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消費者の視点:業界ごとの持続可能性の現状を知る

この記事は、当社の調査研究をまとめて刊行致します、「Sustainability in Japan 3: 再生型ビジネスへの道」から抜粋したものです。英語版はMediumで入手可能です。

サマリー

  • 各産業のサステナビリティ関連の状況をみると、期待と現実にはギャップが生じているほか、取り組みに対して正当な評価が得られていないこともある。

  • 自動車産業、飲料産業、国際的なハイテク産業などは比較的ポジティブなインパクトを与えているが、ファッション産業は十全な責任ある活動をしているとは認識されていないと思われる。

  • 国内主力企業はトヨタ自動車を筆頭に社会・環境への取り組みが評価されている。

  • 企業の知名度やその企業の商品の使用頻度、購入頻度によって消費者は企業のサステナビリティに関する認識を広く知ることになるので、世界的なハイテク企業、大手飲料メーカーや有力なリテール会社にとって相対的に有利に働く。

はじめに

サステナビリティに関する課題は複雑なため、多角的な視点で捉える必要があります。企業はサステナブルな変革を前進させる役目を担っています。国民の4分の3以上(75.3%)が、社会的・環境的課題への取り組みについて、政府(81.2%)に次いで、特に大企業に責任があると考えています。

企業やブランドは、社会や人々の生活のなかで積極的に役割を果たす力を持っており、多くはサステナビリティに関する取り組みを促進し発展させています。しかし、取り組みへの努力は消費者に伝わっているのでしょうか。伝わっているのであれば、消費者はどのように企業の取り組みを知るのでしょうか。

7産業・90社について、それぞれの企業が環境に対してどのような影響を与えていると思うかという調査を行いました。その結果、いずれの会社も環境に大きな影響を与えているという認識が消費者にあるということがわかりました。

* ファブリックのサステナビリティ知覚スコアは、「これらの企業が社会的・環境的にプラスまたはマイナスの影響を与えていると思うか」という質問に基づく複合的指標であり、企業の認知度により調整しています。このスコアは消費者の認識を示すものであり、企業が実際にとった行動(ポジティブまたはネガティブ)とは一致しない場合があります。

産業別ハイライト


自動車産業

日本の消費者は、社会や環境における課題を解決する責任を最も負っているのは自動車産業だと考えており、ファブリックの調査では74.5%が「間違いなく」あるいは「ある程度」責任を負うべきだと回答しています。自動車産業は全世界、そして日本の温室効果ガス排出量でも上位にランクインしています。¹ ²

近年では、政府によるインセンティブや補助金を追い風とし、ハイブリッド車や電気自動車(EV)が普及しつつあります。トヨタ(1位)、ホンダ(10位)、日産(15位)などの大手国産車メーカーがサステナブルな要素を取り入れており、上位20位にランクインしています。トヨタの人気はブランドによるところが多く、同社はインターブランド社のベストジャパンブランドで15年連続1位となっています。

一方、外国車ブランドは上位にランクインしておらず、最高位はテスラの57位でした。EV市場の発展においてテスラは業界を牽引したものの、日本国内において自動車のサステナビリティをリードするのは国産車のようです。

食品・飲料産業
消費する機会が多い食品と飲料は、サステナビリティにおいても日本の消費者の間で上位にランクインしています。ファブリックの調査では、69.9%の人が食品・飲料業界は「間違いなく」、あるいは「ある程度」社会や環境の課題の責任を負うべきだと回答しています。

年間220億本のペットボトルが輸送されているにもかかわらず、サントリー(2位)、コカ・コーラ(8位)、キリン(9位)、アサヒ(11位)などの企業は社会・環境問題に取り組んでいる企業として捉えられています。³

しかし、飲料大手はパッケージの素材や量を常に改良しているほか、日本のペットボトルリサイクル率は世界でもトップクラスです。⁴ ⁵ ⁶

ただ、トップ20にランクインする企業は、ブランドの存在感と広告による認知度によるところが多くあります。18位にランクインするスターバックスは、タンブラーやフードロス割引、フェアトレード豆などの環境・社会イニシアチブによって認知度を高めています。

ファッション・ライフスタイル産業

ファブリックの調査では、55.2%の回答者が「間違いなく」あるいは「ある程度」、ファッション・ライフスタイル業界が社会や環境問題の責任を負っていると答えています。

無印良品(3位)は、飾らないブランディングと「必要最低限」といった半消費主義的な考え方が受け⁷、総合トップ3にランクインしています。また、ユニクロ(6位)とジーユー(17位)は技術革新と親しみやすさを通じて、ファストファッションの枠組みを超えたポジティブな印象を生み出すことに成功しました。

一方、H&M(70位)やZara(80位)などの海外ファストファッションブランドは、下位にランクインしています。

また、国内・国外ブランドを問わずスポーツブランドは半ばに位置し、それに次いでアウトドアブランドがランクインしています。ニッチなブランドであるパタゴニア(64位)やスノーピーク(76位)の取り組みは比較的評価されていません。

テクノロジー産業

ファブリックの調査では、60.9%の回答者が「間違いなく」あるいは「ある程度」、テクノロジー業界が社会や環境問題の責任を負っていると答えています。

世界的な大企業であるグーグル/アルファベット(4位)、アップル(5位)、アマゾン(12位)、マイクロソフト(21位)などのブランド力は、各社のサステナビリティに向けた取り組みの印象をも底上げしているようです。

特にメタ/フェイスブック/インスタグラム(77位)は低迷しており、消費者はソーシャルメディアに対して高評価を与えることは難しいようです。

国内の企業ではパナソニック(13位)、ソニー(16位)が環境や社会に対する取り組みで高評価されており、楽天(22位)、日立(23位)が次いでランクインしています。テレコム関連企業ではNTT(30位)、au(44位)、ソフトバンク(62位)となっており、各社の影響度についてはあまり認識されていません。

総じて、サステナビリティへの取り組みが高く評価されているのは外資系企業で、日本企業が上位にランクインするにはさらなる取り組みが必要といえます。

小売業

ファブリックの調査では、56.7%の回答者が「間違いなく」あるいは「ある程度」、小売業が社会や環境問題の責任を負っていると答えています。

多様な事業を展開しているイオングループ(7位)が、小売業の中でもサステナビリティへの取り組みをしている企業として評価されています。イオンは「脱炭素ビジョン2050」などの取り組みとは別に、長年にわたって展開しているエコバッグキャンペーンや、2016年のフランスのオーガニックスーパーマーケットBio c’ Bon(ビオセボン)の参入などを通じて、信頼を築いてきました。⁸ 

ランキングには、セブンイレブン(14位)、ファミリーマート(19位)、ローソン(20位)と、3大コンビニチェーンもランクインしています。このスコアの高さは、1日に消費者の24%、34%の消費者が週に2-3回訪れることによる、利用頻度の高さによる⁹ものだと考えられます。

しかし、持続可能なシステムを導入しているのはどの企業も同じです。エネルギー効率の高い照明への切り替え、おにぎりの包装やレジ袋へのバイオマスプラスチックの活用、食品ロス対策として賞味期限間近の食品の割引などを行っています。全国展開しているコンビニでは、小さな行動変容を促すことで、大きな影響と意識変容をもたらすことが期待できます。

健康・製薬産業

ファブリックの調査では、61.2%の回答者が「間違いなく」あるいは「ある程度」、健康・製薬産業が社会や環境問題の責任を負っていると答えています。

この分野では、大塚製薬(25位)、大正製薬(29位)、武田薬品(33位)といった日本企業が大きな影響力を持っているように見られます。また、新型コロナウイルスのワクチンや、消費者向け事業を持っていることにより、ジョンソン&ジョンソン(37位)、ファイザー(41位)の認知度も高くなっています。その一方、健康・制約産業の企業が全体の上位20位にランクインしていないということは、これらの企業の消費者向けコミュニケーションは十分ではなく、自社のパーパスと社会的影響を強調することの重要性が示されています。

金融業

ファブリックの調査では、57.6%の回答者が「間違いなく」あるいは「ある程度」、金融業が社会や環境問題の責任を負っていると答えています。

金融サービスを提供する企業は、社会・環境への取り組みが高く評価されておらず、最高位はビザの38位となっています。マスターカードは58位となっています。¹⁰

デジタルバンクを手がける楽天銀行や、キャッシュレス決済を手がけるペイペイなどが提供するサービスは、従来の銀行よりもサステナビリティとの関連性が高くなっています。三井住友銀行は66位、三菱UFJ銀行は69位、みずほ銀行は91位でリストの下位に位置しており、相次ぐシステム障害によって順位が押し下げられている¹¹可能性があります。

ゆうちょ銀行は上場している金融サービスの中でも最も利用額が高い銀行ですが、持続可能性への貢献度が低いとされて、68位となっています。保険会社は全て下位にランクインしており、この分野での差別化が喫緊の課題となっています。

まとめ

消費者は民間企業の社会的影響力に大きな期待を寄せていますが、なかには実態を伴っていないにもかかわらず、企業の大きさやブランド力を通じて高評価を得ている企業が存在している可能性があります。

業界内、業界間を問わず、その企業の利用頻度と社会・環境に対する取り組みの評価には、実態とは別の関連性が見られます。

このギャップを乗り越えるためには、目的の明確化、透明性のあるコミュニケーション、そして説明責任が重要となり、政府、消費者、認証機関は意味のある変革を促す必要があります。

このブランド力による押し上げ効果は、消費者が日々の選択がもたらす影響力について強く意識し、情報を得るにつれ、薄れると見られています。

持続可能性に真剣に取り組み、変革をもたらすことを事業の中核に取り入れることができる企業は、顧客の期待に応え、表面的な「やった感」を超えて、将来的な成長を実現することができます。


参考文献

  1. Greenhouse gas emissions by sector (2023). https://ourworldindata.org/grapher/ghg-emissions-by-sector

  2. Ritchie, H., Roser, M. and Rosado, P. (2020) “CO₂ and Greenhouse Gas Emissions”, Our World in Data, p. https://ourworldindata.org/co2/country/japan

  3. Plastic Love: Japan’s Prodigious Usage and Recycling of PET Bottles (2019). https://www.nippon.com/en/japan-data/h00401/plastic-love-japan%E2%80%99s-prodigious-usage-and-recycling-of-pet-bottles.html

  4. Suntory Introduces 100% Plant-Based PET Bottle Prototypes (2023). https://www.suntory.com/news/article/14037E.html

  5. Coca-Cola (Japan) Company (2023) ESG Report. https://www.cocacola.co.jp/content/dam/journey/jp/ja/sustainability/esg-download/pdf/ESG-report-2021_English.pdf

  6. Wortley, K. (2022) Plastic love: Proliferation of PET bottles in Japan complicates a sustainable future, The Japan Times. https://www.japantimes.co.jp/life/2022/03/14/environment/japan-pet-bottles/

  7. What is MUJI? (2023). https://www.muji.com/jp/about/?area=footer

  8. AEON (2023) Aeon Report. https://www.aeon.info/en/wp-content/uploads/sustainability/images/report/2022/c-p126_sustainability_all_20230213_webguard.pdf

  9. Japan: convenience store shopping frequency (2021). https://www.statista.com/statistics/1227491/japan-convenience-store-shopping-frequency/

  10. 世界で最も多くの場所で使えるMastercard | Mastercard® (2023). https://www.mastercard.co.jp/ja-jp/personal/features-benefits/acceptance.html

  11. Mizuho Bank suffers ATM system failure for 11th time in a year (2022). https://www.japantimes.co.jp/news/2022/02/11/business/mizuho-banking-failure/


ファブリックは、企業がより革新的で持続可能な未来に向かって進むことを支援し、戦略的デザインの構築やサステナビリティ活動が直面する、様々な課題の解決を支援するコンサルティング企業です。2004年の設立以来、東京を拠点にグローバル企業や地元企業に対してデザイン思考、サステナビリティに関する知見、深い人間洞察力を結集し、優れた戦略をクライアントに提供しています。

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