再生型ビジネスへの第一歩 / 持続可能性に挑戦するコミュニティ
この記事は、当社の調査研究をまとめて刊行致します、「Sustainability in Japan 3: 再生型ビジネスへの道」から抜粋したものです。英語版はMediumで入手可能です。
サマリー
革新的な取り組みを開始したコミュニティ、CSA LoopやMegloo(メグルー)は持続可能な食の連鎖を作り出す。
エコ・リフィルステーションやコミュニティ・ワークショップといった職場の取り組みは、従業員の持続可能性を強化させる。
社会に大きな変革をもたらすには、大胆な方法が必要となる。
企業はステークホルダーと連携し、持続可能な21世紀社会を構築する必要がある。
日本でSDGsを達成するには、初期段階を超えたインパクトとエンゲージメントのより一層の拡大を目指すことが重要。
はじめに
サステナビリティの取り組みを始めるにあたって、その進め方がよくわからない企業にとっては困難な課題であるのかもしれません。振り返ると、日本における3R(リデュース、リユース、リサイクル)といった国際的な取り組みは、2000年代初頭にようやく始まりました。¹
今日では、サステナビリティは私たちの日々の暮らしに広く浸透しています。広告キャンペーンや政策、そしてスーツの襟によく見かけるSDGsのピンバッジなど、社会に普及してきています。
日本の歴史を辿ることから、企業は多くの学びを得ることができます。日本は農業から発展し、世界有数の経済大国になりました。日本の企業は日本の伝統的な慣習や集団的な考え方2の多くを現代に置き換えて見直すこともできるはずです。²
変革の触媒としてのコミュニティ
私たちの調査によると、すでにサステナビリティを促進する基本的な行動変容が生じていることがわかりました。多くの人が、効果的なリサイクリングを行い、公共交通機関を使用することで省エネ活動を実践し、地産地消に取り組んでいます。
日本人は急進的な環境活動家のような行動に対しては消極的ですが、多くの人がプラスチック消費の最小化や地方生産物や地産食品の支援、環境保全を意識したビジネスなど、未来に向けて新たなライフスタイルを取り入れることに関心を示しています。このような取り組みを個人で始めるのは困難かもしれませんが、地域社会の取り組みを通じて支援や知識を得ることで、こうした変化をより身近で現実的なものにすることができます。
CSA Loop
食は本来、人々とコミュニティを繋ぐ強い力を持っています。しかし、現代に生きる私たちは、そうした食の原点を見過ごすことが多々あります。
地域支援型農業(CSA)は、持続可能な農業を促進するだけでなく、農業従事者たちのコミュニティへの参加意識を高めます。もともとは1980年代にアメリカなどで広まったこうした考え方³は、農村のコミュニティの衰退⁴や、食料需要の増加⁵に伴い世界中で広く支持されるようになりました。
CSAは消費者と生産者の共同作業にも深く関わっています。消費者が農家に定期購入の申し込みをすると農家は安定した収入が得られます。この相互支援の関係は、農家と地域社会をつなぎ、持続可能性を促進し、新鮮な地元産農産物へのアクセスを保証します。
日本には1960年代末から70年初頭に「安全な食べ物の生産と消費」を目的とする「生産者と消費者間の相互扶助的システム」である「産消提携運動」がありましたが、この運動を踏襲したものといえるでしょう。消費者は産地と直接契約し生産物を購入することで積極的に地域の経済を支えました。消費者が食品の生産地をよく知ることができるようになっただけではなく、こうしたシステムは消費者と農家をつなぐためのプラットフォームも提供しました。⁶
株式会社4Natureの創設者でありCSA Loopの立役者である平間亮太氏は、このシステムを東京だけでなく近隣の県でも導入する構想を展開しました。地元のカフェやファーマーズ・マーケットと協力することで、平間氏は、農家とカフェやマーケットが互いに有益につながることを目指しました。
この試みは市場に受け入れられ、カフェやファーマーズ・マーケットは、消費者が生産農家とつながる、貴重な機会を提供しています。さらに、CSA Loopは顧客同士が情報交換をする場にもなります。顧客は、余った堆肥を手軽に地元の畑に届けられることを知り、堆肥の集積所に預けるようになります。
さらに、私たちの調査では農産物を地元の生産者から購入することは、人々がすでに行っている、あるいは今後行う予定であることが分かりました。CSA Loopは受け取り場所を提供することで顧客の利便性を高め、地元の商品へのアクセスを強化し、活気のあるコミュニティを育成しています。
Megloo
日々の食事について、人々は便利さや簡易さを優先しがちです。スタティスタの2021年⁷の分析によると、日本の人口の約70%が毎週コンビニを利用しており、そのうち約23.6%がほぼ毎日食品を購入しています。これらの食品の大半は、プラスチックで包装されている調理済み食品です。
プラスチック廃棄物は日本において最も懸念される環境負荷の一つです。大量のプラスチック廃棄物が焼却、あるいは他国に輸出されているのです。2020年には、全体の46%に相当する820,000トンものプラスチック廃棄物が東南アジアに輸出されています。⁸
日本にはリサイクルに対する意識は高いのですが、残念なことにプラスチック廃棄物にはあまり目が向けられていません。再生可能なプラスチックが全て再利用されるわけではないという事情もあります。通勤や育児、仕事など、多忙な日々を送る多くの消費者にとって調理済み食品の利便性を放棄するのは実際は困難なことです。⁹
こうしたなか神奈川で生まれたサービスMeglooがこの課題に対して取り組みを始めました。
Meglooは、地域の飲食店と提携してテイクアウト食品にリユース可能な容器を使用するサービスで、善積真吾氏によって2022年に立ち上げられました。ユーザーは、このサービスに参加している飲食店の店頭でQRコードからLINEアプリをダウンロードして、食品をレンタル容器に入れてもらい持ち帰ります。容器の返却もサービス展開している店舗に返却すればよいので手軽です。
善積氏はドイツ最大の飲食料リターナブルコンテナシステムであるRECUPのようなヨーロッパの類似システムに触発され¹⁰、東京都内の各所をはじめ、神奈川県、静岡県にMeglooサービスを展開していきました。またスポーツイベント会場などでも試験的に実施されました。Meglooのサービスは飲食店と顧客とをつなぎ、廃棄物の削減の成果をあげています。
このような活動に参加する店舗はしばしば近接する地域に影響を与え、近隣の店舗にMeglooへの参加を促します。ここには昔ながらの集団主義的な姿勢もうかがえます。サービスの運営チームは今後、レンタルと返却のプロセスを可能な限りシームレスにする予定です。Meglooの成長は、サステナブルな変革の推進のために、コミュニティを重視する取り組みの可能性を示す例として大きな役割を果たすことになるでしょう。
実験スタジオとしてのファブリックの試み
新たな試みを始める時、しばしば「どこから始めればよいのか」「どうすれば長期的な存続を確保できるのか?」という2点が問われます。
型にとらわれない考え方を持つファブリックはコンサルタント会社として自社のスタジオをコミュニティとサービスデザインの斬新なアイデアを探求するためのプラットフォームとして捉えています。チームとローカル・コミュニティとの間に、より強い絆を築いていくためにファブリックが実施した試みをご紹介します。
高架下のオフィス
これは世界中で一般的に見られることですが、東京をはじめ多くの都市で、企業はオフィスビルの箱型オフィスを使用しています。ファブリックは、リアルゲートがプロデュースするナカメギャラリーストリートをスタジオの場所として選びました。ナカメギャラリーストリートは東急東横線の中目黒駅高架下にあり、オフィススペースには10社以上の企業が入居しています。高い天井とオープンな間取りのオフィススペースは、創造性を刺激するように設計されており、リアルゲート社の目標は、ヘアスタイリストからインテリアデザイナーまで様々な業種の企業をこの物件に誘致することでした。¹¹
線路下の空きスペースを活用する斬新な方法も、ファブリックチームにとっては魅力的でした。線路の下を歩いてみると、ヨガスタジオ、ジム、チャイを提供するカフェなどが並ぶなかにファブリックの事務所が見えてきます。ユニークな表情を見せるこの通りの様々な物件は企業の好奇心を育み、テナントのメンバーが気軽に挨拶を交わして交流することを可能にし、活気に満ちたつながりのあるコミュニティを生み出しています。
このユニークな環境を受けてファブリックチームは近隣のネパール料理レストランADIやコミュニティを重視するカフェを営むオーナー2人と友人になることもできました。この関係はお互いの利益になる関係性も生み出しました。ファブリックチームがADIを関係者に紹介し、ADIはレストランやカフェのスペースをファブリックの行う大型イベントなどに使用させてくれます。緊密なコミュニティを育むことを目標に、ファブリックはこの便利な立地を最大限に活用し、地元の飲食店や施設と積極的に関わっています。
エコストア
コロナウイルスによるパンデミックの際に行われたリモートワークは、仕事のやり方を大きく変化させました。ファブリックではオフィスを再稼働して以来、完全にフレキシブルなハイブリッド形式とし、対面での共同作業やコミュニティの利点を認めつつ、自宅勤務での集中作業、介護への対応など、利便性の継続を実現しています。
ファブリックでは、他の多くの会社同様、メンバーが職場に戻り、コミュニティのハブとしての活動ができるような様々な取り組みを行っています。
その一例にオフィス内のエコ・リフィルステーションの設置があります。このステーションはEcostore¹²の支援を受けて簡単にセットアップすることができます。Ecostoreでは、国内の45箇所に設置されたリフィルセンターに容器を持ち込めばハンドソープや洗濯洗剤を詰め替えてもらえます。このようなシステムを自社内に取り入れることによって、社員は再利用できる容器を使う習慣を身につけ、普段から再利用可能な容器を使用するようになるでしょう。
コミュニティ・ワークショップと社内教育
コミュニティ・ワークショップは、B Corpやカーボンオフセットなどの情報共有を含め、ファブリックのチームメンバーに様々な情報を提供し、参加を促し、インスピレーションを与えるのにとても役立ちました。企業は、難しい課題を解決するために、チームメンバーだけに依存するのではなく、チーム教育を主体的に推進することができます。これは従業員に十分な情報を提供し、仕事における自らの主体性を与える積極的なアプローチです。
ファブリックでは多くのボランティア活動やコミュニティイベントを自社社屋内で実施してきました。これによってチームメンバーは通常の業務を超えて、より幅広いコミュニティと関わり、互いに繋がる機会を得ました。ボランティア活動は会社への帰属意識を育むだけでなく、共感性を育む効果的な手段として社会的影響力とチームワークの重要性を学ばせてくれるのです。
ファブリックは、SDGsに関連したトピックに関するイベントやワークショップを実施しているClimate FreskやEthical Shukatsuなどの団体とも協力しています。非営利団体やその他の同様の組織にとって、会場を見つけることは財政的に大きなハードルとなることが多く、スペースを提供することは、こうした使命をもつグループの重要な活動を拡大することに役立つことができるのです。
また、前述したCSA Loopのピックアップポイントとして、Meglooに参加するレストランを募集する活動も行っています。イベントを企画し、ボランティア活動に参加することで、ファブリックのメンバーだけでなく、他のコミュニティパートナーとのより強力なネットワークや有意義なつながりが培われています。
まとめ
日本では3R(リデュース、リユース、リサイクル)が推進され、SDGsを達成するための集団的な取り組みが強化されていますが、消費者にも参加を促してその影響を拡大する手段は他にもたくさんあります。再利用可能なバッグや箸の使用などの初期段階を経て拡大し、さらに大きな影響とエンゲージメントをもたらす可能性があります。
CSA LoopやMeglooに見られるようなコミュニティ形成型の取り組みは、消費者が自然とサステナビリティを日常の中に取り入れることのできる好例だといえます。これらは特に持続可能な食に焦点を当てており、ウェルビーイングと環境の両方に貢献する意識的な選択ができるようにしています。
企業は従業員の共感を呼ぶ職場における取り組みを検討し、モチベーションを高め、力を与えることができます。この戦略的アプローチは、前向きな職場環境を作りだすだけではなく、従業員のエンゲージメントと満足度も高めます。また、こうした取り組みによって、チームメンバーのつながりをより強く感じることができるようになるだけではなく、従業員が周囲の企業やコミュニティと関わる機会も提供します。
21世紀以降に適した持続可能な社会を構築するためには、消費者はもう一歩踏み込んで、これまでにない新たな方法を模索することが重要であり、企業はあらゆる分野のステークホルダーと連携を強める必要があります。社会が真の変革を推進していくために。
References
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ファブリックは、企業がより革新的で持続可能な未来に向かって進むことを支援し、戦略的デザインの構築やサステナビリティ活動が直面する、様々な課題の解決を支援するコンサルティング企業です。2004年の設立以来、東京を拠点にグローバル企業や地元企業に対してデザイン思考、サステナビリティに関する知見、深い人間洞察力を結集し、優れた戦略をクライアントに提供しています。