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ブロックチェーンスタートアップから見る、生成AIとデザインの現在地

Final Aimの横井康秀です。

デザインやクリエイティブ産業に大きな影響を与えている生成AI。デザイナーとして、またブロックチェーンのスタートアップを経営する人間としてこの動向に大きな可能性を感じている一方で、注意するべきポイントも多くあるはずだというのが正直な印象です。新技術が社会にもたらすものについて、いったん冷静に、この潮流を捉えてみようと思います。



生成AI(ジェネレーティブAI)とは?


生成AI(ジェネレーティブAI)とは、学習データを活用してオリジナルのデータやコンテンツを生成する人工知能の総称です。人間が整理・構造化していない膨大な情報をみずから学習することで、既存データの延長線や予測ではない、新たなコンテンツや提案を高速に生み出すことができます。

テキスト生成AIのChatGPTを火付け役に、世界中の人があらゆる場面でAIを活用しています。ChatGPTのエンジンとも言えるGPT-4がMicrosoftのウェブブラウザBingに搭載されたこと、また画像生成AIであるStable DiffusionやMidjourney、Dall-E、Adobe Fireflyの登場も大きなニュースになりました。


生成AIを活用したクリエイティブワーク


エンターテインメント:
映画「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス(Everything Eveywhere All At Once)」

アカデミー賞の作品に動画生成AIツールのRunwayが活用されていました。

The Impact of Generative AI on Hollywood and Entertainment (MIT Sloan Management Review)


UI/UXデザイン:Figma

ウェブブラウザベースでデジタルプロダクトやインターフェースをデザインするためのツール、コラボレーションプラットフォームとして急成長したFigma。インターネットから収集されたデータとAIアルゴリズムに基づいた利便性や使い心地を提供しています。


カーデザイン:トヨタ

トヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)は、カーデザイナーがテキストプロンプトを通じてデザインスケッチやプロトタイプを作成することのできる生成AIツールを発表しました。造形的なアイデアだけでなく、工学的な制約を考慮したデザインを提案可能ということです。

Toyota Research Institute unveils generative AI-powered vehicle design tool (VentureBeat)


製造業:Autodesk

Blank.AI というスタートアップを買収したAutodesk。最先端の生成 AI 技術をもとに、3Dのコンセプトデザインをわずか数ミリ秒で作成できるようになったとのことです。同技術は最初にカーデザイン向けツールに採用されるとのこと。過去のデザインを集めた企業ライブラリからデータを引き出し、既存のデザインスタイルとガイドラインに基づいた新しいコンセプトを迅速に生成します。

AI in the design studio: Welcome to BlankAI (Autodesk)


生成AIと著作権・知的財産の関係


さまざまな生成AIツールと表現が生まれている一方で、そのもととなる学習データを巡る議論が多数起きています。


Midjourneyで制作した作品の著作権保護を拒否

米コロラド州で開催されたファインアートコンテストのデジタルアート部門で、画像生成AIツールMidjourneyを活用した作品が優勝。米国著作権局審査委員会は本作を「人間による創作物」ではないとして、著作権保護を拒否したことが報じられました。作者は生成AIの使用を認めており、当局の決定は想定内であるとして、それでも「最後には自分たちが勝つ」と確信しているそうです。

US Copyright Office denies protection for another AI-created image (Reuters)


The NewYork TimesがOpenAIとMicrosoftを提訴

米有力紙のThe New York Timesは、同紙の記事データがAIの学習データとして無断で使用されたとして、OpenAIとMicrosoftを提訴しました。報道機関がAI開発企業を訴える初の事例と言われており、他の報道機関やAI開発企業にも今後影響が広がる可能性があるとされています。

The Times Sues OpenAI and Microsoft Over A.I. Use of Copyrighted Work (The New York Times)


Google、Adobe、Microsoft などの大企業が顧客向けの補償義務を発表

Googleは自社のプラットフォームで生成されたコンテンツによって生じる著作権訴訟のリスクに対して、顧客企業への補償義務を負うと発表しました。ただし、この補償は意図的な権利侵害の場合には適用されません。AdobeやMicrosoftも同様の措置を発表しており、生成AIの利活用と知的財産権は大手プラットフォームも最重要課題と捉えていることがうかがえます。


日米の当局が意見募集を実施

2023年8月、米国著作権局は生成AIと著作権に関するパブリックコメントの受け付けを始めました。世界中から寄せられたコメントは1万件を超え、それらはすべて下記サイト(Regulations.gov)で公開されています。
※現在は締め切られています。

Artificial Intelligence Study (U.S. Copyright Office),
US Copyright Office wants to hear what people think about AI and copyright (The Verge)


日本においても各業界や省庁において議論が活発に行われています。文化庁では文化審議会著作権分科会において、令和5(2023)年6月よりAIと著作権の関係について審議を行っており、2024年1月には国民からの意見募集を開始しました。


デザインの現場でとるべきアクション


生成AIの登場によって、例えば以下のようなデザインの過程を明確に記録・共有することがよりいっそう重要になるでしょう。

  • どのようなアイデアプロセスを経たのか

  • どのようなツールやプロンプトで生成したのか

  • どこまでがAIで、どこからが人間の創造によるものなのか

  • 最終デザインや契約書、知的財産権に関する情報は管理されているのか

そこでは複数の人間や専門家、文書による管理という従来のプロセスのみならず、ブロックチェーンやスマートコントラクトといった現代的な技術も有効であるはずです。コンテンツやデータの対改ざん性やトレーサビリティ、透明性を担保し、より強固な管理を実現することが求められています。

こうした対改ざん性や透明性、本来備わっている真実らしさを、私たちは「真正性(Authenticity)」と呼んでいます。デザイナーやクリエイターが持つ創造性が、その過程や権利も含めてきちんと守られる、真正性の伴うクリエイティブコミュニティ。私たちがFinal Designというプラットフォームをとおして実現したいもののひとつです。

次回は、生成AIを活用したモビリティのデザインについて、実例や動向を紹介します。


横井康秀(よこい・やすひで)
株式会社Final Aim 最高デザイン責任者。日本生まれオーストラリア育ち。多摩美術大学卒業後、株式会社ニコンを経て3Dプリントのスタートアップに初期参画。デジタル製造プラットフォームを立ち上げ、2017年に東証一部上場大手企業にM&A。2019年、ブロックチェーンスタートアップFinal Aimを共同創業。デザインと新規事業の創出に取り組む。2024年、データの真正性を守りデザインに新しい価値を与えるプラットフォーム「Final Design」をローンチした。
Final AimLinkedIn / Facebook / www.yasuhideyokoi.com

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