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夏祀り(詩)

夏祭りの
お囃子が聴こえる
楽しそうなので
彼の手を取って歩いて
行ってみる
祭りの出店で
焼きそばやお好み焼きや
ポテトフライとビールを買って
ふたりで食べながら
盆踊りを眺めていた
お互い浴衣ではなかったけど
盆踊りに参加したくなり
彼に断って
盆踊りの方へ歩いていく
ところが
いくら近づいても
踊りのなかには入れない
中心から少し離れて
踊っても
一人だけで踊っているような
寂寥感が胸を冷やす
盆踊りを踊っている
浴衣姿の人たちは
寒天のように透けていて
よく見ると
腰から下がなかった
怖くなり
彼のもとに帰ろうとしたけれど
身体が動かない
狐の目をした
浴衣姿の女に
睨みつけられて
女の陶器のような
白い手と赤い爪が
私の首を掴んだ
私は女に噛みついた
血が流れた
血は緑色をしていた
女は白目を剥いて
灰になって消えた
すると、他の
盆踊りの群衆が
人ではない
獰猛な獣になって
私に襲いかかる
ぐいっと腕を掴まれて
気がつくと
彼の車のなかにいた
彼が私を
心配そうに覗き込んでいる
「盆踊りは?」
私の言葉に彼が「ないよ」と笑う
聞けばこの町の付近は
昔、飢饉があり
たくさんの農民たちが
暴動を起こし
たくさんの人が命を落としたそう
だから、盆踊りの代わりに
飢饉で亡くなった人々の霊を祀る
神社に参拝をするのが当たり前だと
教えてくれた

翌日、私は彼と
その神社に参拝し
昨日の非礼を謝罪した

空には虹が架かっていた
その向こうに
たくさんの人たちが
笑っているようだった

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