遠回りと白いスイートピー
朝、ギリギリに起きる。もはや焦ることもなくなってしまった。
「焦った方いいのに」
「いい加減大人なんだから早めに起きろよ」
心の声が聞こえてくるけども、もはやこの時間に起きるのが普通なのだ。
早起きは諦めてもらってほしい。
ギリギリに起きたなりの準備をして職場へと向かう。
自分では目覚めているつもりだけれども、たぶん半分以上は寝てるみたいな状態だ。
職場に着く。
元気な同僚、気怠そうな後輩、話しかけるなオーラを出す上司
大きい職場ではないけれど色んな人がいる。
僕は傍から見た時、どんなジャンルに分類されるんだろう?
いつものようにロボットのように業務をこなしながら、たまにサボる。
「早く仕事終わんないかな」
「帰ったら積んである本を読んで、ゲームもしよう。」
そんなことを考えていたら終業時間。急いで家に向かう。
家に着くと自然と眠気が襲ってくる。やりたいことは頭の中に置き去りのままだ。
本を読むことと寝ることを天秤にかけた結果、僕は寝ることを選ぶ。
ちなみにこの天秤は9割以上寝ることのほうに傾くとデータが出ている。
起きたら22時。
「ああ、今日も仕事以外なんもしてない」
5日連続の後悔と共にシャワーを浴びにいく。
シャワーを浴びたら寝転がりながらネットサーフィンをする。ちらちらとスマホの画面に映る時刻を気にしながら、まだいけると思いながら。
もう24時だ。寝なくてはいけない。
そしてまた僕はギリギリに起きる。
ループしている。毎日が。
タイムリープものの主人公にでもなった気分だ。でも僕の毎日には何も進展がない。
何年か前まではスマートでカッコいい大人になろうと努力していた気もする。
いつからだろうか、こんな風に諦観を持ち合わせてしまうようになったのは。
コロナ禍のせいにしたり、環境のせいにして怠けることを正当化している。
SNSを覗くと同級生がキラキラした投稿を載せている。なんだか焦ってしまう。
「お前は何してんだよ」と言われているような気がしてすぐに画面を閉じる。
生きる意味を見出せないけど死にたいわけでもない。だって死ぬ理由もないんだから。
ある日、何の気なしに帰り道を遠回りしてみた。
自分が住んでる街だけど、知らない景色に会える気がしたから
そしたら予想通り、この街には意外と面白い場所が隠されていることに気付いた。いや、隠されているというより勝手に見ていなかっただけだが。
・本当に経営できているか心配になるCDショップ
・こじんまりだけどオシャレなカフェ
・可愛らしい看板が印象に残る花屋さん
どこも味があって吸い込まれそうになるけど、今回は花屋さんに入ってみた。もちろん花なんて興味もない。
とりあえず店内をフラフラしていると店員さんに話しかけられた。
ノープランで入ったから具体的なことなんて言えない。
「どんな花お探しですか?」
「なんかキレイな花ありますか?」
「ん~たくさんありますけど、何色がいいです?」
「白色が好きなので、白い花ですかね…」
「なるほど!じゃあこれがピッタリです」
「これは何ていう花なんですか?」
「スイートピーです!色んな花に混ぜても可愛らしいですよ」
「確かにキレイですねこれ。なんか惹かれます」
ということで、そのまま白いスイートピーを買ってしまった。
赤いスイートピーなら松田聖子のおかげで耳馴染みがあるけど、白いスイートピーは馴染みがない。
その後、人生で初めて花瓶を買って白いスイートピーを部屋に飾ってみた。うん悪くない。
おしゃれなインテリア買うよりもずっと安いし気分も上がる。遠回りした甲斐があったってものだ。
そのまま白いスイートピーに見つめられながら、買ったのに放置していた本を読みだす。確か買ったのは1か月以上前だったよな。
放置していたのが勿体ないと感じる内容で大満足だった。僕は本を選ぶセンスに長けているのかもしれない。
まだ時間に若干余裕がある。
そういえばファイナルファンタジーダウンロードしたのにやってない。ちょろっと触るか
ゲームにちょろっとはない。気付いたら没頭していた。
時計に目をやると深夜2時ではないか。
確実に明日は睡眠不足だ。でも今の僕はさほど気にしていない。
むしろ何だか嬉しい
久々に「退屈なループ」から抜け出した気がする。非日常を味わえた気がする。
どうせ眠気眼で職場へと向かうんだろうな。でも別にいいか。
綺麗な花が部屋に飾れたし、面白い本も読めたし、ファイナルファンタジーだってできたじゃないか。
「寝なくては」と思いながらも、ついついスマホをいじる。
「そういえば白いスイートピーの花言葉って何だろう?」
ふと思ったので検索をかけてみる。
すると
「ほのかな喜び」
と出てきた。
なるほど、こういうことか。
朝、今日もギリギリに起きる。
また遠回りしてみようかな。
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