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真夏の恋と夢

囃子の音
生暖かい熱風
遠くで真っ赤にぼんやりと灯る提灯

胸が大きく鼓動する

からん、からん、と下駄が鳴く
帯で締められてちょっと苦しい
顔が少し火照って赤らむ
汗、大丈夫かな
可愛く結った髪の毛がもう既に崩れそう

待ち合わせ場所、時刻は午後5時35分
あっ、いた。
背丈の高い彼
見慣れない浴衣姿は新鮮だ
鼓動はさらに早まる

おまたせ

周りの音にかき消されたか、私の声
そんな不安をよそに彼は私に微笑む

可愛い

その一言、その声を心で何度も反芻する
あー、大好きだ

ありがと

少し恥ずかしくて照れる私

行こっか

手を差し出す彼

手を伸ばす私

男らしくて力強い手をしていた。

………

そっと目を開けて現実は突きつけられる。
独りベッドの上
仰向けで寝転ぶ私自身に気づいてしまった。

これで終わりか

小さく聞こえる花火の音色
窓を開け、ちらりと覗いてみる。
ほんの少しだけビルに隠れて花火が見えた。

視界が瞬く間に滲んでいく。


空はいつもと変わらず、空気は生暖かった。

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