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映画『次郎長三国志/次郎長初旅』(1953)シリーズ第2部

こんばんわ、唐崎夜雨です。
先に東宝版次郎長三国志シリーズの第1部「次郎長三国志/次郎長売出す」をご紹介しましたので、今回は第2部の「次郎長三国志/次郎長初旅」(1953)です。こちらもマキノ雅弘監督。

原作は村上元三の同名小説。実は当時まだ原作が雑誌連載中。第1部が1952年12月公開、第2部が翌1953年1月公開。1部2部は同時に撮影されたものと思われますが、ペースが早い。この先、映画化のスピードに雑誌連載が追い越されてしまうことになるそうです。
脚本に原作者が参加していますから、そのへんはうまくやりくりしたのでしょうね。

第1部で、喧嘩の仲裁を買って出て、世に売り出し中の清水の次郎長。その喧嘩が元で、おかみから追われるハメになり、一家は清水を離れて旅に出る。
第1部でも次郎長は冒頭で事件を起こして旅にでますが、その時はまだカタギでした。

さて、初旅のお供は第1部で子分となった桶屋の鬼吉、関東綱五郎、大政。それから前作の終わりにちょいと顔を見せた乞食坊主の法印大五郎。
この旅の道中で出会うのが、まだ前髪の増川仙右衛門。さらに終盤に登場するのが、次郎長一家でも人気者となる、森の石松。この石松を演じるのは若き日の森繁久彌。

石松はこの時期の森繁さんの当たり役。のちに日活で次郎長ものを製作した時も石松役で出演。
当たり役といえば法印大五郎も田中春男の当たり役。1963年、つまり10年後に東映が鶴田浩二主演で次郎長三国志を映画化した時も法印大五郎役で出演している。

あらすじ

清水港が御用提灯の捕り方でひしめき合う夜半、料理屋の二階では、次郎長とお蝶の祝言が執り行われていた。祝言を済ませ、次郎長一家は御用の追手を巻いて清水を離れる。
清水の次郎長、大政、鬼吉、綱五郎、そこへ大五郎がついてくる。
旅の途中、増川仙右衛門の仇討ち騒ぎを預かる次郎長親分。ひとまず刀を納めさせた次郎長一家は沼津へ。
沼津では次郎長と兄弟分の佐太郎が料理屋を営んでいた。そこで次郎長は佐太郎の店で草鞋を脱ごうと決めて来たが、佐太郎の店の経営はかなり傾いていた。

増川仙右衛門に振り回される次郎長一家

増川仙右衛門はまだ前髪があり十代かそこらの少年だろうと思う。それでもやんちゃな奴で、仇討ち騒ぎで追われているのは仙右衛門のほうで、返り討ちにしてやると息巻いている。

それから、博打が得意らしい。しかし、次郎長はじめ一家の皆さんの着物をカタに博打に負けたもんだから、次郎長一家は裸での初旅となる。
裸と言っても丸裸じゃないのでご安心を。サラシを巻いて半ダコ状態。神輿を担ぐ若衆ならまだいいけれど、旅には向いてない。

いいように若造の仙右衛門に振り回されている格好の次郎長だが、それも自分の若いころをこの若造に見ているかららしい。境遇も似たようなところがありそうだ。

増川仙右衛門を演じた石井一雄は、次郎長三国志シリーズのたしか途中で東映に移籍する。増川役を見て引き抜かれたらしい。東映では別の名で映画に出ている。

森の石松の登場

次郎長三国志シリーズに森の石松の登場。森の石松は、次郎長ものでは次郎長に次ぐ人気者で、単独主役の映画や舞台も多々ある。

第2部では終盤にちょろっと顔を見せるだけ。シリーズではこれから活躍する。
この時の石松は片目ではない。
また、どもりではあるが、歌を歌うときと、仁義を切るときは、まったくどもらないどころか流暢である。

三島の佐太郎夫婦もいい味してる

次郎長の兄弟分の佐太郎さんは今は足を洗って料理屋の亭主だが、どうも商売が傾いている。おそらく博打好きなんだと思う。

佐太郎の奥さんのお徳さんが、しっかりした人でね。ダメ亭主にはもったいない。
この夫婦はカネはないけど、次郎長一家に夫婦なりにできるだけの歓待をする。

そうゆう姿を見ていると、カタギに迷惑かけるつもりはなくとも、結局かけちゃっているんだよね。
そうゆうのって普通の世の中にもあるわな。そんなつもりはサラサラ無くても、結果としてご迷惑かけちゃってること。

歌を歌う次郎長一家

この映画はミュージカルのように歌ったり踊ったりはしないけれど、ちゃっきり節が劇中に使われたりしている。

♬ 唄はちやっきりぶし 男は次郎長
 花はたちばな 夏はたちばな 茶のかをり
 ちやっきり ちやっきり ちやっきりよ
 きやァるが啼くんで 雨づらよ

でもね、これ北原白秋の作詩で昭和にできた曲だから、次郎長は知らないはず。
江戸時代を舞台にした時代劇で使用するには不適切なんだけれども、次郎長の旅姿にこれ以上かなっている曲はないように思われる。
こうゆう多少の時代考証は置いといて、というところが娯楽映画の良いところだと思う。

それから、酔ったふりして歌うのがノーエ節。
こちらは江戸末期には成立していたようですが、昭和に入ってレコード化されて全国的に普及したらしい。第2部で次郎長は沼津そして三島へと旅をするので、ご当地ソング的に使われたのかな。
また、どの映画だったか忘れましたが昭和30年代が舞台の作品で、宴会場面でノーエ節を歌って踊っていたような記憶がある。となれば、当時の映画の観客に、酔って歌い出す曲としてノーエ節はわりと適した曲だったとも言えます。

♬富士の白雪ゃノーエ 富士の白雪ゃノーエ
 富士のサイサイ 白雪ゃ朝日でとける
  とけて流れてノーエ とけて流れてノーエ
  とけてサイサイ 流れて三島にそそぐ 
 三島女郎衆はノーエ  三島女郎衆はノーエ
 三島サイサイ 女郎衆はお化粧が長い 

あれま、おかみに追われるように清水を後にした次郎長一家ですが、なんだか楽しそうな旅姿です。

次郎長三国志 次郎長初旅(1953)東宝
製作:本木荘二郎 監督:マキノ雅弘 原作:村上元三 脚本:松浦健郎、村上元三 撮影:山田一夫 美術:中古智 音楽:鈴木静一 監督助手:岡本喜八郎
出演:小堀明男(次郎長)、若山セツ子(お蝶)、広沢虎造(張子の虎三)、森繁久彌(石松)、田中春男(大五郎)、田崎潤(鬼吉)、森健二(綱五郎)、河津清三郎(大政)、仙右衛門(石井一雄)、堺佐千夫(佐太郎)、沢村国太郎(大熊)、和田道子(おきね)、隅田恵子(お徳)、豊島美智子(お千)、小川虎之助、小杉義男、富田仲次郎、大城政子、三好栄子、西条悦郎、山本廉、牧壮吉、河崎堅男、林幹


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