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GENTLE MONSTER Part 2: 「商品が並ばないショップ」ができるまで
【前記事】GENTLE MONSTER Part 1: 「ラグジュアリーブランドの未来がある場所」
一見、アートギャラリーのような「1階に商品がないフラッグシップショップ」「定期的に展示コンセプトを大胆に変えるショップ」の先駆者である韓国のアイウェアブランド GENTLE MONSTER についての第二弾
今回は、なぜそのようなショップをつくるようになったか、その経緯について。
※2019 年に書いた文章です
最初のビジネスプランは大失敗
GENTLE MONSTER を立ち上げた人ってどんな人なんだろう?
初めて新沙店に行った後、すぐに頭に浮かんだのはこんなことだ。
最初私は、商品や店舗デザインの印象から、アーティスティックなこだわりが強く、自身も先端のファッションに身を包む、なんとなくジョン・ガリアーノみたいな強烈なイメージの人を勝手に想像していた。
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しかし、Google の画像検索で出てきた共同創業者兼 CEO のキム・ハングク氏は、会社の同僚でいそうな……どちらかといえば、ギークにも感じられる韓国人男性。
そして、意外にもGENTLE MONSTER 立ち上げ以前に、ファッションやそれに近い分野に携わったことはまったくなく、個人的な関心もそれほどなかったというのだ。
***
彼のキャリアは、2000年代に大手金融会社に就職したところから始まる。その後、イングリッシュ・キャンプを運営する英語教育のスタートアップに転職。取締役までスピード出世したが、英語学習のトレンドの変化や教育業界の規制などもあり事業が下火になる。
「トレンドが変わっても人々が必要とするサービスや製品を扱う事業を作らなければならない」と、新規事業案件を模索していたところたどり着いた商材が、自分もかけていた「眼鏡」。
眼鏡はずっと需要があるし、しかも韓国に眼鏡フレームで「ブランド」を確立したところはない。韓国初の眼鏡フレームブランドを作ろう。そう英語教育会社の代表に相談したところ、約10万ドルの投資をしてくれることになる 。
彼が共同創立者として名を連ねているジェイ・オー氏。
こうして2011年2月に Snoop Buy、現在の IICOMBINED を立ち上げ、2ヶ月後にGENTLE MONSTER として眼鏡フレームの販売を開始する。
しかし、設立当初のハングク氏は、今とはまったく別の戦略を考えていた。
それは "Home Try-On" 方式。
まず、WEBサイトで 5 つの気になる眼鏡フレームを選んで申し込む。するとそれらが無料で家まで配送される。送られてきたフレームを自宅で試着したうえで、気に入ったものがあればオンラインで購入するという仕組みだ。
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これは、2010年に大学生 4 人が始めたニューヨークのアイウェア・ブランド Warby Parker が導入したシステムで、卸売業者をはさまず、安価でデザイン性の高い眼鏡を提供することで、同社は大成功を収めていた。
彼らの成功は、D2C(ダイレクト・トゥ・カスタマー)業態の先駆けと言われ、同様のビジネスモデルのブランドが世界中あちこちで生まれていた時期でもあった。
ハングク氏はこの Home Try-On に加え、"Flame Finder" という、ネット上で自分の写真をアップして眼鏡を試すことができる 3D 仮想体験システムも導入。
「経営はシステムですること」と信じていたハングク氏は、このモデルに絶対的な自信を持っていたという。
ところが、ふたを開けてみるとまったく売れなかった。
韓国では眼鏡フレームは、目が悪くなって眼鏡店で視力を測ってもらう際に一緒に買うのが当たり前、インターネットでフレームを買うという考えが受け入れられなかったのだ。
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予想が外れたハングク氏は、当初は重視していなかった卸売業者を訪問する必要に迫られるのだが、そこで、韓国の眼鏡フレームメーカーと眼鏡店は既に昔からの強いネットワークがあり、新規参入が難しい業界であるという現実を知る。
事業開始早々に大きく立ちはだかった壁。社員に払う給料も尽きかけていた。
眼鏡店に扱ってもらわないとだめだ、そう認識したハングク氏は、眼鏡店に置いてもらう方法を考えたあげく、このような結論に至る。
「人々が GENTLE MONSTER の製品を探すようになれば、眼鏡店から私に連絡が来るだろう」
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業者ではなく、実際に購入する人々に知ってもらい、気に入ってもらうことで需要を高めていく戦略に切り替えた彼らは、早速潜在顧客にアプローチする企画を実施する。
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まずは、当時加山洞にあった事務所で眼鏡のデザイン・制作を実際に体験してもらうという一般参加型イベント "VISIT" を定期的に開催。
一方で、若者に人気タトゥーアーティストとのコラボレーションを進めるのだが、ここで「事件」が起こる。
そのタトゥーアーティストの顧客や友人には芸能人もいる。
ハングク氏は、彼に GENTLE MONSTER の眼鏡フレームを渡し、親しい芸能人にかけてもらうようにお願いするのだが、なかなか渡してもらえない。再三頼んでみたところ、彼にこのように言われるのだ。
「代表、はっきり言いますね。これまでのGENTLE MONSTERの製品は、全然美しくないんです」
デザインがかっこよくないので芸能人には渡せない。
「眼鏡フレームでブランドを作る」と考えていたハングク氏にとって、衝撃的な言葉だった。当時のことを、ハングク氏はこう振り返る。
今になって考えてみれば、市場だのブランドだのは言い訳でしかなく、商品が問題だったと思います。
私は新しいことをしたけれど、市場に出ると差別化された点がなかったんです
この「事件」後、多くの試作品制作の末デザインを一新。これが功を奏した。
新デザインと地道な VISIT イベントの相乗効果で、徐々に売上が伸び始めたのである。特に反応がよかったのがファッションに関心の高い若者層。
この状況をみて、ハングク氏はデザインがキーであると判断、有名芸大出身のデザイナーを雇い、マーケティングや広報予算のほぼすべてをデザイン開発にかけるようになる。
創業2年目(2012年)、売上高は50億ウォンになった。
フラッグシップストア第一号の誕生
2013 年 2 月、江南にある論峴(ノニョン)に本社を移転。その際に、商品を実際に見て購入できるショールームを併設した。
江南エリアは富裕層やファッションに敏感な社会人が集まる場所であり、そこにショールームを開くことで「眼鏡フレームは目が悪くなった時、視力検査と一緒に買うもの」という常識に対し、「洋服やカバン、時計と同様、1-2年に一度買うようなファッションアイテム」というコンセプトを打ち出そうとしたのである。
韓国のアイウェア業界において、メーカー自らが直販店舗を出すのは初めてのことだった。
とはいえ、ただ眼鏡フレームが並ぶ一般的な店頭では人目をひくことはできず、コンセプトも伝わらなかった。どうしたら、人が立ち寄りたくなるような店舗にできるだろうか――。
ハングク氏は、以前眼鏡フレームデザインでコラボレーションした新進気鋭の二人組アーティスト Fabrikr に相談する。
結果たどり着いたのは、一見眼鏡店とはわからない空間、一度は入って探索したくなるような場所を作ろうというアイディア。そのためには、オープンして数ヶ月にして全面リニューアルをしなければならない。彼らは実行した。
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リニューアルした店舗は、その外観から風変りで型破りなものだった。
入口に朽ち果てた船――実際に長年漁船として使われ、遺棄船となっていたもの――を設置し、そこから店に入る仕掛けにしたのである 。
一面黒で金色のロゴが目立つスクエアな建物の入り口に、年季の入った船が突っ込んでいっているようなインパクトある見た目。これは、「挑戦する GENTLE MONSTER のイメージは、波をかきわけて航海する船」というインスピレーションから生まれた 。
中に入った後も、苔むした壁、木の床、壁一面の計量器、さまざまな工具……と、古い船の中に迷い込んだような空間が広がり、商品はそこに溶け込むようにひっそりと置かれている。
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そこを過ぎると、ホワイト・スペースに大きなインスタレーションが置かれた、今のフラッグシップストアに通じる内装のゾーン。
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物語が空間と出会う時、単なる場所は忘れられない旅に変わる。(中略)
船は、新しい価値を探す終わりなき航海に出た GENTLE MONSTER の象徴であり、航海中に発見したGMEF (GENTLE MONSTER の実験工場 -Gentle Monster Experimental Factory-)と呼ばれる未知なる地への道となる。
予想もできないような瞬間は、「ある日、私達はGENTLE MONSTER に乗船した」という物語が、空間に錨を下した時から始まる。
"The New Island" 紹介動画添付テキストより
本プロジェクト名は "The New Island"。
GENTLE MONSTER 最初のフラッグシップストアの誕生である 。
この他にも彼らは、「眼鏡フレームはファッションアイテム」というコンセプトを浸透させるため、アイウェア・メーカーとしては初のファッショングラビアを撮影、自社のインスタグラム等で公開する "LOOX" プロジェクトを開始。
中国の深圳に自社工場を作り、とことんデザインにこだわることができる体制も作った。
そして、前記事で述べた2014年に入ってすぐの「チョン・ジヒョン効果」。ここでぐっとネームバリューも上がった。上昇気流に乗る中、2014年4月に弘大(ホンデ)に二番目となるフラッグシップストアをオープンする。
ここで始まったのが、"Quantum Project" と呼ばれる一大プロジェクトだ。
【次記事】GENTLE MONSTER Part 3: ブランドイメージを決めた前代未聞のプロジェクト
【次々記事】GENTLE MONSTER Part 4: 彼らが売っているものは何か
(後日アップ)
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