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不安にさよならを

 久々の投稿となる。社会人となり初めての投稿になるだろう。駄文を書き連ねて見苦しいかもしれないが、最後まで見ていただきたい。 

 新聞記者という仕事を始めて二か月が経った。配属されて2週間は訳が分からない仕事を、訳の分からないまま続けていた。

 最初は取材先に上司と共に挨拶。相手から言葉を引き出す技術や心得を目で見て、耳で聞いて学んだ。例えば同じ取材をしていた上司は、取材先で雑談を得意としていた。

 日々の話題から政治、社会、経済そして話の流れで核心へ、紡ぎ出される言葉はいずれも自信とデータによる裏付けがあった。

 取材相手は新聞記者のグレードを見定めていたと思う。つまり「自らが情報を話すのに足るような記者なのか?」若しくは「話すだけのリターンのある人間なのか」を判断していた。
 
 そんなハードルを上司は雑談で軽々飛び越える。憧れを抱き、自分も真似してみようと些細な言動にも目を配ろうとした。

不安と涙

 2週目になると、少しずつ自分で取材することが増えてきた。ここでも壁にぶつかった。そもそも自分は記者としてどこに取材して、何をネタとして聞いてくれば良いのか分かっていなかったのだ。

 気持ちが段々と暗くなってくる。「先の見えない記者人生」と「書かないといけない、ネタを取らないといけない」という焦りが原因だった。
 
 これまでインターネットや紙媒体で目を通して受け取る側であった新聞記事を、自分が作る側に回ることがどういうものか分かっていなかった。
 
 所属部署は上意下達というよりは、自ら取材先を開拓してニュースとなる事象を聞いて記事にしなけばならない。かなり自由な反面、事前知識や取材経験、ノウハウの蓄積がなければ難しい。

 心の中のモヤモヤを土日の休みに抱え続け、月曜日の朝の寝起きで体がとても重くベッドから起き上がることがとても辛く感じた。

 かなり鬱屈としていた顔をしていたのだろう。9時ごろ出社してすぐにデスクにカバンを置いて椅子に座ったタイミングで上司に声を掛けられた。

 「コーヒーでも飲みに行こう」。

 その日は10時から取材の予定が入っていた。約束の時間までたった1時間ほどしかない。上司に話すと、机に載っていた取材道具一式をカバンにしまうよう促され、上司に連れられてオフィスを飛び出しそのままエレベーターに乗り込んだ。

 「なにがあったの?」。上司にエレベーターで話掛けられた。そこで決心がついた。洗いざらい上司に話してみようと思ったのだ。

 話してみると自分がどうして不安だったのか。それがはっきり分かってきた。涙が突然あふれてきた。「チンッ」というエレベーターの到着音でエレベーターの扉が開いた。

 するとエレベーターホールでドアが開くのを待っていた出勤する沢山の社員に出会ってしまう。目線が痛かった。ハンカチで涙袋と口を押さえながら俯き、逃げるようにして上司についていく。

上司とコーヒー

泣いた日に一人で飲んだアイスコーヒーとガトーショコラ(上司と飲んだコーヒーとは別)

 あたたかいコーヒーの湯気が顔にあたる。両手で包むようにして飲んだ。上司には今まで感じていた取材を続ける中での怖さ。分からない不安。記事を書けない焦り。話してみると心が少し落ち着いた。

 上司がコーヒーをすすって、ゆっくりと口を開いた。「そんな焦らなくていいです」。上司は自分がデスクで悩む姿や不安を感じていることにしばらく前から気付いていたらしい。

 励ましてくれたあと、育成方針についてわざと取材を手取り足取り教えないことや取材を指示しない理由を話し始めた。

 上司は業界が縮小し、新人の自分が今後記者としてキャリアを積むうえで、価値ある記事を書けるよう自分なりの取材アプローチや考え方を確立してほしいという意図があったのだという。

 コーヒーを飲み終わり取材先に向かう。焦る必要はない。自分がやっていることや失敗は悪いことではない。そう思うと歩いていると不思議と気持ちがスッキリしたような感覚がした。

 ビルとビルの間の青空を覗く。自分はひどく馬鹿らしい悩みをしていたように思った。新人記者から少しずつ成長できるように頑張ろうと思う。

お昼休みに眺めるビルと青空

 

 

 

 
 
 


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