見出し画像

糞フェミでも恋がしたい (その21)

私の名は能條まどか。糞フェミだ。

糞フェミは現実認識が甘い、現実を直視し、客観的に認識できていたら、そもそも糞フェミになんかならない、もっと着実に世渡りの才を高め、己の日常を豊かなものとしているに違いない、でもそんなの到底無理だ、だって現実認識が甘いからだ、もちろん私の現実認識も、話にならないぐらい、甘い、「あの綺羅君」が、サークル部室の居並ぶフェミ闘士を相手に、彼女たちを魅了するがごとき中性を思わせる素敵な声音で、かの歴史的名作シェイクスピア「じゃじゃ馬馴らし」評を語りはじめたとき、私はそのことを思い知らされた、そうだ、いつぞやのLGBTのイベントでも、綺羅君は中心人物というべき存在感で、その場の空気を支配していたではないか。

そういえば、綺羅君の部屋の写真を見せてもらった(まだ部屋には入れてくれない)時、本棚にならんでいる蔵書の幅の広さにちょっと驚いたのを思い出す、フェミ関連のみならず、芸術から写真から文学まで、中学生にしては驚くほどの読書量で、吸収している知識も半端ないことがわかる、オナニーしまくりで精液くさいとか言って悪かった、綺羅君は私なんかよりはるかに勉強している、本を読んでいる、見識を広めている、大尊敬だ、どこで身に付けたのか、理屈っぽくてめんどくさい女どもを手玉に取る話術も、惚れ惚れするほどの切れ味、というか、そんな腐った雌豚どもの相手をしていないで、私の相手をしてくれ、私を手玉にとってくれ。

なんかだんだん腹が立ってきて、根が正直なもんだから、それははっきり顔に出る、機嫌が悪い時の私はわかりやすいのだ、思いっきり口をとがらせて無表情になる、目の輝きが消えるというヤツだ、それはもちろん「あの綺羅君」にも丸わかりなはずだが、平気で糞雌豚どもと仲良く談笑している、いっそ、いちゃいちゃしかねないほど、いい雰囲気の会話をしている、し、た、し、げ、に、駄目だ、これは私が消火器を振り上げそうだ、すみれちゃん以外、全員の頭を叩き割って床いっぱいに脳漿を飛び散らせても、まったく罪悪感を感じない。

嫉妬心が、ねたみの心が、これほど強烈に、圧倒的に、自分の精神と身体を支配するとは、思いもよらなかった、いや、正確には知っていたのだ、母親に対する嫉妬だ、父親を独り占めして、その愛情を一身に受けて陵辱される母親への嫉妬、自分こそそれに相応しい存在なのに、父親はわずかも振り向いてくれない、純粋でどす黒い嫉妬の感情、これはもう、私の心を苛むほどに、身を焦がすほどに、強烈なのではなかったか、それがために、自分は糞フェミに堕ちたのではなかったか。

ぼんやりそんなことを思っていると、散々に私の気をもてあそんで、満足したのか、「あの綺羅君」が、ちらっとこっちを見た、それはなにかの合図らしく、私の目には映った、あああああああ、情けない、その瞬間、私の心がときめいたのだ、なんと、ときめいてしまったのだ、もはや奴隷だ、わずかでも「あの綺羅君」に振り向いてもらえることが、うれしくてうれしくて仕方がないのだ、現にいま、私の膣から大量の愛液がショーツの中に放出された、社会とか主義とか思想とか運動とか、くっそくっそくっそ馬鹿馬鹿しい、自分が心から惚れた雄にただ振り向いてもらうだけで、雌はこれほどまでに圧倒的な幸福感を得ることができるのだ。

あの渋谷の時と同じように、「あの綺羅君」は話の輪を離れて、ふいに私のところに来ると、ぎゅっと手を握って、私の目を覗き込んだ、覗き込んで、くすくす嗤った、私がもう半泣きになっているのはバレバレだ、くるりと振り返ると、雌豚どもに向かってこの世のものとは思えない可愛らしさで言い放った。

「御機嫌よう!諸君!」

私は綺羅君に手を引かれるまま、扉を開けて部室を出た、再び扉が閉まった瞬間、キツイ平手打ちが一発、左の頬に来た、綺羅君は右利きなのだ、そして、強烈なキス、下から、私の首に腕をまわして、引寄せ、逃れられないようにして、キス、会議棟の廊下の真ん中でキス、私の身体はもう、ガソリンをかぶって火をつけたように熱い。

「どこがいいですか?」
「へ?」
「どこで死にたいかって聞いてるんですよ、知恵遅れの雌豚さん。」
「あ…あ……あ……屋上に!この会議棟の屋上が解放されてて、あんまり人が来ないので!」

言うが早いか、私は歩き出す、こんどが私が綺羅君の手を引いて歩き出す、いそいそと歩き出す、なんという愉悦、なんという優越、あの腐った雌豚どもの中から、私という雌豚だけが選ばれたのだ、その現実が、私の心を天にも昇る気持ちにさせる、靴音高く、風を切って足早に階段を昇る、私と綺羅君、そして、私の頭の中には、扉が締まり際に、すみれちゃんが見せた、どぎまぎした表情が焼き付いていた、いきなり自分の心臓を盗まれたような顔だった。

ふふん、あいつ、やられたな。

つづき→ https://note.mu/feministicbitch/n/n76a7cc4400fb

サポートしてくれる気持ちがうれしいっす!合い言葉はノーフューチャー!(๑˃̵ᴗ˂̵)و