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アプリで個人情報は取れなくなる?ユーザーへの誠実さがこれからのビジネスを作る

「Win-Win」や「三方良し」といった言葉に象徴されるように、サービスデザインという概念ができる以前からビジネスには相互利益と誠実さが求められていました。しかし今、世界全体でかつてないほどにユーザーへの誠実さが強く要請されるようになり、本当の意味で誠実なビジネス以外が駆逐されつつあるのはご存知でしょうか?

誠実な市場競争を求めたインクカードリッジの判決

それを象徴するニュースがインクジェットプリンターのインク互換品を使えない設計は違法だという裁判です。

実はインクジェットプリンター本体は売れば売るほど赤字で、それを高額なインクカードリッジの代金で儲けるビジネスモデルでした。この本体をタダ同然で売り交換品で儲けるビジネスをジレットモデルと呼びます。ジレットモデルは売り切りに比べて長期的に収益化ができるため一時期持て囃されていましたが、弱点があります。それはより安価な交換品が市場に出回ると、儲けにならないことです。

これはプリンターでも同じで、メーカーは交換品が使えないような検知機能を本体に組み込むことでサードパーティーのインクカードリッジを排除しようとしました。今回、その設計に対して違法だという判決が出たということです。ビジネスモデルなど知ったことではない、本体は本体で、インクはインクで、真っ当に市場競争せよ、誠実にユーザーと向き合えということですね。

この潮流はデジタルの世界でも起こっています。むしろデジタルの方が急激な変化を求められていると言えるかもしれません。

アプリで個人情報を取得するために必然性と合意が必要

App Store ReviewガイドラインはAppleがアプリストア申請時にどのような視点で審査を行うかの指針です。

この中でも注目するべきポイントは5. 法的事項の部分です。

・アカウント情報を使った重要な機能以外は、ログインしなくても使えるようにしてください。

・情報を入力してもらうためには必然性(理由)が必要です。

・データはユーザーの許可なしに収集できません。

といった内容が書かれています。当たり前の事項に見えますが、おそらくイメージ以上に厳しい条件です

例えばニュースアプリにおいて、自社のアカウントに登録してもらうために名前を入力してもらうのは自然なことに思われますが、それも制限されています。なぜならニュースを見るだけであれば本名である必然性がないからです。もし本名を入力してもらうのであれば、アプリ内で本名を使った何かしらの価値提供が必要なのです。同じく都道府県レベルの居住エリアを取得するためには、地域のニュースを見る機能などその根拠となる価値提供が求められます。この場合でも必要なのはエリアレベルなので、住所を入力させるのは難しいでしょう。

そして入力してもらえたとしても、アプリのアクティビティを事業者に提供するにはユーザーが許可しなければなりません。しかし88%のユーザーはアプリトラッキングを拒否しているというデータもあります。

これはつまり、個人情報を入力することによってユーザーが利益を受け、「このサービスであれば情報を提供したい」と思わせることができなければ、アプリで個人情報を取得することはできないという現実を示しています。

ユーザーに誠実であることがビジネスの前提に

これらはAppleだけではなく、Googleを含め、デジタル界全体の潮流となってきています。

例えば、EU一般データ保護規則(GDPR)では、個人が自分に関する情報をコントロールするというデータ主権を求めています。データ主権を実現する技術としてブロックチェーンが注目され、今後数年間をかけて従来のような事業者がユーザーのデータを収集する企業管理型から、個々人が情報を必要な事業者に必要なタイミングだけ提供する個人管理型へと時代が移っていくものと考えられています。

これまでは個人情報を収集してマーケティングに活用することが至上命題であり、そのためにアプリを提供する事業者も多かったのではないでしょうか。しかし、事業に活用することは結果としてユーザーへの利益にもなる、という建前で過剰な個人情報を取得することが許されていた時代は終わりを告げています。

個人情報を取得するためには、まずユーザーに対して価値を提供しなければなりません。そして継続的に価値を提供し続けることでユーザーとの信頼関係を構築し、その関係性の中で収益を上げていく必要があります。

しかし、よく考えれば当たり前の話です。インクカードリッジにはインクカードリッジに相応しい価格が、個人情報には個人情報に相応しい価値が求められるようになったというだけなのです。

これからのビジネスを考える上では、いかにユーザーに対して真摯に向き合い、良い関係を築けるかが重要となります。サービスデザインはそんな関係性を作るための方法論として、今後さらに注目されることになると考えています。




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