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2023年のインテリアトレンドはネオ快楽主義?空間づくりから考える、豊かさの定義。

明けましておめでとうございます。昨年もSNSやブログを通じて人との出会いに恵まれましたが、今年はさらに一歩踏み込んだ形で、様々な方とインテリアやデザイン全般について交流できれば嬉しいです。どうぞ宜しくお願いいたします!

さて、今回は新年初投稿の記事として、2023年のインテリアトレンド、そして、トレンドに対する私の考えについてお話したいと思います。

私がTwitterやInstagramでも度々言及しているアメリカのインテリアメーカーCB2が、2023年のトレンドレポートを発表しました。CB2は、主に都心部に住むミレニアル世代を対象としており、ちょっと一捻りあるような洗練されたモダン&コンテンポラリーデザインの家具を提供しています。

CB2の価格帯は真ん中くらいで、ソファでだいたい30万円前後、小物にいたってはZARA HOMEくらいの手の届く範囲。ハイブランドのMinottiやGubiのような家具が好きだけれど、ソファに100万円以上はかけられない・・という中流層にフィットしたメーカーかと思います。

そんなメーカーが毎年発表しているインテリアトレンドのレポート。文章が簡潔にまとまっていてわかりやすく、純粋な読み物として楽しいので、毎年チェックしています。今回は、このレポートを簡単に和訳したものをご紹介します。

日本ではあまり見られない内容かと思うので、インテリア好きの方は、ぜひご一読いただければ幸いです。

※記事の参照元レポート:2023 NEXT in DESIGN by CB2
レポートの体裁が、VogueやHarper's Bazaarのような美しさなので、ぜひタイトル部分のリンクに飛んでみてください。実際のレポートを横目に見ながら読んでいただけると、より楽しめるかと思います。

CEOのメッセージに共感の嵐

レポートの最初に、CB2の社長からのメッセージがあるのですが、このメッセージが個人的に刺さりました。

"It’s not about following trends; rather, it’s a focus on design choices that reflect customers’ individual needs and values. It’s about inviting new and distinct voices to the conversation, to shape a story that better reflects where we really are. It’s also about the story our homes tell—and not being afraid to indulge and show that off a little."

2023 NEXT in DESIGN by CB2

意訳をすると、「インテリアにおいて最も大切なのは、単にトレンドを追うことではなく、住む人のニーズや価値観が反映されていること。その人自身のストーリーが表れている家であること」ということかと思います。

私もかねてから「家はその人自身の表れ」と思っているので、この大原則を忘れてはいけないなあとしみじみ感じています。ただ流行りをなぞったような既視感のある家よりも、住んでいる人が好きな本、旅先で買ってきた思い出の品などが並ぶ家って素敵じゃないですか。自分のストーリーがある上で、時代の風(トレンド)も加味した空間であることが、まさに理想的。

2022年のトレンドのおさらい

前置きが長くてすみません。が、レポートではまず2022年のトレンドの振り返りが書かれています。この部分がわかると、2023年がいかに進化しているのかがクリアになります。

2022年のテーマは、"HOME as REFUSE"。直訳すると、「逃避としての家」。昨年はパンデミックの影響や戦争の脅威、物価高など、引き続き激動の1年でした。そんな中で、家はまさにサンクチュアリ(聖域)として求められていました。疲れた体と心を休められるように、とにかくリラックスすることが最優先。

そんな状況において、昨年CB2で売れ筋だった家具のデザインは、丸みのある有機的なフォルム。アイテムでは、ベッドとアクセントチェアが人気だったようです。また、素材では、天然の温かさを感じるレザー、大理石、そしてブークレ生地が支持されました。

2023年のテーマは、EXPANSION(拡大)

さて、そんな2022年が終わり、いよいよ新しい1年の幕開け。CB2が考える2023年のテーマは、EXPANSION(拡大)

新しい声やアイディアを積極的に取り入れながら、デザインの枠を広げる。そして、快適さの概念を広げる。単純な、癒しとしての空間だけではなく、楽しい要素も取り入れることで、真の美と喜びにつなげていきたいと、レポートの中で語られています。

具体的には、下記の4つがキーワードに。ざっくりと要点だけ訳してみました(正確な翻訳というよりも、原文を読んで私なりの解釈を取り入れた意訳です)。

①快適さの再定義(Refined Comforts)

リラックスした空間にするためには、洗練されたスタイルを犠牲にしなければならない?そんなことはありません。「洗練された快適さ」こそが新しい。この快適さは、人間の感覚機能を意識することが大切。つまり、視覚、触覚、嗅覚などに配慮した空間に身を委ねること。例えば、美しく、ストーリー性のあるオブジェに囲まれること。ベルベットの滑らかで深い肌触りを楽しむこと。快適な座り心地であっても、品質の良い素材であれば、洗練されたリラクゼーションが実現可能なのです。

この洗練された快適さを実現するためには、とにかく上質な肌触りのテキスタイルが大切。あなたの感覚に訴える家具を選びましょう。

②デザインの多様性(New Voices)

従来、最先端のデザインといえば、一握りの西洋諸国から生まれたものが牛耳っていました。特に、居住空間のデザインは西洋に偏りすぎていた。2023年は、そんな偏った視点から、より広い視点でデザインを見ていきます。欧米のミッドセンチュリーの美学から、アフリカ、南米など、世界の多様性に目を向けます。また、インスピレーションを受ける時代も、古代から現代まで幅広くカバーします。

CB2では現在、デザイナーの10%がBlack(黒人)で、34%が女性です。また、デザイナーの出身地は25カ国以上です。デザインの多様性を実現するため、この数は今後さらに増やしていきます。

③おもてなしの追求(The Art of Entertaining)

今こそ、食事の時間をもっと楽しみましょう。よりエレガントにレベルアップしたテーブルセッティングを。ちょっとしたホームパーティの時間は、あなたのセンスの見せ所でもあり、友人についてもっと深く知ることができる大切な時間。そんなひとときには、細部までこだわった形のワイングラスなど、小さなものにもこだわりましょう。

実際に、66%のインテリアコーディネーター(CB2のプログラムメンバー)は、テーブルコーディネートや本棚のスタイリングを求めるクライアントが増加していると答えています。

④ネオ快楽主義(Cautious Hedonism)

CB2は、ウェルネスの再定義にもチャレンジします。通常では、健康の意味合いが強い言葉ですが、私たちは「喜びを追求するもの」と再解釈します。

かの有名な作家、オスカー・ワイルドの作品の中に、こんな言葉があります。

“Moderation is a fatal thing. Nothing succeeds like excess.”
(ほどほどにすることは致命的。過度にやることこそが成功の秘訣。)

自分の内なる快楽主義を受け入れて、柄や質感にこだわりましょう。純粋に楽しむことだけを追求した空間を作ることは、豊かな時間となります。そして、官能的でもあります。力強い木材や黒く塗られたスチール、大胆な大理石の使い方など、ルールを取り払って、自由に遊びましょう。

・・・以上が、簡単なレポートの内容でした。

まわるまわるよ時代は回る

ここからは、CB2のレポートを読んで浮かんできた、私の雑感です。

2020年にパンデミックが始まり、世界中が冬の時代、という感じでしたが、いよいよ2023年から、活発な時代になることを期待させる内容でした。

急に横道にそれますが、私、最近まで金融機関で働いていたんですね。ファンドの運用会社だったので、投資のプロの方のお話を聞く機会が多くありまして。その話の中で学んだことは、時代は循環するということ。良い時があれば悪い時もある。上から下へ。下から上へ。言ってみれば当たり前なんですが、めっちゃ不況の時は、永遠にこの苦しさが続くように思えるし、めっちゃ絶頂期の時は、この成功は永遠に続くものと思えてしまう。

この記事を読んでいる皆さんは「いや、良い時も悪い時も永遠じゃないでしょ。そんなの当たり前じゃん」と思うでしょう。私もそうです。でも、個人が集まって社会単位、国単位になると、なぜか暗い時期は暗い話しか報道されないし、好景気の時は浮かれた話ばかりで、それが結果的にバブルとなる。そんなことを人類は不思議と繰り返しているんですね。きっとこれからも。

・・・で、本題に戻ります。

2023年はパンデミック発生から3年が経ち、そろそろ長い冬眠から目を覚ましたような、大胆で生き生きとしたインテリアがトレンドに入ってくるのかもしれません。トレンド予想というよりも、この世の中の循環から考えると順当な流れかなと。

私自身も2022年から久々の海外旅行を復活したり、人に会う機会も増えました。外からの刺激が増えたことに伴って、家の中も、楽しい要素をもっと取り入れていきたいなーと考え始めています。

多様性に遅れをとる日本

CB2のレポートの中で、最も今の時代を感じたのは、多様性について。デザイナーの人種や性別、出身地に言及しているのは、いかにもアメリカ企業らしい。欧米だけではなく、アフリカや南米など、幅広い地域のデザインに目を向けるというのも、とても良い傾向だなあと思います。見たことのない、おもしろい家具が増えそうです。

つくづく思うのですが、とにかく日本はインテリアの選択肢の幅が少ないんです。海外に行くと、水栓から照明、テキスタイルまで、ものすごい種類の製品に出会えます。また、古い名作家具を大切にしつつも、ファッションと同じように、新しいデザイナーが台頭していたり、トレンド感のある製品が多いです。

日本では、インテリア以前の話ですが、金太郎飴のようにどこも同じような形の掃き出し窓、同じような間取りのマンションが多く、また、大手メーカーのコスト意識のせいか、大量生産系の安っぽい素材が多いように感じます(ユニットバスや洗濯機の防水パンなど、やたらプラスチック系が多い)。

インテリアのスタイルも、「インダストリアル系」、「ミッドセンチュリー系」、「北欧系」、「クラシック系」など、単体の様式で統一する形が主流なので、複数の要素を組み合わせて独自の個性を出すような、多様性のあるスタイルがあまりないように感じてしまいます。(インテリアのスタイルのついては、海外インテリアに詳しい早[Saki]さんの記事でとてもわかりやすく解説されています。)

懐古主義に走りたくないのですが、6、70年代初頭のヴィンテージマンションのほうが、壁のタイルや手すりに作り手のオリジナリティを感じられたり、素材の使い方が贅沢で多様性とともに高級感を感じます。

島国日本にとって、人種の多様性のような話はハードルが高いかもしれません。けれど、昔から、海外のものをうまく取り入れて独自の文化を醸成していった国でもあり、素晴らしい職人技が豊富にあった国でもあります。ですので、日本なりの多様性を感じる住環境、そしてインテリアの選択肢が増えるといいなあと、いちインテリア好きの消費者としては考えています。

これからのインテリアのキーワードは、豊かさの再定義

レポート全体を通して感じたことは、今の私たちは、豊かさの再定義を求められているのかもしれない、ということです。高級マンションに住んでいるとか、カッシーナで家具を揃えるとか、最新家電があるとか、そんな表面的なものではない豊かさ。

インテリアにおける豊かさって何だろう・・・と自問自答し続け、現時点では、この3つが揃っていることが大切なのではと考えるようになりました。

①自分のストーリーがある(己を知ることで得る、内なる豊かさ)
②時代の風を感じられる(世の中を知ることで得る、新しい豊かさ)
③上質なものを知る(時代を超えて愛される普遍的な豊かさ)

①自分のストーリーがある
蚤の市で500円で買った雑貨、子どもからもらった絵、思い切って買った上質な家具、思わず泣いてしまった小説。これらすべて、豊かな空間の構成要素。ものを置いてもいいし、何なら置かなくてもいい。共通点は、自分なりのストーリーがあること。端的に言えば、自分が好きなものを自覚できていることが大切かと思います。

②時代の風を感じられる
家づくりにおいては、自分の好きなものに囲まれた空間が何よりも大事ですが、あまりにも外界とシャットダウンした世界を作ってしまうと、単なる趣味部屋であったり、昔のまま時が止まった空間になってしまいます。窓を開けて新鮮な空気を取り込むように、インテリアにも新鮮な時代の風を取り入れることで、生き生きとした空間になるのではないでしょうか。流行り物を追うというよりも、新しいものに目を向ける広い視野が大切。

③上質なものを知る
例えばウェグナーなどの名作家具と呼ばれるものは、何十年もの時代を経て、ずっと愛されています。小説でもそうですが、長い時間を経ても色褪せない作品は、やはり普遍的な魅力があり、時代に対する耐久性がある。そんなものが家にあると、豊かな空間になるのだと思います。

また、家具やテキスタイルの素材も、上質なものにすると肌触りがよく、それこそCB2のレポートでも書かれていたように、感覚に訴えてくる。また、上質な素材は耐久性のあるものが多いので、長く愛用でき、環境にも良い。見た目だけではなく、手触りの良い素材は、これからの豊かさには必須の要素です。

最後に

今回は、CB2のトレンドレポートから、私の個人的な考えまで簡単にまとめてみました(簡単にと言っても、長ったらしくてすみません)。

私はインテリア好きではあるのですが、レイアウトのテクニックだけではなく、その裏に隠されている時代背景や、人間そのものに興味があるので、こういうレポートも楽しく読んでしまうタイプです。

「こうすればおしゃれな空間になる!」みたいなインテリアのHow toではなく、雑感をまとめたような記事で、ただの自己満足のような内容ですが、読んでくださった方がいらっしゃれば嬉しいです。感想などもございましたら、ぜひお寄せいただけるとさらに嬉しいです:)

※写真は昨年訪れたCB2の店舗。ニューヨークにて。日本の家にも収まるような小さいサイズの家具が多くて、できることなら色々買いたかった・・・。我が家ではコーヒーテーブルや取っ手などのハードウェアを購入したのですが、さすがにソファやダイニングテーブルなどの大型家具は買えず。でも欲しい。日本上陸して欲しい。

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