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果ての浜にて 1話

それは不思議な体験だった。

初めて海の中に潜った日の事。海の底って想像と違った。全てが碧いという暗い、光さえも特別なものに感じられる空間。ダイビングスーツを着ていたがとても冷ややかな水の感触を全身で感じる。ここはどこなんだろうか。
一瞬、色鮮やかな魚もいたように思えるが、辺りは静か、想像を超えた世界だった。視界には何も見えないが深い闇に色々な生物が潜んでいるのであろう。

重い怠い水の畝りの中、全身の力を振り絞り泳ぎ進むと、すぐそこには暗い洞窟があった。一体、ここはどこなんだろうか。意を決してその中に入ると、自分の呼吸だけが響き渡るような深々とした静寂な空間だった。こんなに深く慎重に息をしたのはいつ以来だろうか。
乾いていた私の心の扉が解放され自然と目の前の生き物に興味が湧いた。目の前には優雅に泳ぐ、今日初めて会ったアテンドの彼がいた。私たちは水の畝りに押され、近づいた。そして、地上で言われだとおり見つめって、定期的に一通りのコンディション確認をした。ダイビングスーツ越しに彼の胸を触るととても綺麗な筋肉だった。そして、私は初めての海の中で急に胸が苦しくなった気がした。大丈夫?まだ私、息ができてる?その後、怖くなり早々に地上に上がった。

また日の暮れた頃、私たちは再会した。
そこは少し前にきたハリケーンにより、屋根の骨組みが出てしまっていたが、まるで海の家のようなオープンなBarだった。昼に波に揺られ陽をたっぷり浴びた体に冷たいラムが染み込むのが気持ちよかった。彼とはいたって普通の話をした。
途中から好奇心と共に自然と彼のレザーサンダルを包まれた無骨な足の甲を自分の足の裏で触ってみた。なぜそんな事をしたのか不思議だが、彼の分厚く無骨な足の甲の皮膚は白い砂で綺麗にスクラブされていて気持ちよかった。
私たちは酔いが回ってきたので店を後にし、国道に出ると左手は果てしない海が広がっていた。空を見上げたりふざけたりしていたが、沿道の段に座ると家路に帰る車が目の前を通り過ぎているのも気にせず、自然と唇を重ねていた。そんなドラマみたいなキスへの移行あるかなというくらい自然だった。彼の舌はザラザラしていて、酔いが覚めるくらいシュノーケルマスクのゴムの味がして微笑ましかった。私は次へと急ごうとする彼を宥めるように唇を離した。大丈夫、まだまだ夜は長いから、、、(続)

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