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中野京子「クリムトと黄昏のハプスブルグ 第9章 死の連続性」『オール讀物』2023年8月号

『オール讀物』2023年8月号
文藝春秋 2023年7月22日発売
https://www.amazon.co.jp/dp/B0CB4XTHHW
https://www.bunshun.co.jp/business/ooruyomimono/backnumber.html?itemid=973



中野京子
「クリムトと黄昏のハプスブルグ
 第9章 死の連続性」
p.113-117

「1867年が、
ハプスブルグ家にとって
死の連続性の始まりだった。
フランツ・ヨーゼフ[1世 1830-1916]の弟
マクシミリアン[1832-1867]が
メキシコで銃殺された。
https://ja.wikipedia.org/wiki/マクシミリアン_(メキシコ皇帝)
兄と二歳違いのマクシミリアンは
自分のほうが皇帝にふさわしいと信じ、
兄のスペア要員でしかない立場に
不満を募らせていた。そこを
ナポレオン三世[1808-1873
ルイ・ボナパルト]に付け込まれる。
この老獪なフランス皇帝は
メキシコを植民地化するために
傀儡政権のトップを探しており、
マクシミリアンに帝位の餌をちらつかせた。
嘘つきのメフィストである
ナポレオン三世など信じてはいけないと、
慧眼のゾフィ
[1805-1872 オーストリア大公フランツ・カールの妻。
オーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ1世、
メキシコ皇帝マクシミリアンの母親]
が大反対したにもかかわらず、
メキシコ皇帝という地位に目が眩んだ
マクシミリアンは勇躍新大陸へ向かった。
だが聞いていた話とは違い、
メキシコ国民に歓迎されないどころか
当地の反乱軍との戦に勝ち目はなく、
三年後にはフランス軍はわずかの義勇兵を残して
本国へ帰ってしまった。
梯子を外されたマクシミリアンは逮捕され、
メキシコ皇帝ではなく
ハプスブルグ大公として銃殺された。
三十四歳だった。
この事件に衝撃を受けたのは
ウィーン宮廷だけだはない。
当のフランスもまた
ナポレオン三世の卑劣さを糾弾した。」
p.115

「エドゥアール・マネ(1832-1883)
『マクシミリアンの処刑』1868-1869年、
マンハイム市立美術館、油彩、252×302cm
https://ja.wikipedia.org/wiki/皇帝マキシミリアンの処刑
副官二人とともに銃殺された
マクシミリアンの最期が描かれている。
マネは画中のマクシミリアンに当地のソンブレロをかぶせ、
その丸い形で光輪を想起させることによって
聖人受難劇に見立てている。
銃殺者たちとの異様な至近距離は、明らかに
ゴヤ(1746-1828)
『マドリッド1808年5月3日』[1814]の模倣だ。
https://ja.wikipedia.org/wiki/マドリード、1808年5月3日
https://www.artpedia.asia/the-third-of-may-1808/

ゴヤの傑作に比べ、
本作が今ひとつ迫力に欠けることには
誰にも異論はないだろうが、
政治的意図の明確さにゆえの面白さはある。
この絵の本当の主人公は、
右端でとどめを刺すための銃弾を確認している男だ。
風貌からはっきりナポレオン三世とわかる。
マネはマクシミリアンの死が
ナポレオン三世の責任だと告発している。」
p.116

https://ja.wikipedia.org/wiki/ナポレオン3世

https://note.com/fe1955/n/na4445be3cde9
「内田 ルイ・ボナパルトを真剣に研究する人って、
あまり聞いたことないですよ。
日本で研究しているのは、
鹿島さんくらいじゃないですか。」
鹿島茂(1949.11.30- )
内田樹(1950.9.30- )
「『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』」
『この1冊、ここまで読むか!
 深掘り読書のススメ』
祥伝社 2021.2 p.139

http://www.salvastyle.com/menu_impressionism/manet_maximilian.html
「銃殺刑の執行者たちは
メキシコ軍の制服ではなく、
フランス軍の制服に類似している」


「マクシミリアンが
異国の地で罪人のように銃殺されたことで、
もっとも痛手を受けたのは
ゾフィだった。
https://ja.wikipedia.org/wiki/ゾフィー_(オーストリア大公妃)

この日から彼女の心も肉体も萎みだし、
「ハプスブルグ唯一の男」と呼ばれたかっての面影は消え、
五年後の1872年、肺炎で眠るように愛息の後を追った。
1889年、ルドルフ皇太子の死。まだ三十歳」
p.116

「フランツ・ヨーゼフとエリザベートは
https://ja.wikipedia.org/wiki/フランツ・ヨーゼフ1世_(オーストリア皇帝)
https://ja.wikipedia.org/wiki/エリーザベト_(オーストリア皇后)

一人息子を失ってしまった。
だが死の連続性は、まだ終わっておらず、
エリザベートも新皇太子
[フランツ・ヨーゼフの甥フランツ・フェルディナント、
ゾフィの三男カール・ルートヴィヒ長男]も
暗殺される運命だったが、それはまた後の章で。」
p.117

今回は、
「黄昏のハプスブルグ」だけで、
クリムト Gustav Klimt (1862.7.14-1918.2.6) 
は、まったく登場しない5ページでした。
今回だけではありませんけど。

読書メーター
中野京子の本棚(登録冊数15冊 刊行年月順)
https://bookmeter.com/users/32140/bookcases/11442729

オール讀物の本棚(登録冊数22冊)
https://bookmeter.com/users/32140/bookcases/11092057

https://note.com/fe1955/n/n0f28510048f9
中野京子
「クリムトと黄昏のハプスブルグ
第1章 ハプスブルグ家、延命成功」
『オール讀物』2022年11月号 文藝春秋

https://note.com/fe1955/n/nf81e31d72954
中野京子
「クリムトと黄昏のハプスブルグ
第2章 ウィーン大改造」
『オール讀物』2022年12月号

https://note.com/fe1955/n/ne1e3bf747335
中野京子
「クリムトと黄昏のハプスブルグ
第3章 マカルトの時代」
『オール讀物』2023年1月号

https://note.com/fe1955/n/ncf2c76aae317
中野京子
「クリムトと黄昏のハプスブルグ
第4章 エリザベート美貌最盛期」
『オール讀物』2023年2月号

https://note.com/fe1955/n/n8cc645712bcd
中野京子
「クリムトと黄昏のハプスブルグ
第5章 クリムト的エロス」
『オール讀物』2023年3・4月合併号

https://note.com/fe1955/n/n4917adc590d6
中野京子
「クリムトと黄昏のハプスブルグ
第6章 カフェ文化」
『オール讀物』2023年5月号

https://note.com/fe1955/n/n757278971a0b
中野京子
「クリムトと黄昏のハプスブルグ
 第7章 女性騎手とデザイナー」
『オール讀物』2023年6月号

https://note.com/fe1955/n/n78d32d36fcd8
中野京子
「クリムトと黄昏のハプスブルグ
 第8章 音楽と市民の娯楽」
『オール讀物』2023年7月号

https://note.com/fe1955/n/n353ec2bee132
『芸術新潮』2019年6月号「特集 時を超えるクリムト」
池上英洋(1967- )ヤマザキマリ(1967.4.20- )
「“未完の美 インフィニタ” こそレオナルドの真骨頂!?」
「中野京子が読み解く画家とモデル〈14〉
ギュスターヴ・モローと《ピエタ》」

https://note.com/fe1955/n/nfb0e8238a1ee
「中野京子が読み解く画家とモデル
第4回 ピエロ・デラ・フランチェスカと《ウルビーノ公夫妻の肖像》」『芸術新潮』2018年7月号

https://note.com/fe1955/n/n78119a43aa63
「中野京子が読み解く画家とモデル
 第6回 レンブラントと《バテシバ》」」
『芸術新潮』2018年9月号


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