雨に唄い、そして踊る
突然の豪雨の音に、在宅勤務のありがたみをかみしめる。
すると、ぬくぬくした時間をつんざくように、窓の向こうから
「このおーぞらにー!!つばさをひろーげー!!とんでー!!ゆきたーいーよおおぉー!!〇×▲※★?▽ー!※△◎◇そらーへー!」
と聞こえてきた。
元気と、無邪気さと、ありあまるエネルギーを濃縮還元したようなストレートな歌声。
小学生男子複数名が、大声で唄いながら自転車で駆け抜けていくところだった。
ヘルメットはしていたが、もちろん傘はさしていない。Tシャツがずぶぬれだ。
令和の日本版『雨に唄えば』。
雨に吠えているような感じもしたが。
途中、歌詞がわからなくなったのか、全員が盛大にゴニョゴニョしていたのがよかった。
ライブで、ステージから「みんな歌える~?」とあおられ、いざ歌いだしたら1番と2番の歌詞があいまいで、母音だけ雰囲気で歌う感じ。
《翼をください》の場合、そこのメロディはすべて「悲しみのない」だったと思う。
年端もゆかぬこどもたちだから、悲しみなんて、まだないほうがいい。
ねんのためGoogleで《翼をください》を検索してみたところ、「他の人はこちらも質問」の最後に見逃せない記述があった。
翼をくださいと何の関係があるのだろう、としばらく考え、「翼はためかせ」という一節があることを思い出した。
「翼はためかせ」の「は」を助詞としてとらえ、「ためかせ」を名詞として品詞分解したのかもしれない。
翼は、ためかせ。
なんとなく金融用語的な響きだし、おためごかし感もある。
「翼」が急にお金の暗喩に思え、世知辛くてダークな歌に聞こえてきた。悲しみしかない。小学生の定番合唱曲だというのに。
かくいうわたしも、品詞分解を勘違いしていた単語がある。
てれんてくだ、である。
「てれんてく‐だ」という形容動詞だと思っていた。
漢字に変換できること、四字熟語であることを知ったのは、クレジットカードを持ち始めたころだっただろうか。
てれんてくだろう
てれんてくだっ、で、に
てれんてくだ
てれんてくな
てれんてくなら
未然・連用・終止・連体・仮定と活用すると思っていた。
必然的に、てれんてく/テレンテク、という名詞が存在するとも。
平仮名だと、あまのじゃくの仲間っぽい。
あまのじゃくより、人を食ったような態度をとりそうだ。
カタカナだと、創業21年くらいの地元密着型企業感が漂う。
きっと、平日午前中のラジオ番組で、耳に残るクセ強めのCMを流している。たまに、社長が番組のミニコーナーに出演する。
あと、タウン誌の左下あたりに広告を出している。会社のジャンパー(おそらく水色とグレー)を着た若手社員3人くらいが、中腰でガッツポーズして映って・・・
心臓をつんざくような携帯のバイブ音が机を揺らして、自分が仕事中であることを思い出す。
いつの間にか、雨も小降りになっていた。
自分自身が生み出した「妖怪てれんてく」に、手練手管の限りを尽くされた。
小学生男子の小学生男子感に引きずられたのだろうか。
雨に唄う坊あれば、雨に踊らされる我あり。
大人なので、レッドブルに翼を授けてもらいながら仕事を再開した。
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