【北欧暮らし】スウェーデンのお酒事情
スウェーデン人はお酒に強い。
職場の食事会などがあれば、まずバーで一杯引っ掛けてから。4人でワインを楽しめば、一晩で3リットルのワインが簡単に消える。それでいてほろ酔いになるかならないか程度だ。
一方でスウェーデン人はお酒と飲酒に対しては日本と異なる考え方をする。
飲まない人をnykterist(ニュクテリスト)
絶対飲まない人をabsolutist(アブソルーティスト)
アルコール依存症の人をalkoholist(アルコリスト)と呼ぶ。
アルコール依存症はスウェーデンでも社会の重要課題の一つだ。その対策として酒類の販売は日本よりも強い規制がある。
まず、アルコールが3,5%を超えるものは国営の酒屋「Systembolaget」でのみ購入できる。値引きやセールはしない。宣伝などもってのほか。営業時間も限られていて、平日の10時から19時、土曜日は15時に閉まる。日曜は営業しない。
民主主義で個人主義、国が国民の自由を規制することに敏感なスウェーデン。お酒は国家がコントロールしているのだからただ事ではない。
アルコール度が低い酒類はスーパーマーケットでも購入できる。
アルコールフリー Alkoholfri öl 0,5 %以下
レットエール Lättöl 2,25 %以下
フォルクエール Folköl 3,5 % 以下
メッランエール Mellanöl (77年に廃止、4,5%前後)
スタルクエール Starköl 3,5 %以上
Lätt - 軽
Folk - 人
Mellan - 間、中等の
Stark - 強
飲酒そのものに対しても日本と異なるところがある。
その辺のベンチや公園での飲酒は禁止されている。外での飲酒ができるのはバーやレストランのテラス席ぐらいだろうか。
飲酒の上での粗相は社会的自○とも言える。
「お酒の上でのアレだから…」なんてことでは許されない。泥酔はもってのほか、飲酒量のコントロールができない人だと烙印を押される。日本の電車内や駅で見られる光景はスウェーデン人からしたら信じられない状況だ。
スウェーデンで「一人呑み」は避けた方がいいかもしれない。以前スウェーデン人の同級生に「帰国便、ミュンヘンでトランジットなんだけど、空港で醸造されたビールを飲むのが楽しみ!」と話したら「え、一人だとアルコール依存症に見られそう」と引き気味に言われたことがある。
スウェーデン人で毎日晩酌する人は多くない。平日は飲まず週末だけ。週末のSystembolagetは大繁盛。コロナ禍では入店規制で行列ができた。人々はビールを箱買いし、普段使いのワインは「bag-in-box」と呼ばれる3リットル入りを好む。日本でも売っているのだろうか。
余談だが、スウェーデンで販売されている瓶入りのワインは大半がコルクではなく捻って開けるキャップかゴム製のコルクもどき。テトラパックで1リットル入りのワインもある。bag-in-boxの良いのは、一旦あけてしまってもほぼ真空で保存できるので長持ちするところだ。
スウェーデンに移住したての頃はSystembolagetの営業時間を逃しがちで、日本の方が便利だなあとつくづく思っていた。
仕事終わりにお店に立ち寄って、陳列された色々な種類のお酒の中から選ぶ。おつまみも買って家についたらすぐ乾杯。
というわけには行かない。
営業時間は短いし、スーパーマーケットでもSystembolagetでも冷えたお酒は売っていないのだ。
とはいえ、人が環境に適応するのは早いもので、私はSystembolagetがあることに大きなメリットを感じている。
Systemet (システェメットと略称で呼ぶことが多い)は幅広い品揃えを誇る。世界各地の様々な種類のビール、ワイン類、リキュール、蒸留酒が取扱われている。商品一つ一つが生産国の国旗と共に紹介され、ワインについては糖質の量や味の傾向、合わせる食事も一目でわかるようになっている。チョウヤの梅酒やスパークリング日本酒など珍しいお酒の注文にも応じてくれる。
スウェーデンにはビールや蒸留酒のマイクロブリューワリーが多くある。そういったところの商品も扱っているので、各地のSystemetでご当地ビールを探す楽しみもある。Systemetではアルコールフリー飲料も販売されていて、妊娠中は様々なものを試して見た。ビール類ではブルックリン・ブリューワリーの緑と紫が一番美味しかった。
スウェーデンでは酒類が高い。食事会や小さなパーティに招かれたら、自分の飲む分のお酒は持っていくのがマナーだ。ホストはソフトドリンクを用意するだけのことが多い。
お酒が好きだと出費がかさむのが悩みだろう。そんな人には強い味方がいる。お隣のデンマークとそのお隣のドイツだ。税制が異なるのでお酒類が少し安い。南スウェーデン、特に西部では車や船で隣の国までお酒を買いに行くことがある。職場で買い物リストをまとめて代表が購入に行ったりすることが定期的にあったりする。
あるいはヨーテボリからデンマークまでフェリーが出ていて、船上の酒屋で購入できる。そういう需要があるので船上酒屋も需要に合わせた品揃えになっている。フェリーは午前中にヨーテボリを発つ。船上でバイキングのブランチで腹ごしらえをして、ライブ演奏とお酒を楽しむうちに酒屋が開き、人々は目当てのお酒を購入する。デンマークには立ち寄らない人がほとんどで、そのままヨーテボリにとんぼ返りだ。帰港すると税関の職員が購入量をざっくり確認して旅終了。半日がかりのお酒の仕入れツアーは、安くお酒を購入できるだけでなく、休日の過ごし方としても結構楽しい。
ところで、スウェーデン人はお酒に強いが、ちゃんと二日酔いにも見舞われる。Systemetのウェブサイトでは二日酔いについて詳しく教えてくれている。スウェーデン語で二日酔いはBakfylla (バークフュッラ)と言い、他にも色々は呼び方がある。代表的なのはBakis (バーキス)。
Systemetは二日酔いを和らげるのに寝るのと新鮮な空気を吸うのが気持ちいらしいぐらいで、なっちまったらもうそれだけです、というようなことを言っている。日本人だとおかゆやらお味噌汁やらのお腹に優しいもが欲しくなるのが一般的だろう。
スウェーデン人はというと、油と炭水化物をガッツリキメる。ピザかマクドナルドがお決まりだ。信じられない。気持ち悪さや胃もたれに拍車がかかりそうじゃないか。西洋で風邪を引いたら飲む優しさの代表チキンスープもスウェーデンにはないし、お粥のGröt(グロート、オートミールにあたる)は普段の朝ごはんで二日酔いでなんか食べないらしい。
私は下戸ではないのでお酒は嗜む。この秋に夫の職場が開催するクルージングイベントに参加して海の幸とお酒を楽しんできた。ここはスウェーデンスタイルで、とイベント前に近くのホテルのバーで生ビールを一杯。イベントではスパークリングワインが乾杯に振る舞われ、ドリンク2杯分の引換券をもらった。私はその後も泡を頂き計4杯。すっかり出来上がって、ベットに直行バタンキュー(死語?)。
チェイサーで調整しつつも、翌朝はやはり軽Bakis。娘を迎えに行き、帰路でお腹が空く。驚くなかれ、無性に食べたくなったのはマクドナルド、ここもスウェーデンスタイルを貫いて朝マックはセットでフィニッシュ。
在住丸9年でスウェーデンのお酒事情を語る資格を得た気がした。