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タイムスリップ

場所から場所へ移動するテレポーテーションではなく、時を超えることをタイムスリップやタイムリープと呼ぶ。

これから書くことは、正確にはタイムスリップと呼んでいいのかわからない。なぜなら、私が移動したのか、空間が移動したのかがよくわからないからだ。

だけど一言で説明するならやはり、タイムスリップなんだと思う。

その体験は十代最後の頃だった。幼なじみと交通量の多い街道沿いの緩やかな坂道を歩いている時にそれは起こった。

何の前触れもなく、突然周りの景色が戦時中の焼け野原に変わったのだ。

横を走っていた車はすべて消え、今さっきまで歩いてたアスファルトの道は舗装されていない地面に変わり、目の前に見えていたトンネルはただの土手になっていた。

遠くの夕暮れ空にいくつもの煙が上がっているのが見える。火事を知らせる鐘の音が聴こえていた。

上空にはどこかから飛んできた火の粉のようなものが無数に舞っていて、風呂敷を背負ったモンペ姿の女性が私たちの横を足早に通り過ぎていく。

映画で見るような光景だった。

10秒後、私たちは見慣れた街道沿いを歩いていた。まだ陽も明るい午後だった。

今見たものは、果たして幼なじみにも見えていたのだろうか?

恐る恐る幼なじみの顔を見ると、その表情はフリーズしていた。そして私の顔を見るなり、

「これだからさっちゃんと遊ぶのイヤなんだよ〜!」

と言われたのはいい思い出だ。

彼女は霊感が強いわけではないのに、私と相性が良すぎるのか、それとも私たちの親和性が高いのか、私と一緒にいることでこれまで何度も不思議体験や怖い思いをしてきたのである。

10秒間のタイムスリップは、その極めつけのような出来事だった。


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私と一緒にいると一時的に霊感が強くなってしまう人は時々いる。次のエピソードも別の友達と一緒に体験したことだ。

その日は数人で集まって一晩中遊んでいたのだが、いつの間にか私は寝てしまっていたようで、目が覚めたら早朝だった。

外の空気が気持ちよさそうだったので起きて外へ出ると、もうひとり目が覚めた友達が外へ出てきた。

多分、5時くらいだったと思う。ほんの少し霞がかった、ひんやりして清々しい朝の空気。

昨日は楽しかったね、気持ちいい朝だね、と2人で道路沿いに佇んで喋っていると、向こうから親子連れが歩いて来るのが見えた。

連れられているのが4歳くらいの女の子だったので、こんな早朝に散歩?と少し違和感を覚えた。

まだほとんど車も通らない時間だったので、歩行者も私たち以外にいなかったのだ。

その親子らしき2人がだんだん私たちに近づいてくるにつれて、違和感は確実なものとなった。

赤いワンピースを着たおかっぱの女の子の手を引いているのは、日本兵なのである。

映画で観るまんまのベージュの軍服を着て、同じような帽子を被っているその男性は、私たちのことなんて視界にも入っていないように見えた。

日本兵も女の子も表情がなく、諦めきったような目で俯きがちに通り過ぎて行った。

「今の、何だったの...?」

と友達が言った。もちろん私にもわからない。

だけど、あんなにクラシックな赤いワンピースは今どこにも売ってないし、そもそも2人とも現代人の顔つきではなかったのだ。

早朝に遭遇してしまった、少し悲しい風景。

日本兵も女の子も、次の転生では明るい日々を送ってほしい。

この時一緒に目撃してくれた友達も、もうこの世にはいない。

生前は時々「あれは何だったんだろうね」と話していたのだが、今では私だけの大切な思い出になっている。



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