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東京大学の『ギフテッド講座』に行って。

 2023年、1月、私は宮崎県から上京し、東京大学のギフテッド講座に行ってきた。2022年から公募された『ギフテッド講座』に被験者として選ばれたからだ。羽田空港へ母と降り、そのまま品川駅から東大駒場前駅に降り立ったとき、初めて東大のキャンパスの中に入った。

1月の冬、多くの学生がキャンバスの中に入っていた。


 東大の中は都心部なのにとても広くて当たり前だけど、アカデミックな雰囲気が漂っていて、居心地は悪くなかった。母を東大キャンバスの中に置いて、時計塔の中の4階で私は心理士さんに連れられ、中に入り、心理検査や知能検査を受けた。
 2022年の秋に東大のほうで『ギフテッド講座』の応募があったので試しに応募したところ、後日メールが来たので驚いたが、私が被験者になろうと思ったのは理由があった。
 
 私は小学6年生の頃、発達障害の一種、高機能広汎性発達障害と診断されている。通常、発達障害と診断されるには知能検査を受ける。11歳の私は丸半日知能検査のWISCを受け、その日のうちに知能指数を知った。
 最高値の言語理解IQ138を筆頭に全体の数値がIQ124だった。当時の主治医から『小学生の頭に大学院生の頭が乗っているようなものだ。良かったね、苦労すると思うよ』と言われたが、残念ながらその予想は的中したようだった。
 
 私は14歳の時に解離性障害・複雑性PTSDを発症し、15歳から23歳まで入退院を17回も繰り返している。高校も転科を含めて5回も居場所が変わり、転校先の不登校児を支援する高校でさえ、支援を受けられず、17歳の時に高校を中退している。
 10代の大半を閉鎖病棟に入院していたので自分が勝ち組だとは少しも思っていない。むしろ、敗者と云うべきか。
 26歳の時に九州芸術祭文学賞次席入選と思考の整理学エッセイ賞で優秀賞をもらい、診断時のIQを理由に東大のギフテッド講座に被験者として参加した。
 東大の中で丸半日缶詰めになって大人になった再び、WAISを受け、だいたいの自分の知能指数を知った。知った、というのは注釈がいる。私はその検査後の数値の相談を受けていない。

さすが、東大だなあ、と思った立て看板文化。

 自分が被験者になったのはもう、自分のように苦しむ子供を減らしたい、という願いだったので今更、数値を知っても私自身の人生が好転するわけでもない、と思ったからだ。
 それでも、心理士の多田さんは言語理解、言語能力の分野では小学生の頃よりも数値が伸びている、と指摘してくれた。数値で言えばIQ150から160近くになるろう、と付け加えた。しかし、処理速度などの数値は精神薬を服用している影響で平均よりも低い数値になるかもしれない、と指摘された。
 
 なるほど、と思った。つまり、できる部分の数値と苦手な部分に相当な開きがあるのが私という人間なのだろう。小学生の頃よりも書く力はついてきたし、賞もいただいたのでだいたいそんな数値なのかもな、と予感はしていたが。
 言語能力の高さを知っても私は自分が勝っているとは思えない。東大のキャンバスの中に見学して、閉鎖病棟では全く違う雰囲気に私は何度も考えた。
 
 最近、テレビやニュースで『ギフテッド』が話題になることが多いが、私は何となく、傍観している。高IQと診断されても私のように不遇な人生を送ってしまうケースもあるし、高IQはあくまでも指標の一つでしかなく、絶対的な幸福を約束する検査でもない。もちろん、ギフテッドと紹介された子供たちがかつての私のように閉鎖病棟に入院して、つらい思いはしてほしくない、と思う私も確かにいる。

この建物の中で検査を丸半日受けた。中はノスタルジーな匂いがした。

 しかし、この胸騒ぎは何なのだろう。自分の青春時代が返ってこない憤りなのか、それとも、ギフテッドが話題になりすぎることで、社会に分断が生まれることに対しての不安感なのか。
 東大のギフテッド講座に行ってもうひとつ分かった概念の一つがある。それは『過度激動』という特性だ。私はASDと診断されたがASDよりも『過度激動』の特性のほうが強い、と感じた。

https://desc-lab.com/44827/

 過度激動の検査を受けて自分が今まで生きづらかったのは過度激動があるからだ、と分かり、東大に行けたのはそれだけで収穫だと思った。私自身は通信制高卒であるし、もう大学で授業を受ける機会は経済的に厳しい、と思うが、東大の中を散策できたのはいい思い出にはなった。
 いわゆる発達障害と診断されたギフテッド(もしくは高IQ)の子供が必ずしも、経済的に恵まれ、人生が楽々だという現実があるわけではない。それは私の人生が証明している。
 私の家は母子家庭だし、入院費がかさばって大学進学を諦めるしかなかった。教育格差には理不尽を覚えるし、理解が足りなかった学校側にも悲しみを覚える。
 それでも、この東京大学で受けた『ギフテッド講座』で養われた経験を社会に生かそうと思う。

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