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『PERFECT DAYS』/映画感想文

この記事を開いたそこのあなた。

役所広司、すきですよね?

社交ダンスを流行らせたり、どえろい不倫逃避行をかましたり、汗臭いヤクザ刑事で暴れたり、とことん役になりきって楽しませてくれる。

そのくせ、インタビューとかでは
「いや、別に自分は、、」
と下向いてシャイになるかわいいおじさん。

役所広司の才能が詰まった本作であり、カンヌ主演男優賞はまさにご褒美。
ひたすらに役所広司を愛でる映画です。

(東京国際映画祭の10月の先行上映にて鑑賞)

1. あらすじ

トイレ掃除→風呂→寝る
トイレ掃除→風呂→寝る
トイレ掃除→風呂→寝る

2. 点数

81点

役所広司へのえこひいき。
アート性が高いものの不思議と吸い込まれたのは、映像から伝わる静かな息遣いと役所広司の存在そのもの。

作品賞ではなく主演男優賞受賞も納得。

3. 感想

東京の風景

主人公の住まいは亀戸付近のボロアパート。
毎日朝早くに用具を積んだ軽トラに乗って、渋谷区のトイレ掃除に向かう。
午後仕事が終わると、墨田区の銭湯に行きリフレッシュしてから浅草周辺で夕飯。

生活圏は東京の東側、隅田川周辺。総武線や東武沿線。
『アド街ック天国』が好んで取り上げそうなエリア。
薬丸さんがドヤ顔で語りそうなエリア。

これといってノスタルジックな景色はないが、それっぽい映像にされるとどこか懐かしい、不思議な感覚。
店名などで検索すればすぐにヒットするので、聖地巡礼は簡単そうだ。

他方で職場のトイレはどこもとにかくおしゃれで、「これがトイレなの?!」と驚かされる。
おそらく都が全面バックアップしていて、Tokyo のイメージアップに貢献してくれている。

こちらも場所は公開されているので、”モダン建築トイレ巡り”をしてみるのもいいかもしれない。

孤独で強い男

主人公は孤独だ。

性格的に寡黙というのもあるが、仕事は基本誰とも喋らずに完結する。黙々と掃除をして終わる。
仕事は手を抜かずに勤勉。汚れを残さずピカピカに仕上げる。

仕事以外も地味そのもの。
銭湯に行き、ご飯を食べ、家に帰って鉢植えに水をやり、読書をして、寝る。
ガラケー民。静寂の生活。
家はボロく、残念ながら裕福にはみえない。

休日はすき間時間で撮った写真の現像とチェック。
しかし写真が趣味というよりは、自分の中の基準に達しない写真をばっさりと捨てる機械的なドライさを感じる。

石川さゆりがママをしている小料理屋に通っており、ここが唯一の他人との接点といえる。
ママさんに恋心(の5段階前)のような感情を抱きながらも、脆くも打ち砕かれ、行き場のないモヤモヤが沸き上がったに違いない。
もちろんそんな感情を誰かに吐き出したり愚痴ることもなく。


このような生活に憧れるか?と聞かれたら、答えはNoだ。

だが蔑んでいるわけではない。
それは主人公が孤独でありながら満足そうに生き生きとしているからだ。

自分の生活を静かに、正直に、誠実に生きることは、たとえ孤独でも十分幸せなんだよと背中で語っているようだ。

これはとても心が強いからできること。
誰しも他人と比べて、「充実した」生活かどうかを判断してしまう。
主人公は自分なりのしっかりとした太い幹を持っていて、これまでもこれからもブレそうにない。

誰よりも強い。

さみしいは不幸なのか

主人公が感情を見せる2つのシーンがラストに用意されている。

・1つ目は妹との再会シーン。
家出をしてきた姪(妹の娘)との唐突で短い共同生活が終わり、母親に引き渡すことに。

妹は主人公と違って裕福。運転手付きの車で迎えに来る。
この裕福さは実家由来なのか、結婚した夫が金持ちなのかはわからない。
しかし、主人公と実家の不仲が示唆されることから、なんとなくだが実家もそれなりに裕福だろうと予想される。

「なんでこんな生活続けてるの」と言いたげな妹に対して、主人公は気丈に振舞うも涙があふれる。
叫びたい言葉をぐっと飲みこんで。歪な感情をぐっと押し込んで。

現在の生活に至るまでの苦しい過去があったことは明らかだが、詳細は語られず観客の想像に委ねられる。

・2つ目はラストシーン。
いつものように軽トラに乗って朝早く出勤。
その日の気分でカセットテープの音楽をかける。

いつもとなにも変わらない朝なのに、目から涙がこぼれる。

涙を流しながらハンドルを握る役所広司の顔を正面から捉えるだけのカットをじーっと長回し。

ここでも涙の理由はわからない。観てるこっちまで苦しくなる。
でも朝焼けの中でどこか清らかな涙を見つめて映画は終わる。


この2つのシーンから、主人公はさみしさを感じていることが想起される。

泣いていたからという単純な理由もあるし、かろうじて他人と薄いかかわりを経験しながらも自分のもとには誰も残らない事実、そして自分の過去と未来への後悔も不安もあるだろう。

そうならこの主人公は不幸かというとそうではないと思う。
いや、個人的にそう思いたいだけなのかもしれないけど。

「そりゃさみしいけどさ、自分なりに考えながら生きているし、そこそこ充実してるよ」
というおじさんの強がりと決意。

世間が思うような幸せからはかけ離れている(imperfect)けど、自分が楽しんでれば『PERFECT DAYS』やん?


タイトル回収。


孤独なひと、孤独を好むひとにとっては温かい応援映画になる。
他人と関わっていたいひとにとっては哀れなおっさんの映像日記になる。

万人におすすめできる映画ではないけれど、俳優のグレードとしては史上最高レベルに達した役所広司を堪能するにはうってつけの映画です。


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