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国内初「エゾシカ対策用電気柵」誕生秘話(後編)

この記事は、先週に書いた「国内初『エゾシカ対策用電気柵』誕生秘話(前編)」の続きとなっています。
まだお読みになっていない方は、よろしければこちらからどうぞ↓


貢献の実感、目の前の一人から

 シカ用電気柵の商品化に成功してすぐ、私は車で美幌峠を下っていました。すると、周りを森に囲まれたその場所に、大きな畑があるのが見えました。
「いかにも野生動物の被害に遭っていそうだな」と思った私は、すぐに車を止め、畑の隣の民家へと足を運びました。飛び込み営業です。

応対してくださったご主人に「シカはどのくらい来ますか」と尋ねると、「うちには犬がいるから大丈夫、全く問題ない」とのこと。
「これから犬たちにエサをあげに行く」というので、一緒について見に行きました。

広い畑の端に、犬小屋が五つほど、それぞれ100mほど間を空けて置かれていました。なるほど、守衛というわけです。ご主人は毎日、犬たちにエサと水を運んでいるようでした。

私は正直なところ、この様子を見て「犬がかわいそうだ」と思いました。
心細く放っておかれて、まるでシカ避けのための道具のように扱われているという印象を受けたからです。

しかし、そのご主人は、犬の頭を撫でながら、こうボソッと呟きました。

「できれば、犬をこんな山に置いておきたくないんだわ。だけど、シカにほとんど食べられてしまったら、やっていけないべさ」

そう話す彼は、優しく、そして少し寂しそうな目をしていました。

 

私は彼に、シカ用電気柵を購入していただきました。
それは、「同じように困っている多くの農家さんを助けられる可能性が、この電気柵にはある」と私が確信した瞬間でもありました。

ずいぶん昔のことですが、この出来事は今でも鮮明に覚えています。
美幌町でシカ用電気柵を設置したのはここが初めてで、その後、数年で町内のほとんどの農家さんに普及しました。

 

農場から持続可能な未来を創造する夢

 野生動物というのは大抵、収穫期の直前に農作物を食べに来るものです。

ということは、作物をそこまで育て上げるための経費はしっかりかかっているので、食べられてしまった分は丸ごと損害になります。
作物の3割ほどが食べられれば、利益はもうほとんど残りません。いかに生活に直結した問題であるかがお分かりいただけるでしょうか。

それに対し、電気柵を張るのにかかる費用は、農場の広さにもよりますが、大抵は20万円ほどかと思います。
毎年それなりの鳥獣被害を受けているような場所であれば、電気柵を張った初年度から、柵への投資額よりも手元に残る利益の方が多くなります。

だから私たちは、電気柵の導入を、自信を持ってお客様に提案できるのです。電気柵を張って対策した方が、確実にそれまでの労力が報われるということがわかっているからです。

 

ファームエイジでは、エゾシカ対策用の柵が成功したことをきっかけとして、クマ用、イノシシ用、サル用、アライグマ用などの商品の開発もどんどん進みました。
小社のHPでも、「カテゴリから」だけでなく、「対象動物から」も適した仕様の商品を選ぶことができるようになっています。


需要が非常に高い分、他社も簡単に参入できる分野で、現在は競合が数多くいますが、一番初めに「エゾシカ対策の相談ができる会社」としての地位を築けたことは、かなり大きなアドバンテージになったのではないかと思っています。

そういった、パイオニア・スピリッツを常に忘れない会社でありたい。
シカの被害に関しても、初めに「困ったな」という声を上げ始めた一軒目、二軒目の方が必ずいたでしょう。
その初めの声を聞き逃さず、寄り添うことのできる迅速さをずっと備え続けていたい。そう思います。

何事も、まずは新しい種をまき、じっくりと観察することです。
十分に実ったものだけを収穫していては、いつか必ず枯れ尽きてしまうことは目に見えていますから。

 


元々私たちは、目の前の一つの杭をただ売りたいのではありません。
それらを通して持続可能な農業を一つでも多く実現させ、小規模ながら豊かな暮らしを営める町をデザインすることを目的としています。

大切なのは、その理念に共感していただけるお客様(仲間)と、共に理想を語り、共に歩んでいける、ということではないかと思うのです。


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