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自惚れて、壊れて

僕は天才で
コミュ力が高くて
色んな人に頼りにされて信頼されて
実は幅広い知識をもつ物知りで
サッカーが上手くて
イケメン素質のある顔で
僕がいなければ均衡は崩れる

実はそんな人間だってことを隠して
地味に静かに時間を流しているんだ。
だって目立てば、波風が立ってしまうから。


目立てば嫌われてしまうから。


帰りの電車を待つ駅のホームで
そんな想像を頭で描きながら
イヤフォンから流れる音楽で
現実の雑音を追い払う。


鼓膜を震わすメロディーは
背筋を伸ばすような素早いビートと
自信を取り戻させてくれる力強いベースで
さらに際立っていた。
リリックは怒りと悲しみをぶつけた
カラオケでは歌えないような単語が並ぶ。


"僕をバカにするやつは全てこの世のクズだ"
"隣の友は優位な場所から僕を見下ろす偽善者だ"
"優しさは馴れ合い、宥めの行く末"


共感なんかしやしない。
友も人間も優しさも、全部信じている。

だけど。

本意でなくとも
ここまで叫んでしまいたいほど
僕は弱くて滑稽だった。


心に浮かぶ悪雲は
雨と雷を誘っていたけれど
他人に迷惑がかからないうちに
自分に向けて放散していく。


僕が望む理想像を繰り返し映像化しながら
夢見る世界は薄暗く遠い。


誰からも見えないまま
自分自身を救えないまま
ただただ耐えて持ち堪えて。




パンッ








何か、が壊れる









全てが崩れ落ちていく瞬間だった。

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