ言ってないで、お外に遊びに行ってきな」
 あ。ママのこの口調はサイシュウケイタイの命令だ。
 だが、パパはソファーから立とうとしない。ふんぞり返ったまま
「お前、放射能値が高いのに、子供を外で遊ばせられないだろう」
 ガンガイカウンターをママに見せつけるように掲げた。あ、違ったガイガイ? ダンガイ? だっけ。
「おいおい、ダンガイは絶壁だろう。お婆ちゃんが好きな2時間サスペンス俳優の十八番ネタ」
 パパが、チャチャチャ~ン、チャチャチャチャ~ン♪とお婆ちゃんがよく見ているドラマの音楽を口真似する。
「何が《チャチャチャ~ン♪》よ。全く。おもちゃみたいなもんに振り回されちゃって。バカじゃないの。外がダメなら、イチバンドーとかイオリアとかに行けばいいじゃないの。屋内でしょ。子供が遊べる遊戯スペースがあるし」
「日曜日はあそこ、すげー混んでんだよ。子供が阿鼻叫喚だよ」
 パパが心底嫌そうな顔をした。ボクも嫌だ。たまに意地悪な子がいるし。遊ぶったって、四角や丸のクッションがいくつかあるだけじゃん。つまんない。それだって、人がいっぱいいると触れもしない。あ。でも……
「サテンワンのアイスクリームか、マッタナルトのポテト」
 食べてもいいなら行ってもいい。
「だーめ!」
 ママがピシッと言った。もう、ママはケチなんだから。
「アンタねぇ、掃除する間の時間ぐらい、子供と時間を潰せないの? できないなら、アンタが掃除して」
「俺は、昨日、風呂掃除しただろう」
「それぐらいで偉そうに……」
「じゃあ、昼飯作ってやるよ」
「はぁ? 作ってやるよ? 何、その恩着せがましさ。料理は食材を用意するところから始まんのよ。そして、使った鍋釜、食器の後片付けまでがセット。アンタ、いっつも作りっぱなしじゃないの――ちょっと、ヒロト、絨毯の毛を毟らないの!」
 ママ、ヒートアップ。もう止まらない。パパは堪らない。ボクも堪らない。絨毯の毛毟りしたくなるよ。
 ママが叱るからボクは絨毯の毛毟りを止めて、リビングを端から端まで棒状になってコロコロと転がった。だって、退屈なんだもん。
「ああ、転がらない! 服に埃がつくでしょ! まったくもう、どいつもこいつも」
 毛毟りもダメで、転がるのもダメなら、何ならイイの? 何をしたらママはガミガミ言わないの?
 パパがとうとう耐えきれなくなったのか、ガンガン? カウンターをソファーの隅に放り投げて、立ち上がった。
「ヒロト、イオリアに行くぞ」
「アイスもポテトもダメだからね」
 ママがまた吠えた。
「じゃあ、マスタードーナツの……」
 パパがママの揚げ足(揚げ! ますますフライドポテトが食べたくなっちゃった)をとるように言いかけたところで
「ああ?」
 ママがヤクザの人みたいにパンチ……じゃなくてメンチ(また揚げ物! やっぱりポテト食べたくなるぅ)切った。怖い。
 ふと、パパが放ったガリガー? カウンターが目に入った。ボクはパパの服の裾を引っ張って、そっと言った。
「ねえパパ、あれでママのガミガミは計れないの? 無理なの? じゃあ、ママのガミガミ度がわかるガミガミカウンターも買ってよ」

 〈了〉


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?