やがてうまれる運命にて。

小説を書いています。

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最近の記事

あとがき

 ここまで読んでくれた人、ここから読み始めた人、どちらにしてもこの本を手にとってくださった全ての人へ、ありがとう。  本当は自分で自分の書いた小説の解説をするのは、とんでもなくダサい行為だと思っている人間なので、こんな風に書いた人の自我が現れる文章を書くのはほんの少し恥ずかしいけれど、ゼミ担当に唆されて書いてみようと思います。これは、大学生になった私が三年掛けて書きためた小説集です。所謂「全集」というものになるそうです。ゼミ担当が言っていました。書いている私目線では、習作はも

    • 黒曜

       学校は、バカな同年代の子どもばかりでつまらない。話す内容なんて、昨日見たドラマとか、今週の週刊漫画誌とか、愛とか恋とか青春を歌う邦楽とか、誰が可愛いとか、誰がかっこいいとか、他人の悪口とか、親への愚痴とか、心にもないなれ合いとか、そんなものばかり。幼稚で、稚拙で、哀れですらある。  みんなは、勉強をしない。活字の本を読まない。洋楽を聴かない。面白くもないことで笑い、一人で行動できない。私は、そんな幼稚な人間になるわけには行かないと、齢十にして誓いを立てた。それからもう四年。

      • 占有(仮)

         ピンヒールがモルタルを削る。一定のリズムが耳に心地よかった。早く家に帰りたい。その一心で歩を進める。  家は好きだ。私の家。あそこには、怖いものは何一つない。安心と暖かさで満ちている。世界で一番安全な場所。  デザイナーズマンションと言えば聞こえはいいが、私はこの冷え冷えとした床は好きではない。この床の良いところは、靴音がよく響くことくらい。カラフルな扉は隣の部屋と自分の部屋の区別が付きやすいくらいの利点しかないうえ、無駄に装飾の多い手摺は不用意に触れればその飾りで手を傷つ

        • ネモフィラ

           人は一目惚れをする時、息が止まるものなのかもしれない。それは衝撃、強い力で鳩尾を殴られたくらいのショックがあった。  生ぬるい風が頬を撫でるのも、遠くに立ちすくむその人がやたら鮮明に見えるのも、周りの音が何も聞こえないくらいになるのも、あまりにベタ過ぎて笑ってしまいそうだった。こんなの、安っぽい青春小説では語り尽くされた現象だと思っていた。  空の青を思わせる青いカラーコンタクト越しの瞳は冷ややかで、雪女を見てしまったのかと思った。とんだ白昼夢もあったものだ。  スカートと

          僕たちは終末を想いロケットを飛ばす

           地球脱出まで、あと数ヶ月を切ったというところだった。  二学期の中盤、十一月に入る少し前くらいから連絡が付かなくなった悪友から、スマートフォンにメッセージが届いた。メッセージの内容はシンプルで、日付と時間、場所が順に記され、最後に 『待っている』 とだけ残されていた。  指定された時刻通りに、指定されたファミレスへ行くと、そいつは今まで行方不明であったのが嘘みたいな気軽さで、 「よぉ」 と、右手を上げた。 「おう」  同じく右手を上げることで応える。四人掛けのボックス席。そ

          僕たちは終末を想いロケットを飛ばす

          女子大生失格

           彼女に初めて会ったのは、ある初夏の日。緑の芝が昨日降った雨できらきら輝く、地元のちょっと大きい公園でのことだった。 「ボランティアスタッフの斎宮ゆりあです」  ふわふわで色素の薄い髪をひとまとまりに束ね、黒縁の眼鏡をかけ、飾り気のないノーメイクの肌はびっくりするくらいにすべすべ。潜在的な美少女というのはこういう子なのだろうと素直に納得できる程の美しさ。初めて彼女に会ったときの印象は、そんな感じだった。美少女なのに、今日のイベントの、正直に言ってダサいスタッフTシャツを嫌がら