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短編小説:キャバクラおじさん

<原文>

<タイトル>
キャバクラおじさん

<ベースストーリー>
あしながおじさん

<本文>
[10月13日(金)]
「ポーン♪」
スマートフォンの着信音で目が覚める。時刻は午前の11時。スマートフォン手に取り、通知画面を見る。

[通知センター]
愛梨ちゃん、お早う😍😃♥ 😃
天気悪いと気分もよくないよね(^^;(◎ _◎;)(T_T)^^;(・・;💔
じゃあ今日は会社休んで小生とデート❤しよう😆なんちゃって💗🎵❗😃(笑)💕😃☀

今は仕事の時間ではない。私は、スマートフォンをソファーに投げる。会ったこともない、痛客からLINEがしょっちゅう届く。私の大切な睡眠まで、奪わないでくれーと思い、再び目を閉じる。

 再び、目を開ける。枕元にあるはずのスマートフォンを探すが見当たらない。体を起こして、ソファーに向かいスマートフォンを見ると、夕方の17時。「やっばっ!」と声を出して、慌てて身支度をする。
 バチバチにメイクを決めて、着替える。再びスマートフォンを見ると通知が増えてて少しゲンナリする。

[通知センター]
愛梨ちゃん、オハヨー❗😃✋😃😄(^o^)😃☀ 🎵愛梨ちゃんと一緒に今度ランチ、したいなァ😃♥ (^_^)😘❗小生は愛梨ちゃんの味方だかラネ🎵(^з<)😃😃♥ (^o^)😍😃✋💕😃☀

「とりあえず、お店行ってからでいいや」と思い、アパートの鍵をかける。

 電車で二駅の繁華街。私と同じような女子たちが出勤している。みんなにとっては、華金。今週の仕事も終わって、お酒を飲む。お酒を飲むことは彼らと変わらないが、違うところは、これから仕事だということ。
 今日は、羽振りの良い太客のおじさまが来る。ボトルも空けてくれるし、偉そうにしない。しつこくLINEも送ってこない。お客様は神様とよくいう。神様と呼んでふさわしい人物は、これだと。溜まった通知画面を見ながら思う。

「いらっしゃいませ〜。」
「愛梨ちゃん、今日も綺麗だね。」
「ありがとうございます。」
氷をグラスに入れる。少し前屈みになる。これがポイント。視線をあげると、私の予想通り視線に客は目を向けている。
「いいなー、私もいただいてもいいですか?」
全然飲みたくねーよ、昨日も飲んだわ、と心の中で一人でツッコミを入れて、定型的に一杯いただく。
「も、もちろん」
「ありがとうございます💕」

時刻は9時。そろそろ、羽振りのいいおじさんがくる。
「愛梨さん、ご指名でーす。」
「はーい。」
来た!と私は心の中で思った。
「西田さん、久しぶり〜💕」
「久しぶりだねー、愛梨ちゃん。とりあえず一杯、いいよ。」
「ありがとうございます〜。」
こういうところよ。できる客は、私が「一杯いいですか」という前に言う。
「愛梨ちゃん、忙しそうだね。今日は。」
「そうなんですよ。」
「そういえば、この前、ちょっと良さげなお寿司屋さん見つけたんだよ。」
太客は、写真を見せる。
「えー、すごい美味しそう〜💕」
マジでうまそうだな。
「いいな〜。食べてみたい〜。」
100貫ぐらい喰いテェな。
「今度、食べようよ。ご馳走するるよ。」
よっしゃ!最高!
「ポーン♪」スマートフォンの通知音が鳴る。
「あっ、ごめんなさい💕」
スマートフォンを手に取り、

[通知センター]
あれ😱😱💔愛梨チャン、朝と夜間違えたのかな⁉❓⁉オジサンはまだ起きてますよ〜😃😃🌞️ 😃🌞️ 今日の晩御飯はお寿司だよ
今度、愛梨ちゃんとお寿司🍣💦🍣💦🍣💦食べたいなぁ、お寿司が回ってるけど
なんちゃって😴🙂💤
【添付ファイル】
スーパーのカップ寿司

なんでやねん!!

店外だけで会おうとするなや!!入店したこともねぇ癖に!!ボケ!!
「ポーン♪」再び、にスマートフォンの通知音が鳴る。
この通知には反応はしないです。さようなら。

[10月20日(金)]
今日は、給料日と太客とのお寿司の日。今日が始まったばかりだが、最高の1日になるはず。
給料日、即、引き出し。ATMにGo。
記帳した後の、通帳を見る。ここ最近、毎月必ず、宛先不明から振り込みが行われている。5000円だけだが。貰う分には問題ない。気持ち悪いが。

「ポーン♪」

[通知センター]
あいりちゃん、お早う😃🌞️❤️🌞️ お給料日でパワーアップ💪💋💪💋
本日はデート日和ナリ😎😜😎😜
あいりちゃんは何をしてるのかな😴😴

今日は高級寿司だ。気にせずに行こう。

高級寿司店
「今日はありがとうございます💕」
「いえいえ、こちらこそ、来てくれてありがとうね。」
客を含めて、高級感を醸している店内。最高のお店。こんなところなんぞ来たくとも、これない。少し、いや、かなり居心地の悪さを感じる。昔、父親と行った回転寿司店をふと、思い出す。
一息入れるため、お茶を啜る。
「失礼します。」
うんま!!お茶まで旨い。心の声が出てしまいそうだった。

「へい、お待ち。」
寿司屋の大将が、握ったお寿司を提供する。
「美味しそう〜💕」
「どんどん食べてね。」
お寿司を口に運ぶ。
「うっ、美味しい〜」
うめぇはこれは、めっちゃ楽しいわ。

お酒も飲み、目の前がクラクラ歪む。酒の飲み過ぎか?少ししか飲んでないのに?

「この後、部屋取ってあるから。」
「へぇ!?それはちょっろ。」
??自分の呂律が回っていない。
「飲み過ぎかな?じゃぁ、そろそろ大将チェックで。」
「ありがとうございました。」
「じゃぁ、行こっか。」
「いぁー、やめえくらさい。」
ヤバイ!やばい!
このまま連れていかれる。

ホテル
「じゃぁ、先シャワー浴びるね。」
「うー。」
やばくなってきた。ヤられる。

「ポーン♪」
意識が朦朧でも癖で、通知がなるとスマートフォンを手に取ってしまう。現代病が、ここで役に立つとは。喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか。スマートフォンを見る。

[通知センター]
愛梨チャンを守る騎士(ナイト)💂‍♀️💘🧟‍♂️💂‍♀️💘🧟‍♂️おじさん(キラキラ)の登場だよ😃❤️😎😜😎😜 ️愛梨ちゃん、おはよう!夢で愛梨ちゃんを、見ちゃった、!天気も、良いし、デート日和一緒にデートしたい、な、なんちゃって

よくわからない、怒りパワーで体を無理やり起こす。
その勢いで、ベッドにある電気スタンドを手にとる。
「うぉリャー!!」
声が気合いに表れる。
浴室から、脳みそ金玉の太客が現れる。
「どうしたの!愛梨ちゃん、具合が悪いなら寝てないと。」
どうやら、アッチの方は細いようだ。
手に取った電気スタンドを、太客もとい、細客のこめかみ目がけて殴る。
「ゔぃん。」
バタン。細客が倒れる。
その隙にホテルの部屋を後にする。

ホテルを出て、スマートフォンを眺める。
「まさか、貴様に助けられるとは。」
太客の恐怖と、痛客に助けられた悲しみと、脱出できた喜び、さまざまな感情が沸き起こり。笑いが起こってしまった。
「はっはっはー!」
「はー、うぇーん。」
その後に涙してしまった。
自分のなんとも言えない情けなさに泣いてしまった。太客だと思った男はとんだオチンポ野郎で、痛客だと思っていた男が本当の騎士(ナイト)だと言う事実。それを見抜けなかった自分に腹が立ってしまった。
コンビニでサバのおにぎりと、麒麟グリーンラベル(ロング)を買い、その場でプルタブを引く。

今日は本当に散々だ。

[11月8日(水)]
事情をお店に話して、太客はもとい、細客は、NGにしてもらった。
かなり、店側と揉めたようだが、こういう輩は近づけないようにするのが、良策である。

ある程度、お金も貯まり、私はお店をやめた。昼間はOLをしながら、美容のオンラインの講座を受けている。

「ポーン♪」

[通知センター]
愛梨チャン💕🧚‍♂️💕🧚‍♂️おはヨウ😝😝
今日も僕チャンはお仕事😍🌝❗️❗️最近、体調が少し悪いかも😢😢😢でも、愛梨ちゃんのおかげで頑張れる💪💪💪
愛梨ちゃんもネイルアーティスト🌝💅🌝になる夢に向かって頑張って💐❤️💐❤️

痛客とは、なぜか、LINEのやり取りを続けている。
妙に癖になっている自分がいる。
ちなみに、毎月振り込まれる5000円も続いている。

[12月11日(月)]
例の太客とバッタリ、会ってしまった。女の子を引き連れている。
私と目が合い、どうなるかみたが、気づいていないフリをする。そのまま、女の子と歓楽街へ消えてしまった。

ブブブ、ブブブ
スマートフォンが振動する。電話に出る。知らない番号だ。
「もしもし。」
「もしもし、橋本愛梨さんの電話番号でよろしいでしょうか?」
「はい、そうですが。」
「〇〇病院ですが、お父様が入院されてまして。」
「えっ!?」
父親はタバコを買って来る。と行ったきり、家を出ってしまっていた。
行方をくらましていた父親の所在がこんな形でわかるとは。

病院
看護婦さんに父親の病室を案内してもらう。
顔を見ると、
身体中に管が通されており、話すことは不可能だった。まぁ、今更、話すこともない。と頭の中で思っていた。

「いつも、娘とLINEしてるって、見せてくれるんですよ。」
自分の父親をボーと見ていたら、看護婦さんが、話しかけてきた。
「はぁ。」
そんな訳が無い。家を出てったきり、連絡なんぞよこしたことはない。
看護婦さんは、父親のスマートフォンを取り出して、チャットの中身を見せてくれた。

見て、驚いた。
あの痛客だった。

「はっ?え!」
私は頭が混乱してしまった。

[1月28日(日)]
落ち着いたので、話す。
しばらく父親の看病をして、本日私の父親は息を引き取った。短い間だったが、父親と話しができてよかった。
実際は話すことはできていないが。私の中ではそれでもよかった。

悔しくて涙が出た。痛客だと思い、ぞんざいに扱ってしまったことを。もっと大切にすればよかったと思った。過ぎた時間は元には戻ることはできない。それを痛感した。

ただ、最後に父親に会うことができて、本当によかったと思う。

ちなみに、毎月振り込まれていた5000円は父親の死と共に途切れた。そういうことだと私は思った。
私のことを気にかけてくれてて、とても嬉しかった。感謝の気持ちで送り出すことができて、本当によかった。

私は、回転寿司屋にいる。父親と行ったわずかな思い出である場所だ。
回ってくるオニオンアボガドサーモンを手に取り、口に運ぶ。
「うめぇ!!」
私にはこれが、性に合っている。
<了>

※ブックショートアワード応募予定作品
https://bookshorts.jp/entry2023

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