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高卒が勝ち組?高学歴が仇となる地方文系女子

今回の記事は地方女子大生が地元で就職することを前提に書いています。
都会の進学・就活事情とはかけ離れた地方の価値観が含まれることをご了承下さい。(熟成・加筆するうちにかなり長文になってしまいました。)


地元国立大4年生の姪が、就活で苦戦している。

姪は目ぼしい地元企業を数社受けるも、最終面接まで辿りつくことなく全て撃沈。
7月に入り半ばやけくそで応募した1社から内定を貰ったものの、聞けば高校生でも敬遠するような小さな町工場だという。

叔母の私はおやめなさいとも言えず傍観するしかないが、それはまさに「田舎の高学歴女子は地元で就職できない」と旧ブログに書いたとおりの状況。
数年後は我が身と思うと他人事ではなく、娘トラの将来が早くも不安になっている。

姪のプロフィール

姪は3人きょうだいの長女。
多子世帯あるあるで習い事一つせず雑に育ち、高校時代は小遣いとスマホ代を稼ぐためバイトに明け暮れていた。

ところが誰に似たのか、いざ受験勉強を始めると塾なしにもかかわらずセンター試験8割台をマーク。
担任からは旧帝大を勧められたものの、弟が2人いるので県外は無理。
結局、自宅から通える国立大で医学部を除く最難関である文系学部に進学した。(地方では姪のような地元志向女子の受験により、文系学部が最難関になることが珍しくないらしい)

製造業立県の求人事情

さて、大学の入学式では総代に選ばれ前途洋々に思えた姪だが、就活となるとそう甘くはなかった。
国立といえども地方文系女子にとって、これまでの頑張りや学歴に見合うような就職先は狭き門なのだ。

大都市やその衛星都市になり得ない地域はどこもそうだと思うが、我が県の安定企業というとほぼ製造業に限られる。
中には有名企業も幾つかあるが、そういった企業が欲しい人材は高卒ブルーカラーと、大卒なら技術・研究職の理系出身者。

事務職は?というと、職業高校出身の女子か派遣社員で事足りる。
製造業はコストダウンが至上命題ゆえ、間接費は圧縮されるのが常なのだ。(それでも地元大学の採用枠を用意する企業もあるので、県外大の女子がUターン就職するよりは有利)

ちなみに私の就活時はバブル真っ只中で、Uターン組ではあったが運よく大手と言われる企業(製造業)に拾ってもらえた。
しかし当時のわが社に女子の総合職は事実上存在せず、エリア採用一般職枠での採用。
結果、現在に至るまで高卒組と同じ扱い・同じ給与体系である。(マミートラックと化した今では別に不満は無い)

地方文系女子の就活事情

となると文系女子の頼みの綱は教職か役所勤め、あとはせいぜい地銀か中小企業。
それらの求人も事実上コネで埋まっていたりして、あるかどうかわからない椅子の奪い合いである。

そういえば先日、映画「銀河鉄道の父」を見たのだが、宮沢賢治の妹トシは東京の女子大を経て地元女学校の教師になっており、賢治の時代も令和の今も田舎の高学歴女子の就職は大差ないなぁとつくづく思った。

しかしたとえ田舎でも理系出身者は状況が異なる。
もし姪っ子が理系学部で学んでいたら、大学と共同研究をしている企業の技術・研究職とか、医療系公務員といった選択肢が増えたのでは?と思うのだ。

高校の文理選択が人生の岐路!?

これは私の勝手な憶測だが、姪の苦戦の原因は高校の文理選択で理系コースに進まなかったことに尽きると思う。
私の場合は数学がダメで文系に振り分けられたが、姪っ子は成績優秀な上、理数系が得意だったのだ。

ところが彼女の両親は教育に関心が薄い。
当然、大学や就活事情にも疎かった。
私が親なら全力で理系推しだったろうが、姪は誰に相談するでもなく「読書と英語が好きだったから何となく」文系を選んだのだという。

かつてとあるnoteの記事で、

英語力を生かす仕事をしたくて偏差値65の英文科に進んでも、望むような就職先は少ない。
それより偏差値55の理工系に進み自力でTOEIC高得点を取ったほうが、技術者として海外を飛び回るなど、よほど英語を生かせる仕事に就ける。

とあるnoteの記事(どなたの記事だったかは失念)

と書いておられた方がいて、私は全くその通りだと思った。(理数系がまるでダメならそうもいかないが)
残念なことに、そういった社会の仕組みを教えてくれる人は高校時代の私にも姪にもいなかった。

もっともこれは長く生きてきたからこそ納得できる話で、現役女子校生に力説したところで胸に響く子がどれほどいるか。
もしいたとしても、そういう子は就活で苦労しないだろう。

高卒と大卒の逆転現象

大手製造業が欲しいのは高卒ブルーカラーだと書いたが、そういった地域事情から我が県では「勉強を頑張って良い大学に行き地元零細企業に就職するより、高卒で大手に就職する人生の方がよほどQOLが高い」という逆転現象がありふれている。
「大学に行かせると(地元で)就職できないから、大事な子ほど敢えて勉強させない」という風潮は、私が子供の頃から特に農村部で多く見受けられた。
(同様に京都では、老舗の跡取りを京大に進学させると学者になってしまい後継者不足となる恐れから、立命館小からエスカレーターで立命館大に進学させる風潮があるらしい。)

ところが近年は猫も杓子も大学に行く時代となり、高卒就職組は金の卵。
わが職場などは女性活躍何ちゃら法も後押しして、最近はライン工からリーダーとなり管理職まで昇りつめる高卒女性が結構いる。

失礼を承知で書くと、そういった女性らは偏差値だのセンター試験だのとは無縁な学生生活を送ってきている。
更に言うと、彼女らの管理職までの道のりは総合職大卒女子が大卒男子を押しのけて管理職になるよりも遥かにたやすい。
製造現場では女性が少ない上、往々にして女性は男性より真面目で気が利くので、仕事ぶりが認められやすいのだ。

そんなわけで、姪が現在内定している会社に就職すれば、その逆転現象を甘んじて受け入れることとなる。
大手で働く高卒組に、姪が年収をはじめ労働時間、休日日数、福利厚生といった待遇面で敵う日はたぶん一生来ない。
無論それだけが人生の幸不幸を決定づけるわけではないが・・・。

高卒は学力、大卒は人間力?

ところで大手企業への就職を目指す場合、高校だと校内の成績順(内申点)で推薦枠を勝ち取るのが一般的だろう。
だが大卒、特に文系は教員や公務員志望でもない限り、必ずしも学力順とは限らない。

都会には学歴フィルターなるものがあって、偏差値の低い大学は企業から門前払いされるというが、その学歴フィルターを乗り越えたとしても最終的にはリーダーシップややる気、コミュ力で採用が決まる。
つまり大学を出たからには、高卒のように成績が良いだけじゃダメよということだ。

となると、勉強がそこそこできる以外に際立つものがない姪は、やはり理系で専門性を身につけるか、いっそ高卒で就職した方が良かったのでは?と思えてくる。
とは言え、姪の人生において大学の4年間は何物にも代えがたい貴重な時間だったのかもしれず、これは了見の狭い叔母の戯言である。

「勉強は人生の選択肢を広げる」という呪い

すっかり長くなってしまったが、つまり私が言いたかったのは、

地方では勉強を頑張ったばかりに将来の選択肢が狭まるという残念な現実がある。

ということ。(医者や弁護士になるとかは別として)

「学歴フィルターでふるい落とされないため、少しでも偏差値の高い大学へ」というのは都会の大学に進み都会で就職する人々の価値観であり、それをそのまま鵜呑みにした田舎者は学歴が仇となる(ことがある)。

幼い頃より、わが子トラには
「将来の選択肢を少しでも広げるために勉強をするんだよ」
と言い続けてきたのに、何たる矛盾だろう!!

何を器の小さいことをと言われそうだが、人一倍頑張って勉強した結果姪が手にしたものは、田舎でほぼ無価値の学歴という名の名誉だけかと思うとガックリくる。

名を取る取るか実を取るか?大学進学はわが子自慢をするための親の見栄?

では、このように学歴があまり役に立たない田舎で、都会人と同じように大学進学に向け勉強を頑張る(頑張らせる)理由は何なのか?というと、ほとんどは「見栄」ではないか。

子の方は、都会への憧れや一人暮らしをしたくて県外の大学を目指す、といった単純な理由もあるかもしれない。
しかしそこそこ頑張ってきた親子の多くは、最終学歴が高卒=あまり勉強しなかった人、という社会通念に当てはまりたくないのが本音。

たとえ4年後の就職が厳しくなると分かっていても、大学に合格すれば学力が証明される(つまり大学に合格する以外に頑張りを証明する方法がない)という見栄が多分にあるのではないか。

いっぽう、成績が優秀なのに就職を見据え敢えて職業高校に進む子や、進学校でも税務職員(税務大学)や学校事務(県職)になるといった"実を取る"子も時々見かける。

高卒のアドバンテージを理解した上で自ら実を取ったならそれはとても賢明だし、家庭の事情や親の勧めに従ったのなら、相当親子関係が良いか分別のある子達だ。
私もかつて両親から公務員のメリットを嫌というほど聞かされたが、それをなるほどと思う理解力も従う素直さもなかった。

とは言え現実問題、上位校を狙えるのに(或いは家庭の事情が許すのに)敢えて実を取り進学しないというのは、親子ともそう易々と決断できるものではない。
「本当はA高校の学力があったけど、実を取ってB高校卒なんです」
と看板をぶら下げて一生歩くわけではないからだ。
少なくとも「みんなと同じがいい」タイプのわが子は、普通に高校受験をして普通に大学生をやりたいと言うに違いない。

わが子トラの反応(エピローグ)

さて反抗期真っ只中のトラは、私が何か教訓めいた話を匂わせようものならたちまち不機嫌になる。
当然、姪の就活話を聞かせても鬱陶しがるばかり。
私も中高生の頃は親の説教など聞く耳持たずだったから、そう素直に聞くわけがないと諦めていた。

ところがある日、トラの方からこんな話をしてきた。

「TikTokを見てたら『偏差値が高いのに就職出来ない学部ランキング』っていうのが出てきて、○○ちゃん(姪のこと。トラにとっては従姉妹)の学部が1位だった!
やっぱ文系は就職が難しいんだね。
せめて教職を取っておけばよかったのにね。」

「せめて教職を取っておけば」というのは、姪が就活で全敗中と聞いた時に私がつぶやいたセリフまんまである。

そしてこれまでは
「先生なんてブラックだからぜったいに嫌!
部活の顧問みたい(土日も休まず滅私奉公)にはなりたくない!」
と言い張ってきたのに、

「就活の滑り止めにいちおう大学で教職を取るつもりだから、私の進路には一切口出ししないでよね!」

と路線変更。
親に反抗的な態度を見せてはいても、本人なりに少しは将来を考えているのだと知り、ホッとする母なのだった。


長い話におつきあいいただき、ありがとうございました。


★こちらの後日談もぜひどうぞ。

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