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英語が苦手だったエンジニアが本当に必要だったもの

こんにちは、マネーフォワード CTO室グローバル部の nishimura.yukari です。
いまはGo言語でクラウド会計ソフトのバックエンド開発を行っています。

グローバル部は東京勤務ではあるものの、チーム内公用語は英語かつ多国籍なメンバーで構成されている、非常にエキサイティングな環境です。


私は2021年の8月までCIO室コーポレートエンジニアとして、従業員向けの社内システムを管理していました。

いまでこそ仕事上のやりとりは大半が英語ですが、もともと英語が得意だったわけではありません。
学生時代は英語が苦手科目でしたし、社会人になったあとも英語でしか情報が存在しない技術情報を業務上の必要に迫られて収集する程度。


ですが、グローバル部への異動から遡ってちょうど3年前にあたる2018年の秋。
私は転職活動を通じてマネーフォワードへの内定を頂いたと同時に、
「10年後には、自分には英語が必要だ」と強く考えるようになり、本格的に英語勉強のやり直しを決意した経緯があります。

結果としては、3年後に英語が必要になったわけですが・・・😅


日経電子版のnote連携媒体:日経COMEMO の意見募集企画にて、今回のお題が
#3年後に必要なスキル はなんでしょうか」
でした。

こちらの企画に合わせて、今回のnoteでは

  • 私が「10年後に英語が必要になる」と英語の再勉強を決意したきっかけ

  • その予想が色んな意味で外れて、3年後で本当に必要となったモノ

を紹介したいと思います。


転職活動で気付いた日本企業と外資企業の女性キャリア格差

そもそも英語に対する危機感が培われた理由は、2018年ごろの転職活動を通じて自分のキャリアの先を考えたときに

日本企業だと、女性で中堅以上のキャリアを築いたエンジニアをほとんど見かけない・・・

と改めて痛感したことでした。

たまにメディアや勉強会などで同性の先輩をお見かけしたかと思えば、こぞってみなさん外資系企業(=グローバル企業)でキャリアを積まれてる


30歳前後の今のうちは、日本の企業でも自分はなんとなくやっていけるかもしれない。
でも40歳前後になってくると、このまま日本企業に居続けると、自分の将来が閉ざされるんじゃないか。

いつか自分が日本企業で門戸を閉ざされたときに、グローバル企業に行けるようになっておかないと、エンジニアという自分の大好きな仕事を続けられないかもしれない。

当時の私にとってグローバル企業といえば、当然英語が必要になるイメージでした。(実際には職種や業務によって幅があると聞きます)

だったら、10年後くらいには英語ができるようになっておかなきゃ・・・。そんな危機感から、転職の一方で英語の再学習をはじめたのでした。


日本の企業で英語を活用する選択肢

マネーフォワードにジョインして想定外の、しかし自分にとって有り難い誤算だったのは
2019年当時、すでにマネーフォワードではエンジニア組織のグローバル化がある程度進んでいたこと。

当時のマネーフォワードにおけるグローバルメンバーの多くは、ベトナム出身で、大学卒業後に日本で働いているメンバーや、ベトナム現地で採用されているマネーフォワードベトナム(以降MFV)のメンバーでした。

特にMFVの社内公用語は英語。当時私がいたCIO室とMFVとは、社内Slackの英語チャットを通じて一緒に仕事をおこなっていました。

それまで英語は技術文書を読む程度しか出来なかった私にとって、ちょうどいい英語のレベルアップ機会。

自分の部署でMFVと仕事する機会があれば自分から率先して担当したことで、仕事の合間に独学で学んでいた英語を実践で試して実力を伸ばす機会に恵まれました。

社内異動で英語公用語チームにチャレンジ

が、やはり部署や役職の関係で、どれだけ普段英語を使うかには差があります。
2年ほど経つと、CIO室のままMFVとの英語チャットを通じて英語を実践し続けるだけでは、流石に自分の英語力の伸び方に限界が見えてました。


もっと英語力を伸ばすにはどうしたらいいだろう?と悩んでいた2021年の夏。

社内異動公募制度「MFチャレンジシステム」で
「これから新規に立ち上げる、東京拠点で英語が公用語の開発チーム」のメンバー募集を発見。

(MFチャレンジシステムの詳細はこちら↓)

これはまさに千載一遇のチャンスというやつでは?!と直感し、チーム立ち上げ責任者である小牧さんに面談を申し込み。

留学も海外駐在も、ましてや英語圏への旅行すら経験のない身ながら、なぜ英語が必要だと思ったのか、そんな環境のなかでどう英語を学んだのか等などの想いを伝えました。

その後人事から「異動希望が承認された」との連絡が。


【3年後】

こうして「10年後のために英語スキルを本気で身につけよう」と思った2018年の秋から丸3年。

英語が公用語であるグローバル部の異動が叶い、実際に英語が必要となる状況となったのでした。


前部署CIO室での最終勤務日となった2021年8月31日
前の部署での最後の仕事を終え、古巣のみなさまからは暖かく送り出していただき、寂しさと次なる未知の部署への期待と不安が綯い交ぜになりながら過ごした夜のこと。


CTO中出さんより、【あの告知】が社内向けにアナウンスされました。(下記対外発表はその一週間後のものです)

マネーフォワードはグローバル企業を目指します。
今後、より積極的に世界中から優秀なエンジニアの方の採用を進めていく目的で、2024年度中を目処に、社内エンジニア組織における仕事上のコミュニケーション言語を英語にすることを決定しました。

Money Forward Engineers' Blog
マネーフォワードCTOが考えていること(2021年9月)

弊社のエンジニアは、3年後を目安に必要なスキルとして英語が求められるようになりました。


冒頭で述べたとおり、もともと私が本気の英語学習を始めた動機は
「自分は女性だから、英語を学ばないとこの先のキャリアが危ういんじゃないか」でした。

しかし実は、マネーフォワードにジョイン後、想定外にすでに進んでいたグローバル化や、グローバルメンバーの実力を目の当たりにしたことで
「男女関係なく、英語を学ばないとこの先のキャリアが危ないんじゃないか」
と、英語学習の動機がもっと切迫感のある内容に変わっていたんです。

10年に英語が必要になると思って勉強を始めただけに、この日の発表を聞いたときは本気でこう思いました。
こんなに早く、英語化の波がやってくるとは思わなかった・・・。


なぜ日本企業で組織英語化の決断が相次ぐのか

2010年、当時新興の成長IT企業であった楽天は、組織公用語の英語化という大胆な施策を掲げました。
世間からは相当の批判が寄せられていたのを、当時IT系の大学生だった私もはっきりと覚えています。

世間の反応

(略)日本の産業界は強い関心と嫌悪感の両方を示した。
世論の批判より権威への服従を優先する文化において、三木谷の宣言がどれほど大きな意味を帯びていたかは、本田技研工業の当時の代表取締役社長伊東孝伸の発言によくあらわれている。
伊東は公の場で「日本人が集まる日本で英語を使うなんて、そんなバカな話はない」と三木谷の考えを一蹴したのだ

セダール・ニーリー. 英語が楽天を変えた より

しかしその後も似たような事例は弊社含むIT業界で相次いでいます。

そして今年2022年にいたっては、かつては伝統的な日本の製造業の企業というイメージが強かったシャープすら、組織の英語化を発表しました。

楽天の英語化が世間から相当の批判を浴びていた時代を覚えている身としては、もはや隔世の感があります。

私は組織英語化の最前線にいる当事者になったことで、このような経営判断が相次ぐ2つの理由を痛感しています。

それは

  • 少子化と全業種デジタル化による日本語エンジニア人材の高騰

  • デジタル化による英語学習コストの低下です。

です。

日本語エンジニア人材の高騰

英語化と聞いて反対される理由のひとつに
組織を英語化する行為は、学習コストやコミュニケーションコストの面で割に合わない
が挙げられます。

これは裏を返せば「日本語ならコストを安く抑えられる」という常識が、わたしたちの中に暗黙的に存在しているんですね。
しかし、この常識は日本語を喋る人口が一定数いるから成り立つもの。

少子化の時代に日本語人口が減っていけば、各企業ともに日本語人材の取り合いとなり、相対的に採用コストが跳ね上がっていく事態が考えられます。


そもそも新社会人が減っている

 さらに忘れてはならないのが、少子化問題です。少子高齢化については「高齢化」が話題にされることが多い気がしますが、筆者は「少子化」のほうがマイナスのインパクトが大きいのではと感じています。

 これから定年退職を迎える人の数と比べると、新社会人の数は3分の2、3分の1といった規模になっていきます。採用活動をする際の母集団となる若者の数が減少しているのに、「採用数を増やせ」「良い人材を集めろ」という注文を出されても、難しいのが現実です。

 1990年代のバブル期も大量採用の時代でしたが、その際には母集団となる若者も大勢いました。

日経クロステック 「なぜこんな新人を採用した」、文句を言う人が知らない採用担当の事情
より


しかもエンジニア人材の場合、社会デジタル化の進展に伴っていまや業界問わず様々な会社が採用を競っているような状況
少子化と合わせ、日本語の人材のなかでも、特に採用コストが跳ね上がっているのがエンジニア人材なんだと思います。


デジタル化による英語学習コストの低下

そして日本語人材にかかるコストとは逆に、実は近年、英語化にかかるコストはデジタル化によって下がり続けています。

そのことを象徴するようなエピソードが、カリスマ英語講師として有名な安河内哲也先生の著書で紹介されています。

町なかにある英会話学校は、私が学生だったころは、高額な受講料をいっぺんに支払わなければならないようなハードルの高い存在でした(しかも、ふつう週1、2回のレッスン)。
これでは親がリッチでない限りは、到底通えない。

もちろん私には無理でしたから、結局、本で勉強したりカセットテープを聞いて音読したりして、無理やり英語をマスターしました。
今振り返ってみるとかなり非効率で、余分な時間をたくさん費やさなければなりませんでした。

その後、世の中にはDVD、ブルーレイ、インターネット、YouTube、ビデオ・オン・デマンド、通信カラオケ、AI翻訳機、音声文字変換機、SNSなどなど、英語学習にもうってつけの便利な最新ツールが次々に登場しています。
テクノロジーの進歩は、私の学生時代と比べると雲泥の差です。


当たり前に今あるこれらのテクノロジーを、三十うん年前の私が目にしたら、ドラえもんのポケットから出てくる夢のような道具に感じるはず。

そう、令和時代の英語学習の環境は、数十年前には到底考えられなかったdreamlandなんです。

安河内 哲也 (著)
英語が話せるようになりたければ、今すぐオンライン英会話をやりなさい! より


英語を身につけるなんて、お金持ちにしかできないことだ−−−実際に、私も英語の勉強を本格的に始めるまでそう思っていました。
安河内先生のエピソードをみるに、その考えは昔なら真実だったのでしょう。
しかし今や、デジタル化によって英語学習のコストは劇的に下がった。


ちなみに今年のはじめ、私はエンジニアブログに下記のような英語学習に役立つツール情報をまとめたブログを投稿しました。

なぜこんなブログを書くほど英語学習のツールを研究していたのかというと、エンジニアとしての英語学習を通じて
ツール=デジタルによって英語学習のコストが劇的に下がると痛感した
からなんですね。


英語学習はお金持ちにしかできないことだと思っているか。
それとも今なら、昔に比べて遥かにローコストで英語学習ができると気付いているか。

令和の時代は、たったそれだけの気付きの差が、英語スキルの習得に大きな差をもたらしつつあるように思えます。




こうした日本語人材の高騰と英語化のコスト低下が、長期で見たときに
組織を英語化して海外からも人材を集められるようにしたほうが、むしろコストが安い
という組織的判断が相次ぐ理由ではないかと考えています。


3年後に本当に必要なスキルは英語そのものではなく

実のところ、個人レベルのキャリアで考えたときに、全ての人に英語スキルが必要なわけではないと私は思っています。

海外人材では参入が難しい、日本語圏への深い文化的理解が必要な仕事で、需要も手堅い領域なので、英語は必要ない---そんな職種も引き続き存在していくはず。
実際、マネーフォワードにおける英語化の判断もエンジニア組織が対象であって、全職種でありません。

ただ、過去には海外人材は参入不可能だったと思われていた領域でも、デジタル化によって予想に反して海外人材の参入が可能になる事例は、今後も相次ぐのではないでしょうか。
(日本企業の英語化だって、楽天の時代は不可能なことだとみなされていたので)

そうなれば、英語をやって海外人材と協業できるようになるか、海外人材と競合しない領域に自分を移動するか、どちらかが必要になってくるでしょう。



これからの時代にデジタル化やグローバル化がもたらす影響をいち早くキャッチアップし、必要なら新たなスキルを身につけたりポジションを移動したりする、分析力と適応力。

私は当初、自分には英語が必要だと思っていましたが、
実はこの力こそが3年後の自分に必要なスキルでした。



たとえ日本にいながらだとしても、近年では職場やテックイベントなどの身近な場に、実は既に海外から来た方々がたくさんいます。
またその方々は、日本に来ている以上、ある程度日本語が分かる方も多いです。
(もちろん、英語ができたほうがより多くの方と交流ができるのは確かですが)

まずはそういった方々と積極的に交流していくことで、海外人材の動向が自分にもたらす影響を分析し、適応する力を身につけるキッカケになるかもしれません。


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