「貴重な資源を活用する夢」 ⁃ 日本の豊かな草地資源を上手に活用すれば、輸入穀物依存から脱却できる
引き続き、ファームエイジが掲げる「5つの夢」をご紹介していきます。
今回は「貴重な資源を活用する夢」の話をしましょう。
自然豊かな日本には貴重な資源がいくらでも存在していますが、その中でも私たちが着目しているのは、主に「草」と「野生動物」の二つです。
「あれ?前回の話でも同じような言葉が出てきたような…」と思った方はご明察。5つの夢にはそれぞれいくらか共通している部分があるので、関連付けながらお読みいただけると嬉しいです。
すぐそこの庭に、資源が生えている
原点からの乖離
まずは草の活用について。
そもそも牧畜というのは、内陸部で暮らす遊牧民によって編み出された、生きるための知恵の一つです。
人間が直接に食べることのできない植物を草食動物に食べさせ、乳や毛皮や肉などに変換してもらい、それを人間がいただいて生活していくという流れですね。
ところが、この牧畜が近代化・効率化されて今日の畜産へと発展していくにつれ、いつの間にか人々は、生産性のみを追い求めるようになってしまいました。
安定した商品を、よりたくさん。その願いを叶えるための手段が、大きな畜舎を建てて動物を繋いでおくことであったり、草食動物に高価な輸入穀物を与えて限界まで太らせることであったりするわけです。
でも、本当にこれでいいのでしょうか。
ここでやりなよ
放牧の普及を始めてしばらく経ったある日、私のもとに一本の電話がかかってきました。出てみると、どうやら相手は中札内の酪農家さん。
「放牧でうまくいくって話を聞いたんですけど…」彼はそう私に尋ねてきました。
詳しく伺ったところ、彼の牧場では約100頭の牛を牛舎で飼っているものの、そのうち2割ほど(仔牛も含む)がすぐ死んでしまうというのです。
おまけに毎日とんでもなく忙しく、腰まで痛めて意気消沈の様子。
さっそく現地へ行きました。放牧に関するスライドセミナーを2時間ほど行ったのち、いよいよ今後の計画を立てる段へ。
彼は「でも、うちに放牧ができる場所なんてないんじゃないかな」と言っていました。しかし農地を見学すると、牛舎の隣に20haほどのデントコーン畑があることが判明。
私は思わず言いました。「ここでやりなよ」
「わかった。小谷さんがそう言うなら」
翌年、彼は与える輸入穀物の量を半分にし、残りを放牧草で賄って酪農を行いました。
すると生産できる乳量は2割減ったものの、利益は順調に上昇していきました。これは外部からの穀物の購入に使っていたお金がそのまま浮いたからです。次に私と会ったとき、彼はなんとフィアンセを連れていました。
また翌年、彼はとうとう輸入穀物をゼロにし、飼料をすべて放牧草のみにしました。利益はまた上がり、早くに死んでしまう牛もゼロ。次に私と会ったとき、彼の隣には奥様がいました。
これはあくまでほんの一例ですが、利用するものを輸入穀物からその土地の草に切り替えただけで、本当に劇的に状況は変わるのです。
日本に放牧を導入する際の問題点としてよく、土地の狭さが挙げられます。しかし日本では耕作放棄地が年々増え続けており、その面積は現在、全農地の約1割にあたる約40万haにものぼると言われています。
1haにつきおおよそ2、3頭の牛が飼えますから、もし40万haすべてを放牧に利用することができたら、日本ではあと100万頭の牛を育てられることになります。
もちろんこれは極端な話ですが、それくらい、まだまだやりようはあるということです。
食べる肉、食べない肉
もう一つ、私たちが活用すべきと考えているのが、野生動物です。
田畑を荒らす動物たちはしばしば害獣と呼ばれ、駆除の対象となっています。駆除された動物の多くは、そのまま廃棄されます。
彼らも家畜と同じで貴重なタンパク源ではあるわけですが、片や守られて輸入穀物で丁寧に餌付けされ、片やゴミ扱い。
この違いは一体なんでしょう。
ジビエ料理などが発達しているEUでは、家畜の肉よりも野生動物の肉の方が高い値段をつけられています。つまり、山林で育った天然物としての需要があり、価値の高いものとして扱われているということです。
ところが日本では、酪農畜産の業界と野生動物対策・狩猟の業界が全く異なるものとして存在しており、同じ動物資源としての価値判断が行われることがほとんどありません。
そこで、前回述べたように、ファームエイジはこの二つの分野を必ずセットで扱い、意見交換のための架け橋となることができるよう努めています。
日本は、輸入穀物を用いることで、あれよあれよという間に世界一高コストの畜産を実行してしまっている国です。
したがって、地元の野生動物たちを資源として生かしていく方向に技術を発展させなければ、国産の食料は高騰していく一方です。
せっかく豊かな自然の恵みがあるのに、それを循環させず使い潰すなんて、もったいないとは思いませんか。
無駄にしないのは誰のため
最近も、人里に熊が下りてきてやむなく射殺されたという痛ましいニュースがありました。
野山を切り開き、自然環境を破壊しているのは、紛れもなく人間です。私たちにはその責任があります。
人間はいつも「いただく」側だという謙虚な姿勢、今あるだけのものを十分に生かしていくという生活の基本、これらを決して忘れてはいけません。
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