映画『雪之丞変化』(1963)女形役者の復讐譚を
こんにちわ、唐崎夜雨です。
日曜の午後は映画のご案内です。今日ご紹介する映画は、♬流す涙がお芝居ならば~の『雪之丞変化』です。
三上於菟吉原作の時代劇小説『雪之丞変化』は、これまで何度か映画化やドラマ化されています。映画では美空ひばりや大川橋蔵、テレビでは美輪明宏や滝沢秀明が主人公の雪之丞を演じています。
主人公が女形の歌舞伎役者だけあって美しい男性が演じてますね。まだ見てはいないのですが、女を演じる男の役を女がしているひばりの映画も興味深い。
数ある雪之丞映画から、今日は長谷川一夫が主演をした1963年の市川崑監督による『雪之丞変化』です。
この『雪之丞変化』は俳優・長谷川一夫300本記念映画と銘打っています。
実は、『雪之丞変化』は長谷川一夫がまだ林長二郎と名乗っていた若い頃(1935-36)の大大大ヒット作であり、ン十年の歳月を経て自身の当たり役に挑んだことになります。
あらすじ
『雪之丞変化』は女形役者の復讐劇です。
上方で人気の女形・中村雪之丞は、長崎の豪商のひとり息子。かつて両親を死に追いやった元長崎奉行・土部三斎とその一味への復讐を胸に舞台に立っていた。
江戸での興行で、その土部三斎が娘の浪路とともに小屋へ芝居を見に来ていた。大奥へあがっていて将軍の寵愛を一身にうける浪路は、役者の雪之丞に恋してしまう。そして雪之丞は、三斎への復讐のために浪路に近づく。
長谷川一夫300本記念映画
この復讐はあっさりと片づけない。父母を死に追いやった者たちへの復讐は、ひとおもいに果たすのではなく、亡き父母が苦しんだように、じわじわと真綿で首を絞めつけるがごとく狂わせて追いつめていく。
いくらかネタバレになるかもしれないが、雪之丞は自ら手を下して仇敵を殺してはいません。また誰かに頼んで殺してもいない。師匠はすべてを承知でサポートはしてくれますが、所詮は孤独な戦いです。
こうゆう復讐劇は、やられる方のみならず、やる方にとっても恐ろしいところなのだろう。
その雪之丞は、仇敵の娘がひと目で恋に落ちる美しい女形。
20代の林長二郎なら水も滴りっぱなしでしょうが、この時50代の長谷川では贔屓目に見ても貫禄が付きすぎていて、映像ではチトつらい。綺麗だし所作も素敵なんですがね。
これが舞台ならまだ見られたかも…?
そう、舞台のリアリティと映像のリアリティは違いますからね。舞台なら役者が役の年齢よりもかなり上を行ってても、芝居で見せるから差し支えない。
舞台なら傘をさせば雨が降っているものと理解するけれど、映像では実際に雨なり水なりが降ってくれないと雨だと思えない。
それに女形の魅力というのは、舞台でこそ映えるというもの。
市川崑監督の映像美
そんな思いが製作サイドにあったかどうか存じませんが、おそらく歌舞伎役者が主人公だから舞台風にしようとしたのでしょう。
横長のスクリーンを活かして、そのまま劇場のステージのように撮ってみたり、人工的なセットで撮ってみたり、随所に舞台を意識させるものがある。
映画評論家の町山智弘は市川崑をモダニストと呼んでました。ミニマムな感じのする時代劇で、ありがちな時代劇らしからぬ感覚のフィルムです。
たとえば、闇夜のシーンでは背景も床も黒のベタ塗り。
いくら夜の場面でもセットなりロケなり背景があるのが一般的。背景のない真っ暗なところに人物だけ浮かびあがらせ芝居をさせても違和感がないのは、ステージでしょう。
黒いベタ塗りは漫画やアニメにもありそうです。それは市川崑監督がもともとはアニメーターであったこととも関係があるかもしれません。
また、広い劇場でたとえば上手に人物を置くと、下手はスカスカになる。観客は人物に注意がいくので、下手のスカスカな空間は気にならない。
ところが映像でこれをやるには度胸がいる。横長のスクリーンの端っこに人物を置いて大きな空白をつくる。市川崑はそれをやってのける。
『雪之丞変化』はそんな映像の遊び心も垣間見られる。
映像のみならず音楽もジャズを取り入れるなどして旧来の時代劇とは印象が違うものになっている。
記念映画にふさわしい豪華な出演者
長谷川一夫は雪之丞と闇太郎の二役。闇太郎というのは義賊。闇太郎は雪之丞の復讐劇には深くかかわらないが、雪之丞を影ながら応援する。
長谷川一夫に女形と江戸っ子らしい義賊の二役を演じさせることで、ファンを楽しませる趣向と思われる。
仇敵首魁の土部三斎役に二世中村鴈治郎。
歌舞伎役者らしい彼の首の動きがことのほか好きです。
こうゆう悪党から好々爺までいろいろな役を魅力的に演じ、黒澤明、小津安二郎、成瀬巳喜男らの作品にも出ている。
三斎の娘浪路役に若尾文子。女スリのお初ねえさんに山本富士子。
大阪生まれだけど京女っぽい山本富士子の江戸っ子義賊は素敵ですよ。
それから登場場面は少ないが、市川雷蔵と勝新太郎がちょいとコミカルなところを担っている。
脚本は市川崑夫人の和田夏十。脚色に伊藤大輔、衣笠貞之助と巨匠の名があるが、これは旧作からセリフの一部を引用しているためという。
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