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『哀れなるものたち』/映画感想文

原題:『Poor Things』

クセつよつよのヨルゴス・ランティモス監督の最新作。
ベネチアの金獅子賞。オスカーでも有力候補です。

1. あらすじ

胎児の脳を移植された女性が”第二の人生”を歩みながら世界のいろいろを知る。
ファンタジー要素強め。

2. 点数

75点

キャスト、美術、音楽はハイレベル。えぐい性的描写も多くて個人的には好き。

ただストーリーが途中からダレてしまった。
旅する場所があと1か所少なくてもよかった。

3. 感想

フェミニズム映画なのか

本作をフェミニズム映画に位置づける声が多い。
そもそも「フェミニズム映画」ってなんやねん、というツッコミはさておき、個人的にはフェミ要素は特に感じなかった。

偶像に女性を投影してその葛藤や成長を描くという点で、去年の『バービー』と比較される。

バービーとは違って、明確に性差を際立たせなかったことがフェミ要素の希薄化に影響している。
男性監督という点も関係しているかもしれない。

少女の大冒険

奇抜な設定やデザインに翻弄されがちだが、メインストーリーはいたって単純。
軟禁されていた少女が外界に飛び出し、様々な人と出会うことで知識を得て、困難を乗り越え、成長する。

おなじみのジブリ的ストーリーライン。
『千と千尋の神隠し』とか『君たちはどう生きるか』に似ている。

冒険によって主人公が知得したものを挙げると、

外界、性の快感、彩り、音楽、感情、会話、貧富の差、社会構造、哲学、思想、カネ、勉強、(性)ビジネス、やり手ババァ、家族愛…

キリがない。実際にはもっとある。

この成長幅が感動を呼ぶ。
逆に詰め込みすぎにもつながる。

ラストは皮肉さを残しながらもさらなる知識欲、上昇欲を感じさせる(社会主義への傾倒は気になるが)。

どこまでいくんだ、この成長モンスター。

タイトルの意味

原題は『Poor Things』
同名の原作本があるようで。

「なんで”things” なんや! モノの話じゃないだろ!?」
と鑑賞後に混乱したが、原作があるとは知らずで。

原作未読なのでなんとも言えないが、things はpeople の意味に近いのではないか。
本作の登場人物は「哀れなるひとたち」として描かれる。

主人公:成長過程なので仕方ない部分もあるが、性快楽に飲み込まれた。今後も破壊的思想に支配されそう。

ダンカン(マーク・ラファロ):お得意のテクニックで快楽堕ちセ●レ化計画を達成しかけるも、少女の成長についていけず。逆にメンヘラ彼女の独特な魅力にどっぷりとハマり、抜け出せなくなり廃人に。

バクスター(ウィレム・デフォー):黒の組織もびっくりのマッドサイエンティスト。家族に愛されなかった反動で疑似家族を望んだという悲しい背景はあるものの、やってることは完全にアウト。

マックス(ラミー・ユセフ):哀れさは軽微。メンヘラ少女に心を奪われたのが運の尽き。帰還したモンスターとの生活を選んだが、未来は果たして。

新たな支配者、その先へ

ラスト。

ようやく人間らしい生活を手に入れた主人公の前に立ちはだかった、支配欲の塊の元夫。
こいつを消さなければという欲求に駆られ、出生時に自分にされた仕打ちと同じ方法で(むしろそれよりも悪質)残酷な返り討ちを成功させた。

展開として、そしてなによりビジュアルが気持ち悪い
でもこの気持ち悪さはすきだ、ランティモス監督の良さ。

この返り討ちにより、主人公はあの庭園の支配者となった。
みんなニコニコ笑ってお茶なんか飲んでいるが、逆らえない力関係が存在する。

主人公は今後医者を目指すらしい。
疑似父親の歩んだルートを追ってしまうのか、それとも。。

先行きは暗い。

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