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銀河オーバードライブ③

 船を発見してから二週間後の土曜の朝、俺たちはあの場所へと向かった。今度は近所のホームセンターで借りてきたリアカーにジャンクショップや船の部品屋で買ってきた船の修理に必要そうな部品たちを積み、それを引っ張りながら歩いていた。
「これ、結構重いな…… 」
 リアカーを引っ張っているセイジが言った。

「しょうがないよ、最初に見たときに必要そうだった部品は全て揃えて持ってきたから重くなって当然だよ」
 レイが反論した。彼もまた、図面や端末をリュックサックや手提げバックにぎっしり詰めていたので大変そうだった。すると、レイとセイジが声を合わせて
「ワタル、お前もなんか持ってくれ」
 と言ってきたので、俺は急いでレイが持っていた手提げバッグをもらった。持ってみると予想していたよりもかなり重かった。

「こんなに重かったのかよ」
 俺がそう言うと、二人は激しく頷いた。


 そうしているうちに、目的の場所へと到着した。発見してから二週間は経っていたが、船は相変わらずそこで、今度は俺たちを待っていたかのように存在している。
「なあ、これを動かすんだよな?」
 セイジが言った。

「そうだよ」
 レイがセイジに返しを入れた。
「どんなことが起きるだろうな」
 俺が一言更に言った。俺たちはまるで、覚悟を決めるかのように喋っていた。

 俺たちの計画はあまりにも荒唐無稽だった。宇宙船を直して、この田舎町を出る、それ以外は決まっていない。でも杜撰すぎるこの道を歩みはじめた、引き返せるかもわからなかったのに。レイが装置を弄ってスロープを展開し、俺たちは船内へと入って、すぐに運んできた荷物を船内に移した。その後、ラウンジで作戦会議を始めた。はじめにレイから、話を始めた。
「ひとまず、僕たちが最優先でやるべきは機関室に行って、実際に飛べるように直すことだと思う」
「それで良いぜ」
「俺も賛成」

 俺とセイジが同意する。レイは更に話を進めた。
「では、このまま機関室へと行こう。どこが壊れているかを念入りに確認するところから始めよう」
「じゃあ、いよいよだな」
 セイジが言った。
「行こう」
 
 俺が少し大きい声で言った。すると、二人は
「おう」
 と言って、俺たちは必要な道具を持って機関室へと向かった。

 機関室へと入った。機械に強いレイの指示で、俺とセイジが部品を外してレイがそれを一つずつチェックすることにした。どれが動いて、どれが壊れているのかを調べるために。俺はこの手の機械を弄ったことが無かったので、部品を外すだけでも苦戦した。対してセイジは、一度機械を弄ったことがあると本人から聞いていただけあって、手際よく外していた。外した部品はすぐにレイがチェックした。俺たちはこの作業を二時間程続けた結果、チェックが終わった。
「ふう。やっと、確認が終わった」

 レイが疲れた口調で呟いた。レイは今度は俺とセイジに向けるように言葉を続けた。
「これは、直すのに思っていたよりも時間がかかりそうだよ。今日用意してない部品も交換が必要だった」
「おいマジかよ」
 セイジが残念そうに言った。どうやら、早く済むかと思っていたらしい。俺も少し残念だったが仕方ないと思ったので、
「仕方ない。全力で直して、こいつを飛ばすんだ」
 と二人と自分を勢いづけた。
「そうだな。よしやるか」
 セイジが気合を入れる仕草をする。
「やろう」
 レイもそれに応じた。こうして、俺たちの船を直す作業がはじまった。この日はその後一時間ほど更に時間をかけて交換や修理が必要な部品をリストアップして船を出た。


 俺たちはそれからというもの、土日に集まって船のある森まで行って修理をする日々が二ヶ月ほど続いて気がつけば、季節は冬になっていて学校は冬休みになっていた。
「雪が降ってきたな」
「そうだな」
 この近辺では冬になるとよく雪が降る。船の外で休憩をしていたセイジと俺は空から降ってきた結晶たちを見て呟いた。

「おーい、二人。準備ができたよ!」
 そこにレイが大声を出しながらやってきた。そう今日、遂に船の修理が終わろうとしていた。どうやら、レイが最後の部品を取り付ける準備を整えたようだ。
「お、いよいよか」
 セイジが立ち上がって嬉しそうに言う。俺もセイジに続いて立ち上がった。
「よしやりますか」
 俺はストレッチもどきをしながらそう言った。そして、俺たちは船内へと戻っていった。機関室へと三人で入っていく。床には交換用の部品が置いてある。これを取り付ければ、いよいよこの船は息を吹き返す。

「じゃあ、いくよ」
 レイが促す。俺とセイジは頷いた。そして、レイは慎重に確認をしながら部品を取り付けた。部品が収まるところに収まり二ヶ月続いたこの船の修理が遂に終わった。
「できた!」
「終わった」
「やっとか」

 俺たちは思わず、ハイタッチをして船の修理が終わったことを喜びあった。
「さて、じゃあいつ出発しようか? 」
 達成感からか無言が少し続いた後、俺が二人に聞いた。二人はすぐに、
「今日の夜とか?」
「いいな。俺も今夜でいいぜ」
 と言ってくれたのでその流れでこの日の夜に船で宇宙へと飛び立つことを決めた。それから、俺たちは宇宙へと旅立つ荷造りをするために一度、それぞれの自宅へと帰ることにした。船を出ると雪はまだ降り続いていて、地面は少しだけ白になっていた。


 俺が荷物を取るために家に帰るとリビングで両親がいつも通り喧嘩をしていた。内容はわからなかったが、母がまたしてもヒステリックになっていて、父は母の話を聞いているようで聞いていなさそうな態度だった。俺は気づかれないように上へと上がろうとした。その時だった。
「あああ!!」
 母は叫びながら玄関を飛び出していった。俺はただ驚いて、階段の上で母が出て行く瞬間を見届けることしかできなかった。
「…… 」

 父は相変わらずの表情だった。冷蔵庫から酒を取り出して一杯飲んだ。特に追いかけようとする素振りは全く見えなかった。俺はそれがどういう訳か許せなくなって、リビングに駆け込んだ。
「父さん! いくらなんでも追いかけないのはひどくないか! 母さんだってその態度が許せなかったからあんなになったんだろ! 」
 俺は思わず激昂していた。だが、もう何もかもがどうでもよさそうな父にはこの叫びは届かなかったようで、
「だから?」
 とあっさり返されてしまった。

「じゃあ、こんな家こっちから出ていってやるよ!」
 俺はまたしても思わず口に出していた。これくらい言えば、父も考えを改めるだろうと思っていたが、それもむなしい願いで、
「好きにして」
 と、どうでもいいように返された。

 俺はこのロクでもない男を正すのはもうダメだと思って、拳を強く握りしめてコイツの顔を一回思いっきり殴った。殴ってもコイツは相変わらず、それがどうしたと言わんばかりの顔だった。一時の満足感を得た俺は自分の部屋へと向かい、まとめていた荷物を持って家を出た。

 走った、全力で走った。ただ、森にいるであろう二人のために俺は全力で走った。途中で聞こえた救急車のサイレンなんかも気にしないで走った。後になって知ったことだが、このサイレンが聞こえる十分ほど前に女性と車が衝突し、結果として爆発事故が起きたという。女性は全身が炎で焼け爛れたために身元不明。だが目撃者からの情報を聞く限り、その女性は母だった。


 俺は船の前へとたどり着く、そこにはレイとセイジが既に待っていた。
「おそいよ、ワタル」
「いくら待ってたと思うんだ」
「ごめん、ごめん」
 やはりこの三人でいると、どことなくだが安心感があった。俺たちは船へと入る。入るやいなや俺たちは操縦室へと入りレイがエンジンを点火した。船の計器たちが一斉に起動する。

「エンジン、異常なし。出力、問題なし。その他計器、問題なし」
 スイッチ類を一つずつオンにしながらレイが言った。一通りの確認が終わる。
「よし。飛ぶよ」
 レイがそう言ったのを聞いて俺とセイジは改めて覚悟を決め、頷いた。
「じゃあ行くよ。テイクオフ!」
 レイがレバーを上げると船が宙を浮いた。どんどん高度を上げていく。

 ついに俺たちの冒険が始まった。

(続く)


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