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映画『8人の女たち』(2002)フランスを代表する女優たちによるミステリーはミュージカル風

こんばんわ、唐崎夜雨です。

日曜の夕べは映画のご案内。今宵ご紹介する映画は、フランソワ・オゾン監督のフランス映画『8人の女たち』(2002)です。

雪に閉ざされた屋敷の中で起きた殺人事件。犯人は屋敷の中にいる人物か。疑わしきは、女ばかり8人。

舞台劇らしい閉ざされた状況クローズド・サークルでのミステリーを、フランソワ・オゾン監督は歌って踊るミュージカルっぽいコメディ映画にしています。

それをフランスを代表する女優たちで見せてくれるのですから、とても嬉しい映画です。

さらに、観客を楽しませながらも、隠れていた女たちの真実の姿が次第に明るみになってくる展開は素晴らしい。

トップ画像には7人しか女性がいませんが、一人が倒れているのをほかの7人が様子をうかがっている図です。ちゃんと8人います。

あらすじ

時代は50年代か60年代か。クリスマスを迎える郊外の邸宅に住んでいるのは主人のマルセル、妻のギャビーと次女カトリーヌ。
ギャビーの母マミーとギャビーの妹オーギュスティーヌが同居している。
メイドは古参のシャネルと新入りのルイーズ。そこへクリスマス休暇で長女のシュゾンがかえってきていた。

にぎやかになった屋敷で、主人のマルセルが寝室で背中をナイフで刺されていた。自殺とは思われない状況。だれが犯人か。警察を呼ぶにも電話線が切られていた。
そこへ近くに住んでいるマルセルの妹ピエレッタが「兄が殺されたという電話をもらった」といって訪ねてきた。

ミュージカルとはちょっと違うかな

ミュージカル風ではあるが、歌や踊りの割合は多くはない。8人がそれぞれ1曲歌い踊る程度だから。それはオリジナルの楽曲ではなく、既成の曲。

また一般的なミュージカル映画と違って、歌う人以外にそれを平然と聞いているギャラリーがいる。
たいていのミュージカル映画では、その場にいるキャストみんなで曲に合わせて歌い踊るのが定番かなと思う。そうすることでその場は盛り上がる。
だが、ここではそれをしない。時にそれを冷静にみている視線が挿入される。

男性不在の映画

主人のマルセルにセリフはない。顔も見せない。後ろ姿が何度か挿入される程度。
マルセルは妻子を養い義母と義妹の面倒を見て、実の妹にたかられ、8人の女たちはマルセルがいることで生活できているのに、そのマルセルが死を賜るのである。

これはカマキリを想起させる一家だ。メスの群れのなかでオスは食い物にされるしかないようだ。
もちろん映画はコメディの色合いが強いので、そうゆう悲劇的な雰囲気はまったくない。実際マルセルが死んで涙を流したのって次女くらいじゃないかな。

フランスの女優の共演に花が咲く

2002年のベルリン国際映画祭では、この8人の女優に対して銀熊賞が与えられた。

ギャビーを演じるのは、カトリーヌ・ドヌーヴ。すこし肉付きがよくなってきてはいるが、まだ美しい美貌を備えている。
『シェルブールの雨傘』(1964)などでミュージカル映画に出てはいる。

ギャビーの母マミーに、ダニエル・ダリュー。ダリューとドヌーヴは『ロシュフォールの恋人たち』(1967)でも母と娘の役でした。
この『8人の女たち』の衣裳や屋敷内の色づかいは、そういえば『ロシュフォールの…』や『シェルブールの…』といったジャク・ドゥミ監督のミュージカルへのオマージュもありそうです。

ギャビーの妹オーギュスティーヌに、イザベル・ユペール。
ここにフランスきっての演技派大女優を配して名コメディエンヌぶりを遺憾なく発揮させている。
行かず後家で子供みたいな性格。母とともにギャビーの世話になっている。
でも後半で彼女は変身するので、本作品の登場人物のなかでいちばん演じてみたいと思うお得なキャラだと思う。

夫マルセルの妹ピエレット役は、ファニー・アルダン。
彼女はフランソワ・トリュフォー夫人でもある。情熱的で娼婦のようだが、レズビアン的な嗜好ありのキャラ。

ファニー・アルダンが、カトリーヌ・ドヌーヴと取っ組み合いの喧嘩して倒れ込んだかと思うと、そのまま大女優同志のキスシーンとなる!
しかも娘たちに目撃されてからの二人が超絶技巧で、ツボ。

若きメイドのルイーズ役は、エマニュエル・ベアール。
実はマルセルの愛人なのですが、奥様ギャビーへのあこがれも強い役。エプロンをとったときに落ちる写真はロミー・シュナイダー。前に仕えた女主人だったらしい。

古参のメイドのシャネル役は、フィルミーヌ・リシャール。黒人のたっぷりした肉付きの女優さん。失礼ながらほかの出演作品を知らない。
ここでは真っ先に事件の真相に気づくメイドでもある。

ヴィルジニー・ルドワイヤンは、クリスマス休暇で帰ってきた長女シュゾン役。次女のカトリーヌ役はリュディヴィーヌ・サニエ。

さて、この中に犯人はいるでしょうか?ま、死んじゃった男のことより、生きている女たちの真実に惹きつけられる映画。

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