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集団の5段階② ステージ1 「人生は最悪だ」 ~生存が脅かされた孤立状態~

ステージ1の概観

書籍『トライブ』の集団の5段階において、ステージ1は、「集団」とは到底みなせない完全に孤立した状態にあります。

ステージ1「人生は最悪だ」
 他者から孤立し、人生は無条件に最悪のものだという考え方をする。このステージの人間が集団を作った場合、ギャング組織などの形で絶望的な敵意が行動に表れる。
ステージ1から抜け出すためには、会食や会議や集会などの場に参加し、人生にはうまくいく場合もあるということを理解させることが有効である。

この状態を図示するなら、下のようになります。

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この図はそれぞれがまとまりもなく完全に孤立した状態ですが、こうした人間が集団を作った際には、絶望的な敵意を向けるようになるといいます。いわゆるギャングや不良集団というのがイメージできることと思います。『トライブ』の中では、ステージ1の集団として刑務所や虐待や育児放棄を経てギャングとなった少年たち、あるいは薬物中毒者が例示されています。

では、なぜ、このような状態になってしまうのでしょうか。『トライブ」では、心理学的要因や社会学的な要因については述べられていないため、様々な資料を元に分析を加えていければと思います。

絶望と敵意を生み出す自律神経

「人生は最悪だ」という言葉に代表されるステージ1を特徴づけるのは、「絶望的な敵意」です。では、そうした敵意を生み出す身体的な基盤は何なのでしょうか。一般的に、不安や恐怖、怒りなどの感情と自律神経の間には深い関係があると言われます。自律神経は、心臓や呼吸などの身体機能を担っており、危機的な状態において心拍数や呼吸を増大させるなどの作用を持ちます。

トラウマの研究で有名なステファン・ポージェスは、ポリヴェーガル理論の中で3つの自律神経の働きと、危機的な状況において活性化される「闘争/逃走反応」「凍りつき反応」についてまとめています。

交感神経(闘争/逃走反応)

 危機的な状態に陥った際に、アドレナリンとコルチゾールを分泌させて爆発的なエネルギー消費を行い、危機を脱する作用をします。具体的には心拍や呼吸の数が増加し、血圧や血糖値の上昇などの生理的な反応が起こります。こうすることで、戦うにせよ、逃げるにせよ、生存の可能性を大きく向上させることができるのです。ただし、この交感神経の活発な状態が常態化すると、慢性的なイライラや警戒心の増大、自己破壊行動などを引き起こすといいます。

背側迷走神経(凍りつき反応)

 逃げることも戦うこともかなわないと感じたときに、身体の反応を極力減らすことで危機をやり過ごす、いわゆる「死んだふり」の状態を作る自律神経。同時に酸素やエネルギーの消費量を抑え、苦痛を感じにくくすることで生存の確率を高めます。副交感神経系に属しますが、一般に考えられている善玉としての副交感神経からは程遠い働きをし、「絶望」と呼んでもよいような精神状態を作り出します。ただし、この背側迷走神経も、生存のために必要な作用をしているだけだということには注意が必要です。

ステージ1をもたらす要因とその対処

以上の自律神経の働きから、ステージ1の集団/個人では、闘争/逃走反応や凍りつき反応が常態化しているのだと考えることができます。これらの反応が生み出されているということはつまり、「生存が脅かされている」のであり、ステージ1の集団/個人ではまず、「安全や安心が確保されない状況下」にいるということが考えられます。つまり、

①何らかの身体的、精神的疾患を抱えている状態
②虐待やいじめ、ハラスメントなど外部からの攻撃を受けている状態
③生計を立てていくために反社会的な集団に属さなければならない状態
④上記の経験がトラウマとなった状態

①~③までの状況では、そもそも心理や教育的な対処ではなく医療や福祉による介入が必要な状況だと言えます。物理的に環境を変える必要もあるでしょう。また、④については、単なる励ましや交流だけでなく、心理療法による介入が効果的になることでしょう。

『トライブ』においては、働きかけのヒント「選択肢があることを強調する」として、次のように記述があります。

フランク・ジョーダンはこう言った。「選べるんだよと告げると、最初はみな信じない。でもこう言うんだ。『私だって君たちと同じだ。片親のもとで育ち、暇をもてあましていた。でも私は警官になることを自分で選んだ。だから君たちにもできるはずだ』とね」。

この説得で注目すべき点は、①相手を見下しておらず、ゆっくりとではあるが信頼関係を築ける。②選択肢があることを強調している。という2つの点だといいます。

また、「限度を決め、決してあきらめない」というヒントでは、

一方で、大半のマネージャーが従業員や解雇された人に対してでもあきらめない姿勢を貫いていた。ほとんどが電話をかけたり、元従業員を訪問したりして何らかの連絡を取っており、中には刑務所へ面会に訪れたケースもあった。そうした扱いを受けた元従業員の大部分は、他のたくさんの人々に影響を与えながら第1段階を這い上がり、最終的には仕事の現場へ、多くは元の会社へと復帰している。

と記述されています。

これらで特徴的なのは、他者からの粘り強いアプローチだと言えるでしょう。「選択肢がある」「他人は敵ではない」そうしたメッセージを受け取ることで、ステージ1の人間は次のステージに至ることができるといいます。

まとめ

ステージ1とは、「生存が脅かされている状態」であり、ステージ1から抜け出すためには、他者との関係を通して「安心できる場所」を見つけることが必要である。



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