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福岡インディペンデント映画祭2022 作品紹介 その⑲(1106-P4,5)

本年度の映画祭の最後は、ゲストとして来場されるダンサー・田中泯さんが関わった2作品を上映します。

先に上映するのは、田中泯さんがナレーターを務めたテレビ信州の『チャンネル4「カネのない宇宙人 閉鎖危機に揺れる野辺山観測所」』。2020年にNNNドキュメントで短縮バージョンが全国放送されて評判となり、科学技術映像祭やギャラクシー賞など多数の映像・放送賞に輝いたTVドキュメンタリーの傑作です。

そしてトリは、今年1月に劇場公開された『名付けようのない踊り』。2012年からFIDFFの固定ゲストでもある犬童一心監督が、田中泯さんを撮った特別な映画です。

両作品は一見つながっていないようで、「なぜこの仕事を田中泯さんは受けたんだろう…」とちょっと意識しておくと、実は根底では背中合わせのようにくっついていることに気付いてもらえるのでは…と思います。むやみに並べたわけではありません。

上映後には、犬童監督と田中泯さんが登壇してのトークセッションもあります。ぜひお楽しみに(画像クリックで作品ページに飛びます)。

11/6(日)第4プログラム(16:35~17:25)
科学映画セレクション
チャンネル4「カネのない宇宙人 閉鎖危機に揺れる野辺山観測所」
(ディレクター:高柳峻(テレビ信州)、46.00min)

長野県にある国立天文台・野辺山宇宙電波観測所。長年日本の宇宙研究を支えてきたはずの観測所の予算は年々削られ、職員の雇用もおぼつかない。いわゆる「非正規化」はここでも容赦なく進む。

何をやっても莫大な収益をあげられるはずはないし、村だってそんなおカネはない。自分たちで財源を確保しろと無理難題を言われ、遂には今まで拒んでいた軍事研究への協力と引き換えに予算をつける…という露骨な取引まで持ちかけられる。

この作品が主に追うのは、その野辺山観測所を何とか支えようとする立松所長。望遠鏡が好き、天体が好きという気持ちから観測所の所長にまでなった根っからの“宇宙人”。その純粋な“宇宙人”は「上」からジワジワと足場を削られ続ける。それが進めば進むほど、こちらは立松所長の穏やかな笑顔を見るのがつらくなる。

大人たちは子どもたちに科学には夢があると言い、そして科学者になることの素晴らしさを説く。しかし、現実はどうか。科学が政治に屈するとどんな未来が待ち受けているか、この国の人たちは77年前にも痛いほど知ったはずではなかったのか。

日本トップクラスの研究所を舞台に、この10年間で行き着く所まで来た新自由主義の「結果」を凝縮して見せてくれる、異色の「科学映画」です。

田中泯さんは、なぜこの作品のナレーションを引き受けたのか。『名付けようのない踊り』と併せて、考えて頂けたらと思います。

ちなみに、同じくテレビ信州の三石プロデューサーが担当し、田中泯さんとタッグを組んだ『県境を越えた村 平成の大合併が遺したもの』も秀作です。

11/6(日)第5プログラム(17:35~20:05)
『名付けようのない踊り』(監督:犬童一心、114.00min)

始めの方に出てくる、田中泯が手を伸ばして座っているカット。指と爪の色に「ああ、本当に土を触って生きている人の手だ」。

田中泯。そこに居るだけで十分な存在感がある人なんだろうけど、それがどう約2時間の映画になるのか。

時には溶け合って心地よいグルーヴを生み出し、かと思えばぶつかり合って不協和音を奏でもして、はたまたもう少し見せて…というこちらの気持ちを断ち切る瞬間もある、田中泯と、編集とアニメーションと音楽との強烈なセッション。

農作業もすれば、踊る時もあり、時には真っ赤なハイエースを運転したりも。散歩もすれば、タバコも吸う。普段、どんな食事をしているんだろう。

都市生活者の煙草吸いは体から嫌な臭気を発するだけだが、不思議なことに農夫はそうならない。田中泯が吸うたばこは「気付け」という言葉がピッタリだな、と思った。スクリーンから土と草と山の水、そして葉タバコの香りがかすかに混ざった皮膚の匂いが漂ってきそうだ。

ドキュメンタリーやアートムービーという先入観は捨てて観るのが良い、これこそ「体感」という言葉がピッタリ。

田中泯を知らずとも、前のめりになって「理解」しようとせずともいい。もしかしたら、細身筋肉質フェチやおじ専の人ならかなり感じるんじゃ…。そんな感じで、前代未聞のアイドルムービーと思って観るのも十分有りです。

観客も自由に参加して、心で踊れる映画です。

文:大塚 大輔(プログラミングディレクター)
福岡インディペンデント映画祭2022は、11月3日から6日まで開催されます

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