放牧を推進する会社が、あの「びっくりドンキー」を経営するようになるまで
前身は岩手県から始まり、北海道で人気に火が付き、今や全国で愛されるハンバーグレストラン「びっくりドンキー」。
40年以上にわたって親しまれているファミリーブランドで、総店舗数は300店を超えています。
しかしそれほど有名なブランドでも、普段訪れる店舗がどのように経営されているのか、意識しながら利用している方はほとんどいらっしゃらないのではないでしょうか。
なぜ私がこんな話をしているのか。
それは、私が代表を務めるファームエイジ株式会社が、ハンバーグレストラン「びっくりドンキー」ファーム野幌店、ファーム太平店をフランチャイズ経営しているからにほかなりません。
小社は、「フェンスで日本の農業を変革する夢」を掲げ、電気柵やフェンスの販売を通して、日本に持続可能な農業である放牧を普及するために活動している会社です。
そんな小社が外食事業に参入することになったきっかけは、一言で言えば、びっくりドンキーを展開している「株式会社アレフ」の創業者、故・庄司昭夫社長との出会いによるものです。
庄司社長と私が共にニュージーランドへ旅立つまでの話はこちら↓
理念の共鳴
庄司社長は、お会いするたびにこうおっしゃるのです。
「小谷さん、びっくりドンキーはいいよ。5店舗やれば10億の売り上げになる。きっと会社の柱になるよ。やってみないか」
私は毎回、それを話半分に聞き流していました。第一、放牧の普及のために会社を立ち上げた私がレストランを経営するところなど、当時はまるで想像がつきませんでした。
しかし、何度も繰り返しお会いしてお話を伺っているうちに、私も少し考えるようになっていきました。
あまり知られていませんが、びっくりドンキーが環境負荷の低減にかける想いというのは、並大抵のものではありません。
いつでも新鮮な食品を提供できるよう、トヨタで生まれた「ジャスト・イン・タイム(JIS)方式」を外食業界でいち早く採用。効率化が徹底されてきました。
それに加えて、各店舗に発酵乾燥式生ごみ処理機を導入しており、1日に約50kg発生する生ごみ(廃棄となってしまった食品)を堆肥化して、契約農場へと提供しています。
そういった取り組みの数々から、庄司社長ご自身が「外食」と「自然循環」の両立を本気で目指しているということがよくわかります。びっくりドンキーが長年にわたって愛される秘訣は、その想いの方向の正しさと、熱量の大きさにあるのではと私は感じました。
そして思いました。
食の安心・安全を追求し、持続可能な食のあり方を発信していくことは、もしかすると今の小社の事業にもつながるところがあるかもしれない、と。
どこがいい?
私が「やらせてください」と言うと、庄司社長からはすかさず
「どこがいい?」
という質問が返ってきました。
ファームエイジの本社は当別町にありますので、できればそこからあまり離れていない場所が望ましいです。となると、江別市あたりでしょうか。
すると一言、「ちょうど野幌店があるよ」。
それならいいかもしれません。せっかくのお話ですし、思い切ってお受けすることにしました。
しかしこれは後からわかったことですが、その野幌店というのは、本来アレフが直営店として管理するつもりで、土地の交渉に5年ほどの年月をかけ、開店に向けて着々と準備を進めていた場所であったそうなのです。
そのうえ、札幌圏は全て直営で管理するというルールがあり、他の大会社のフランチャイズの申し出は全て断ってきたとのこと。つまり本来、社長の鶴の一声とはいえ、小社に任せていいものではなかったはずなのです。
当時の私はそんなことはつゆ知らず、半ば勢いで承諾してしまいました。
そもそもびっくりドンキーというブランドは、庄司社長が毎月100万円の赤字を出すお店を人から掴まされ、苦労して試行錯誤しながら改良を重ねて、スクラップ&ビルドで立て直した末に軌道に乗り、生まれたものです。
そのお話をよく聞いていた私は、「なるほど、自分もこれからそういう地道な積み重ねをしていくことになるのだな」と思っていたので、いきなり完成された環境をポンと渡され、とても戸惑いました。
本当に、私にこんな立派なレストランの経営ができるのでしょうか?
でも、もう覚悟を決めるしかありません。
スタッフ採用裏話
さて、お店が決まったので、次は働き手の採用を行います。
パートナーを募集したところ、約1000名の方から応募がありました。
まずこの人数がすごいですよね。びっくりドンキーというブランドがいかに地元から信用されているかがわかります。
そのうち500名は残念ながら電話でお断りすることとなり、残りの500名には、当時店長を任せていた社員の東(現・常務取締役)が面接を行いました。
そして面接を経た結果、100名ほどが採用になりました。この100名というのは、
① 研修を経て開店するまでに、半分ほどの方は離れてしまうのではないか
② 最終的に50名ほどが残ってくれればお店は回るだろう
という考えのもとで設定した人数でした。
ところが蓋を開けてみると、開店まで誰一人、辞めることはありませんでした。
これは従業員一人ひとりが自負を持ち、「自分は選ばれてここにいる」と感じてくれたからでしょうか。非常に頼もしく、誇らしく思いました。
しかし、小社には100名を雇い続けるほどの資金がないこともまた事実です。せっかくここまで共に開店へ向けて準備を行ってきたにもかかわらず、何名かの方には辞めていただかなければならなくなりました。
このときが一番、苦しんだと思います。本当につらく、また本当に申し訳ない決断でした。
そんな始まりから現在まで、ファーム野幌店は、非常によい雰囲気を保ったまま営業することができています。
社員もパートナーも関係なく「どうすればお店がもっとよくなるか」を話し合ってアイディアを出し、「まずはやってみよう」の精神で実現するという、よい環境、よい文化が形成されていると感じます。
ですから店舗ごとに定期的に行われる衛生検査でも、毎回優秀な成績(7年連続A評価)を収めています。
外食事業部の妥協のないその姿勢は、本社の他部署の人たちも、そして私も、見習わなければならないところだと思っています。
その後、1店だけで社員を回すのは難しいという理由から2店舗目の導入を検討するようになり、アレフのグループ会社である株式会社牧家が元々経営されていた、札幌市北区の店舗を譲っていただくこととなりました。
これが現在のファーム太平店となっています。
超・優良企業とのかかわり、持ち上がる視点
今でこそ、「放牧のすばらしさを直接消費者に届ける」という点で外食事業は小社の理念と合致していますが、それはここまでのお話を読んでくださった方ならわかるように、初めから計画されていたことではありませんでした。
もしも、私が「びっくりドンキーを経営したい」という目的を先に持っていて、それを叶えるために庄司社長に近づいていたとしたら、むしろこんなにスムーズに話が進むことはなかったでしょう。
株式会社アレフは偉大な企業です。「食の提供」という一つのテーマから取り組みを様々に派生させ、常に顧客に求められるよりも高いレベルのチャレンジを行っています。
そんな成長企業とかかわりを持つと、こちらも様々なことを吸収させていただくことができます。それは一つ一つの施策例だけではなく、精神性、企業文化と呼ばれるようなものも含めてです。
よい友達を持つと人として成長できる、ということと同じかもしれません。
よい企業とお付き合いがあると、小社ひとつの力ではたどり着けないような高さへと、視点を一気に持ち上げていただくことができます。
ここで言う「よい企業」というのは、単に売り上げや利益だけの問題ではありません。社会への貢献度であったり、信用の高さであったり、様々です。
これらを踏まえて、小社はもっともっと、びっくりドンキーのノウハウを応用させていただくべきと考えています。
今の自らの立ち位置に甘んじず、これからもチャレンジを続けていかなければなりません。