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集団の5段階③ ステージ2 「私の人生は最悪だ」 ~自己効力感を失った諦めの世界~

ステージ2の概観

ステージ2は、無条件に人生を最悪のものとみなしていたステージ1からは一歩進んで、「人生には最悪ではないものもある」という認識を得た上で、

それでも「自分の人生は失敗であり虐げられている」という思いを持っています。

その思いを一言で表すと、「私の人生は最悪だ」となります。

ステージ2「私の人生は最悪だ」
 ステージ1との大きな違いは、最悪なのはあくまで「自分の」人生だけであり、人生がうまくいく可能性はあるものの、自分の人生はそうではないという思いがある点である。
このステージの人間が集まると、「やってみたけど、うまくいかなかった。今度だってうまくいくわけがない」というあきらめムードが支配する。新しい試みを阻むことの多い組織には、ステージ2の人間が多く集まっている。
 ステージ2から3に至るためには、友人関係を増やすように働きかけ、短期的に成果の出る仕事を通して自己効力感が高まるように仕向けると良い。

この状態を図示するなら、下記のようになります。

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この状態では、他者を拒絶するわけではないですが、何かが成功するイメージが思い浮かばず、建設的な他者とのネットワークが確立されない状態です。

フィル・ジャクソンの書籍『イレブンリングス』では、お互いに足の引っ張り合いをする職場を舞台にしたオフィスドラマの様子が、ステージ2の例示として挙げられていました。

では、どうしてこのような状態になってしまうのでしょうか。以下では、トライブの書籍を離れて考察を行なってみたいと思います。

意欲と深く関わる自己効力感

意欲、と深い関わりのある概念として、自己効力感という概念があります。

これは、カナダ人心理学者アルバート・バンデューラが提唱した概念であり、

「自分はある状況において必要な行動をうまく遂行できる」

と自分の可能性を感じられている状態のことです。

似た概念として、自己肯定感や自尊心がありますが、これらとの違いは、「特定の状況や事柄」に大して効力感が変わる、という点です。

つまり、ある状況には効力感を感じられたとしても、別の事柄には効力感を感じないということがあり得るのです。

これはある意味当然のことですが、「無条件の自己肯定」の尺度である自己肯定感を前面に出して議論を進めている際には、意外なほど忘れ去られてしまう考え方です。

対象によって効力感が変わるということから、何が起こるでしょうか。

社会一般で見れば優秀な人間が集まる集団だったとしても、集団の目標が困難な場合には効力感を感じられないということがあり得るのです。

集団が目的とする活動に対して自己効力感がわかない場合、構成員の間から意欲が失われます。

新しい活動に対しても、効力感が得られなければ賛成をすることはできないでしょう。


また、自己肯定感や自尊心とは対立する場面もあります。

自己肯定感が高く、自己効力感が低い場合には「できないのは自分のせいではない」という思考に陥りがちとなり、他人への不満や批判という形で噴出することになります。

これは、ステージ2の人間が自分を被害者だと感じやすい点とよく合致します。

ステージ2への対処

自己効力感を高めるためには、達成経験、代理経験、言語的説得、情緒的高揚といった方法があります。


達成体験・・・実際の体験によって、「やったらできた」ということを体験する。

代理的経験・・・他者が課題を遂行する行為を観察する。自分自身に近い要素のある人間の体験が重要。

言語的説得・・・言語による説明で、「自分もできる」という感触を持つことである。

情緒的高揚・・・自己効力感は、心拍や体調などの影響を受ける。心拍や体調を整えることが自己効力感の増大につながることがある。


特定の課題に対して「できる」という感触を持つことで自己効力感が決まって来ますが、類似の課題に対して効力感が拡大する「汎化」が起こる場合もあります。

汎化で注意が必要なのは、自閉スペクトラム症の特性を持つ場合です。自閉スペクトラム症の特性として、周囲の環境のアフォーダンス(利用可能性)に気づくことが苦手であるということが挙げられます。

言葉を言葉のまま取りすぎて裏の意図を読めなかったり、特定の刺激に対してこだわりを持ったりと一般化を苦手としている側面があるため、ある課題を達成したとしても類似の課題に慎重な態度を取るかもしれません。

こだわりや一般化の苦手さの裏には、感覚入力の過敏さや鈍感さがあるというのが近年わかって来たことですが、重要なのは、可能な限り不安感を取り除いて活動をさせることだと言います。

ただ、「情緒的高揚」が対処法として数えられていることからわかるように、不安を取り除くことが重要ということは、定形発達の人であっても、さほど変わらないのかもしれません。

まとめ

ステージ2とは、自己効力感が失われた諦めの世界であり、達成経験や他の人の経験を見ること、言葉での説得などが自己効力感を取り戻す方法として有効である。また、精神的に高揚している状態が自己効力感を高めるため、不安感を取り除いて活動をする必要がある。

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