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人材そのものがビジネスである ─ 発展を続けるマクドナルドの真髄

この記事は、当社の調査研究をまとめて刊行致します、「Sustainability in Japan 3: 再生型ビジネスへの道」から抜粋したものです。英語版はMediumで入手可能です。

はじめに
「おいしさと笑顔を、地域の皆さまに」をパーパスに掲げるマクドナルド。全国に約3,000ある店舗に年間のべ約14億人のお客様が来店し、約10万人のアルバイトをはじめとするスタッフが質の高いサービス提供しています。その秘訣を、日本マクドナルドのチーフ・ピープル・オフィサーである斎藤由希子氏に、お話をお伺いしました。

マクドナルドは人的資本経営を成長の源泉とされてきました。その意義というものを教えてください。

マクドナルドは創業時から、「ピープルビジネスである」ということを掲げています。人材を大切にし、人の成長に投資していくことで、結果的にパーパスを実現する循環を生みます。飲食業界のイノベーションを牽引し継続的に発展できたのも、「ピープル」をグロースエンジンとしてきたからです。

それを体現するために、「ピープルプロミス:マクドナルドは従業員の皆さんとその成長および貢献を、価値のあるものとして大切にします」と「ピープルビジョン:マクドナルドは、世界中どの街でも、ベストな雇用主となる」をコミットしています。

パーパスを従業員に押し付けるのではなく、まずは、楽しく働くことでやりがいを感じてもらう「Feel Good Place to Work」な環境を作ることが大事。そこからエンゲージメントを高め、コミットメントの高い従業員にマクドナルドの価値観を体現してもらうためのトレーニングを常に行っています。

エンゲージメントを高めるために、具体的にどんなことをされていますか?

採用時から退職時までをジャーニーとし、従業員と会社が求めるものが一緒になってエンゲージメントが高まるよう設計されています。

例えば、店舗のリーダーシップやチームマネジメントの教育に特化したハンバーガー大学では、年間1万人以上の従業員が継続的にトレーニングを受講しています。店舗マネジャー等の役職に就く前に、昇進試験のような形で勉強を一定時間行い、各店舗では定量的に教育を受けたエキスパートが一定数以上いることが求められています。

常にスタッフのトレーニングを行うことで、オペレーション水準を高く保つことができます。ハンバーガー大学は日本での営業がはじまった1970年から設立され、日本マクドナルドの発展とともにありました。

本社で働く人の人材育成の特色はありますか?

中途採用が多いので人材育成の仕組みは異なりますが、一貫して言えることは最前線で働いている店舗スタッフを大切にするマインドセットです。社長もオフィス従業員も、入社時研修として店舗業務に従事し、店舗オペレーションの本質を学びます。ピープルビジネスとしてマクドナルドは店舗ファーストであるので、本社ではなくナショナル・レストラン・サポート・オフィスと呼んでいます。

サステナビリティに対してはどのように取り組んでいますか?

注力すべき領域が主に4つある中で、私は人材の多様性や働き方の柔軟性、会社と従業員の関係性に関わっています。人的資本が叫ばれるようになった昨今、会社と従業員が主従関係ではなく、対等な関係でエンゲージメントを結び、より良い世界観を作っていくための人事やキャリア形成は不可欠です。

特に女性管理職層は3割に届かない状況なので増やしていくよう働きかけています。また、女性の店長には24時間店舗の働きづらさがハードルとなっているので、その解決策として事務作業をテレワークできるようにするなどの試みも始めています。

サステナビリティを戦略的に考えて店舗に反映するために、何を一番大事にされていますか?

近年はモバイルオーダーやデリバリーなどが増え、オペレーションが複雑になっています。お客様の期待を超えるサービス提供のために最前線で働いている店舗スタッフがポジティブでエンパワーメントされるような仕組みを提供し、成長実感をもつことが一番大事だと考えています。スマイル&ハッスルと私たちはよく言いますが、それぞれが自分らしく互いにリスペクトし合える環境で成長し、感動できる経験を育んでいくことが重要であると思います。

統一された価値観と社員の多様性の尊重は相反する部分もありますが、どのようにしてバランスをとっているのでしょうか?

多様性は大事である一方で、自分の価値観だけでサービス提供をすると、サービスの質がバラバラになってしまうこともあります。ですから、ブランドの価値に対する考え方についても従業員との対話と教育が重要です。マクドナルドが大切にしている価値観である「Our Values」に反していることはおかしいと言えるようなスピークアップのカルチャーは、従業員が誇れる職場づくりをしていく上での真髄としてあります。
これは、一個人として大切にされていると感じられることにも繋がっていきます。こうしたことは成果として表れていて、従業員満足度調査で「非常に満足している」「満足している」と回答した人が80%を超えています。

大規模な組織でありながら、従業員の多くが満足して働くことができる環境づくりは簡単なことではありません。創業当時から人材の成長に投資してきたスマイルカンパニーの成果は、昨今クローズアップされる人的資本の重要性を証明しています。多様性を重んじながらも、精密に計算された教育システムを提供するバランス感覚は、マクドナルドを唯一無二の存在にする所以なのではないでしょうか。


ファブリックは、企業がより革新的で持続可能な未来に向かって進むことを支援し、戦略的デザインの構築やサステナビリティ活動が直面する、様々な課題の解決を支援するコンサルティング企業です。2004年の設立以来、東京を拠点にグローバル企業や地元企業に対してデザイン思考、サステナビリティに関する知見、深い人間洞察力を結集し、優れた戦略をクライアントに提供しています。


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