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【フィナンシェ話#10】ありがとう、から始まる金融教育

 様々なバックグラウンドの方に伺う、子どもとの買い物、お小遣い、お年玉、寄付や投資のこと…。そこから自分の子どもにつながるフィナンシェ(金融家)なヒントを探ります。

 今回は株式会社パワーソリューションズ取締役 高橋忠郎さんにお話を伺いました。高橋さんは、金融(主に資産運用会社等SMB)向けのSIer(エスアイヤー)での経営企画やデジタルインテグレーション推進のお仕事に加えて、『一億人の投信大賞』の選定委員でもあります。投資に普段から関わっていらっしゃる一方、プライベートでは、3歳と5歳のお子様のパパです。そんな高橋さんがお子様にどんな金融教育をしようとされているのか、そのアイディアを伺いました。

■  投資信託の「多すぎて選べない」を解消したい

—―高橋さんは、『一億人の投信大賞』に関われれています。どのような問題意識があったのでしょうか。

高橋さん:『一億人の投信大賞』は今年で8年目です。私は資産運用会社向けIT関連の業務を行なう会社の役員をしており、普段から運用会社が身近な所にありました。今の会社出の仕事が10年を迎えたころのことです。会社としても個人としても、もっと業界に貢献したいという想いで何かできないか? と考えたときに、『一億人の投信大賞』という企画と出会い、選定委員として参加することになりました。私と同世代、というか多くの働く世代の人が投資信託で資産形成を始めようと思った時に、最初に感じるであろう「多すぎて選べない」という問題。この問題を解決すべく、どの金融機関からもお金をもらわず、良い投資信託に関する情報をお伝えできたらと、1年に1回アワードの結果発表をしています。この活動が投信の定番、ロングセラーを知ってもらうきっかけになればと思います。

未就学には、「ありがとう」の積み重ねが大事

――さて、今回のテーマである金融教育ですが、一般的なイメージである金融教育=株式投資の知識ではなく、フィナンシェの会では消費や寄付などの視点も意識しています。高橋さんは親子でお金についてどんなコミュニケーションを取っていますか?

高橋さん:私の子どもは5歳と3歳。なので、買い物ごっこはするけれど、たとえばお金って何なのかはよく分かっていないような感じです。
 金融教育というと違うかもしれないですが、家の中では「ありがとう」が重要なキーワードなんです。色んなところで言われていることですが、お金は「ありがとう」の対価であるということ。買い物をするときは、店員さんに「ありがとう」を言う。食事を出してもらう時にはウェイターさんに「ありがとう」と言う。売ってくれてありがとうだし、買ってくれてありがとう、でもある。「ありがとう」と言われることが多くなるようにすることが根本だと考えている。はっきり言ってそれしかやっていないですね。

 買い物だけではありません。家族もある意味コミュニティなんです。コミュニティに貢献すること自体が子どもの役割だとすると、お皿を洗う、誰かの洋服や靴を揃える、ピアノを弾いて聴かせてくれる・・・、コミュニティを良くするために子どもが貢献してくれるような行動には、親として「ありがとう」を言うようにしています。子どもが夜寝る前に「今日の『ありがとう』」は何だったかを話す時間を作っています。「ありがとう、と言われたことは何?」「ありがとう、と思ったことは何?」という感じですね。一緒に住んでいるおじいさん、おばあさんから「折り紙を折ってくれて『ありがとう』と言われた」とか、「今日はこんな時に『ありがとう』と言われたんだね」と会話をします。

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 最終的には、「ありがとう」がお金の本質につながることを理解してくれたら、という考えです。これは、夫婦で決めていることですね。大きくなったらどうなるか分からないですが、10歳くらいになってお小遣いを渡すときに、「ありがとう」の積み上げがお小遣いにつながっている、ということが分かれば良いなと思っています。

■ 投資信託のレポートから拡がる視野

――夫婦でそのような話ができるなんて素敵なことですね。お小遣いを渡すタイミングはどのように考えていらっしゃいますか。

高橋さん:お金に興味を持って買い物も自分でするようになるだろうということで10歳くらいから、と考えています。妻には「それまでにお小遣いをどんな設計にするか考えないといけないよ」と言われている。

 お小遣いは、2つに分けようと思っていて。私たちは「お小遣いの設計」と呼んでいます。「ありがとう」というコミュニティに貢献していることによるお小遣い。もう一つは、今あるお年玉などまとまったお祝いのお金と、その後継続的に娘たちの将来に対して親である私たちが一定のお金を毎月投資信託に投資して、その一部から取り崩すお小遣い。投資成果の要素を加えることで、お小遣いが先月よりも少なくなったり多くなったりするじゃないですか。「なんで金額が変わったんだろう?」と考えるようになるだろうと思っていて。

 なんで、お小遣いの金額が変わったのかは、投資信託のレポートを子どもと一緒に見て考えたいです。たとえば、「今月はトヨタが良かったんだね、家の車は違う会社のだよね」とか、「この会社はこんな良いことをやっているんだね」という会話をしたり。あと、どんな会社・職業があるのかという視点で「こんな仕事もあるんだね」というキャリア教育にもなるだろうと。興味が広がるきっかけをつくりたいです。15歳くらいになると、ビジネスモデルも理解してきて、「これは儲かるよね」という会話や、ビジネスモデルを考えるのが楽しくなって起業したいと思うかもしれない。18歳くらいまでは、一緒に伴走したいなと思っています。

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――実際には、今の運用会社が出しているレポートが難しかったり、組み入れている企業の説明が簡単すぎたり、子ども向けではない印象もありますが。

高橋さん:お小遣いの元として選ぶ投資信託はどうしようか、という話はよくしています。選ぶのは私のタスクでして。情報開示が優れていて、投資先とのコミュケーションが取れる投資信託。それは、外国にも視野を広げた方が良いのか? そういう観点なら、どの投資信託がいいだろう? と考えていますが、本当に選べないです・・・。

 会社の規模が小さすぎては、子どもにとって身近な会社ではないかもしれない。車の会社に投資をしている、という説明ではなくて、車でこんなサービスを展開しようとしている、という会話のきっかけになるレポートが出ていると嬉しいなとも思います。大人でも15歳でも、読んで分かりやすい説明をしてほしい。あとは、SDGs関連の情報提供もしてほしいですね。

 投資したらしっぱなしではなく、お金を預けたところから得られる知見ってあると思うんです。だから、運用会社のレポートはもっと良いものができるんじゃないかな、と。ビジネスマンには仕事で必要な情報、学生にも将来行きたい会社が見つかる情報など、投資信託をこう利用しようとするという人は聞いたことはないですが、力を入れてほしいですね。

――「投資=資産形成」に限らない、ということですよね。

高橋さん:運用会社から得られる情報があるのに、何もしないのではもったいないのではないかと思います。その企業はどんな「ありがとう」をもらって、この人たちは利益(お金)を積み上げているんだろう? と子どもも意識してくれるようになれば良いなと。

■ ママ銀行とパパ証券!?

――普段の会話の中で、会社の話などが話題に出てくることはあるのでしょうか。

高橋さん:まだそこは全然できていなくって。今はちゃんと、「ありがとう」を言おうと思っている、それだけですね。お金をもらうのはどういうことなのか? が何となく「ありがとう」でつながれば良いなと。
 私と妻との間では「お小遣いの設計」の話題が多いです。時給みたいに「ありがとう」コインを入れるのは良くないだろうとか。お皿を洗ったから100円、ではなくて喜んで気持ちよくやっているから「ありがとう」なのではないか。嫌々お皿を洗ったら、そこに「ありがとう」の価値はないんじゃないかな、とか。単に労働したとか勉強したからお金をもらえる、というのは嫌だな、と話していますね。

――結果的に、どのような仕事を選ぶかにもつながりそうな視点ですよね。

高橋さん:お金をもらっている、イコール「ありがとう」をたくさん言われている、という理解になれば、お金をもらうのは悪いことではないなと思うんじゃないかなと。お金を稼ぐのは悪いというのは大人になるとなんとなく雰囲気がありますよね。

――ところで、お年玉を既にもらっているようですが、どのように管理されていますか。

高橋さん:お年玉は、今は何の意味のないですが、ママ銀行とパパ証券に分けていて。ママ銀行で管理するお金は日常生活で使っていいよ、パパ証券に預けたお金は(実際、両方妻が管理しているんですが)すぐには引き出せないよ、と言っています。5歳なので「お父さんの話は分かんない」と理解していない様子ですが。

――それは面白いアイディアですね。今は分からなくても、続けることで何か思うところが出てくるのでしょうね。

高橋さん:実際には、パパ証券に預けたお金は今投資もしているのですが、10歳になったら、子どものお小遣いの元として、選んだ投資信託に入れ替えようと思っています。そのうち、お金に興味が出てきて、「お父さんは何をやっているんだろう?お金は減っているかもしれない。増やしているかもしれない・・・」と段々分かってくると良いですね。

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 子どもはお金に関心がないから、まだ教えなくても良い。そう思いがちかもしれません。ですが、高橋さんの「ありがとう」の積み重ねがお金につながっていく、ということは、お金に興味がわく前から、身に付けておいてほしい概念ではないでしょうか。フィナンシェの会も、そのお金はどこから来たもの?という視点を大切にしており、どんな人まで「ありがとう」が届いているのだろう、と想像する力を育んでほしいと考えています。

 10歳以降から計画されている「お小遣いの再設計」やパパ証券が、2人がお子様が大きくなった時に、どのように受け入れられるのでしょうか。ぜひまたお話を伺いたいです。

 お忙しい中、お時間を割いてお話くださった高橋さん、ご紹介して下さった平田さん、ありがとうございました!

(取材日:2021年2月9日)

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