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あとがき

 ここまで読んでくれた人、ここから読み始めた人、どちらにしてもこの本を手にとってくださった全ての人へ、ありがとう。
 本当は自分で自分の書いた小説の解説をするのは、とんでもなくダサい行為だと思っている人間なので、こんな風に書いた人の自我が現れる文章を書くのはほんの少し恥ずかしいけれど、ゼミ担当に唆されて書いてみようと思います。これは、大学生になった私が三年掛けて書きためた小説集です。所謂「全集」というものになるそうです。ゼミ担当が言っていました。書いている私目線では、習作はもっと沢山あるし、小説という形態を取っていないものもあるので、本当の意味での私の全てではありませんが、それでも、私のみっともないながらに人に見せることができる部分をこうして纏めることができたのは、今通っている学校とか、この学校に通うことを反対しなかった親とか、ゼミの皆とか、友だちとか、そういう皆のお陰かなと思います。ベタですけれど。
 文章を書く私と、私の書いた文章を肯定してくれたあなたへ、ありがとう。こうして、私は生まれました。

●女子大生失格
 一回生の夏の作品です。仲の良い同じ学科の友だちと、文化祭で小説を売るために書いたものです。高校生の頃に書いた短い小説をリメイクしたものです。当時、高校生の頃に書いたものの拙さに頭を抱え、今は一回生の私の拙さに頭を抱えています。
外面が良く、人に好かれるように行動できるのがサイコパスの特徴らしいです。ゆりあは人間社会で生きていくために「良い人」であろうとしている社会性のない生き物なのでしょう。ゆりあちゃんのボランティア活動に、偶々殺人も入っていたというだけの話です。反面、倫子は無自覚的に人助けができる人であり、動物や小さい子に好かれる、ある種根っからの善人。ゆりあにないものを持っている人です。だからゆりあは倫子に惹かれました。倫子は良くも悪くも凡人なので、ゆりあの外面の良さに簡単に騙されてしまうでしょう。タイトルは、ある女子大生に付けてもらいました。気に入っています。

●僕たちは終末を想いロケットを飛ばす
 二回生前期に書きました。プレゼミ課題として提出した作品です。これはある意味好評である意味不評でした。ヨルとアサヒの関係性が好きな人は好きなのかも? と思います。わからないです。約一年ぶりに読み返してみて、その拙さに驚いた作品です。当時、ものすごく面白いと思っていたので……。当時、ゼミ担当と「自分の作品のために命を捨てられる天才」と「男友達と心中する心境」という話をした記憶があります。これは、青春に包まれた遺書と心中の話です。モデルというわけではありませんが、あるアーティストの方たちがこの話を書くきっかけになっています。彼の好きな宇宙と音楽の話を書きたかった。宙人は、地球と宇宙を繋ぐ役割で、宙人が地球と宇宙と繋いでくれるから、宙人以外の人間も宇宙と繋がることができるのです。

●ネモフィラ
 ゴリゴリのBLです。二回生後期、ゼミの提出作品として書きました。当時、女装趣味の少年と、その先輩との交流を書くつもりだったのですが、ゼミで企画書を出したときに「中途半端」とのダメだしを受け、風呂掃除をしながら「中途半端にならないためにはどうするべきか」を考えた結果、BLになりました。ゼミ担任にそれを伝えると、面白がって背中を押してくれたので、濡れ場のあるBLで最終決定となりました。主人公も当初、揺木くんだったのをBLなのだったらと陣くんに変更しました。タイトルも気に入っています。
 陣くんは、「この子には私がいないと」と思わせる、愛され体質の人間です。ですが、本命相手には尽くしたいタイプ。尽くしたいけれど、ヒモ力が強すぎて空回りしてしまうタイプです。普通の家庭で普通に育った、ある意味普通の男の子ではあります。親が共働きであまり構ってもらえなかった幼少期をもっていますが、少なくとも、メイン三人の中では一番一般的な家庭の出で、愛されて育ってきた子です。
 揺木くんは反面、機能不全家族で育った子どもでした。四つ年下の妹に親の愛情を全て持っていかれ、ネグレクト気味に育ったため愛されたい欲求が強いです。女装に目覚めたのは中学の文化祭がきっかけです。妹みたいに「可愛く」なることで愛されたいという気持ちが出発点でした。妹との仲は良好です。年上に甘やかされたい欲求があるのと、自分の世話は自分で(時には妹の世話も)という生活をしていたので、陣くんのダメさ加減と相性は良いのではないでしょうか。ちなみにメイン三人の仲で最も大食いです。ただし料理は苦手です。
 藤くんは自分のセクシュアリティを揺木くんに肯定されて、息がしやすくなった人間です。そうして恋に落ちました。ですが、彼にとっての最優先事項は「揺木乱が幸せになること」であり、「揺木乱が自分のものになること」ではありません。ちなみにキャリアウーマンの母親と二つ上の姉と、一つ下の妹に揉まれて生きてきています。彼も案外苦労人です。

●占有(仮)
 ワークショップの課題として、二回生後期に書いたものです。当時の仮タイトルが「占有」で、仮題だったので(仮)と付けたらそれがそのままタイトルとして採用されてしまった例です。ネモフィラとほぼ同時進行で書いていました。これで一度学内の合評に出たこともあるので、ある意味自信のある作品です。割と好評でしたし、私も気に入っています。もともと、働かないで生きていきたい人の話を書こうと思っていました。ヒモだと陣くんと被ってしまうし、この話で書きたかったのは「可哀想な女を支えることでなんとか生きている少年」だったので、ペットと飼い主に落ち着きました。依存する側と依存している側が存在するとして、依存されている側も「依存されている」という事実に依存しているのではないかなという思いがありました。この話の解説は特にないです。好きに受け取ってください。どんなに歪んでいても、二人が想い合っている事実があれば、二人は幸せです。ちなみに、これを書く少し前にハッピーシュガーライフというアニメを見ました。面白かったです。

●黒曜
 三回生前期に書いたものです。ひいひい言いながら書いていた記憶しかないです。書いていたときの記憶が基本ありません。「ネモフィラ」を書いた後、このままBLを書き続けるか、それとも「占有(仮)」のような作風にしていくかを悩んでいました。悩んだ結果、この話を書くことにしました。元々、いつか書きたいと思っていたネタが「先生イジメを通じて仲間意識を持つ中学生三人」の話で、当初は六道が主人公でした。書いていくうちに、私の中でこれは「柚香が生まれて初めて自ら友だちを作る話」になりました。細かい設定を詰めすぎて最終的に企画書が十五枚くらいになってしまったのも良い思い出です。
 タイトルを何にするかとても悩んだ作品でした。最初、仮題は「三密」でした。ミ●ネ屋を見ながら決めたものです。次に、「写真にうつる顔」という題名に変えましたがゼミ内では中々に不評で、私も納得できなかったので更に変更することに。このとき、とある先輩に「タイトルは作者自身の表明」というアドバイスをいただき、「黒曜」という題を付けました。黒曜石は火山岩の一種であり、宝石として加工されることもある美しい石です。火山岩はマグマです。人と共存なんてできないはずのマグマが急激に冷えることで、美しい石となり、身につけることさえできるようになる。そんなところが、不安定な千景・柚香という二人の少女にリンクするように感じたのです。黒曜石は、黒い石なのですが、含まれる不純物によって色が変わります。そして、石言葉は「摩訶不思議」。あの年頃の女の子は、自分を一人前だと思っているくせに、どうしようもなく子どもで、私はそんな彼女たちの未熟さが愛おしいです。

 私の書いた文章がこんなに長く、多いとは自分でも思っていませんでした。文字数で言うと、約十四万字程度。私の選んだ十四万の文字の中から一つでも、これを読んだ人の心に残りますように。

2020/10/4

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