◆ 話のネタ ◆ No.28 『ミッション・インポッシブル』
大学2回生の時、父を突然亡くしました。
九州で行われた祖父の葬儀の後、祖母が体調を崩し入院、父の実家が商売をしていた為、中国地方で教師をしていた父が夏期休暇期間でもあり祖母のベッドの横にベッドを入れて泊り込みで看病することになりました。
私と弟と母は、用事があり父を残して、中国地方の自宅に帰りました。
翌日21時半頃、伯母から父が亡くなったと泣きながら電話があり、最初に私が聞きました。 一瞬、交通事故か?と思ったのですが、心筋梗塞でした。
祖父の葬儀の2日後だった為、勤務していた高校にA先生のご尊父ご逝去、A先生もご逝去と張り紙が出て
「誰が一体こんなたちの悪いいたずらをしたんだ!」
と職場で大問題になったそうです。
遠く離れた九州での突然死だったので、頭では、亡くなったと分かっているのですが、実感や悲しみの感情は、すぐには、湧きませんでした。
どこか、旅行にでも出かけている感覚です。
実際、自宅で行われた葬儀の時、母と私が共同喪主となっており、
お手伝い頂いている知人から
「Sちゃん(わたしの事)●●●は、どうしたらいい?」 と尋ねられた時、
「う~ん、どうしたらいいんだろう?・・・・・そうだ! 親父に聴こう!」 と思いつき、父の葬式で、父を探している自分がいました。
葬儀が終わっても、初七日、四十九日等があり、人の出入りも多く、悲しいとか寂しいとか亡くなったという実感は、忙しさの為ありませんでした。
しかし、四十九日を過ぎて人の出入りがピタリと止むと、現実の事と捉えられるようになり、非常に大きな悲しみ、底なしの寂しさが押し寄せてきました。
葬儀から3ヵ月たったある日、大学生だった私が1人で自宅にいると、県の中心から社用車を運転して1人の若い銀行員がやって来ました。
その銀行の支店は、県庁所在地にしかなく私の自宅から30km以上も離れており、利用することのない銀行でした。
用件は、そこの普通預金に振り込まれた父の死亡保険金の定期預金への勧誘でした。
普通預金に置いていては、金利が安くもったいないので定期預金への振替をセールスされました(当時は、金利が高かった) 銀行には、振込先の名前がでるので、生命保険金というのは、一目で分かり熱心に定期預金を勧誘されました。
私が 「お宅の銀行に預けると遠いので、出金時が大変」 と言うと、
「その時は、私がお届けにまいります!(全国に支店のある銀行だったので、数年で転勤してその支店にいないのは、明らか)」 とできない申し出迄されました。
それを聞いて、一層不愉快な気持ちになりました。
全てが、その銀行員目線の考え方で、こちらがどのような気持ちでいるかは、まったく斟酌なしでした。
私は、お断りするとともに、
『 絶対にこの銀行にだけは、定期預金をしない!! 』 と固く決心しました。
それから、5年の時が流れ、私は銀行に就職し2ヵ店目で、この県の県庁所在地の支店に転勤となり、念願の取引先課員(営業職)になることができました。 当時は、個人定期をどれだけ増やすかが一番の目標でした。 自分の担当地域のお客様の口座で50万円以上普通預金に入出金がある場合は毎日リストにあがって来るようになっていました。
ある時、面識のないお客様の普通預金に生保から15百万円の振込が入ってきました。 明らかに、ご家族が亡くなられその保険金だと分かりました。
私のミッションは、このお客様を訪問し定期預金にして頂くことでした。
しかし、5年前の逆の立場の自分が思い出され
『・・・・どのようにして定期預金を勧誘したらいいんだろ?・・・・』
と悶々と悩み続けました。 だが、まったく考えが浮かばず、迷いに迷い、最後は、信頼しているK先輩に相談しました。
「K先輩、このような事情で、生命保険金を勧誘に行かなければならないのですが、どう勧誘すべきななのか?・・・・・アドバイス頂けませんでしょうか?」
「S、分かった!・・・・ お前の気持ちも良く分かる・・・・・・・・
今回定期預金を勧誘に行って一番しては、ならない事は、何か分かるか?」
「えっ?・・・・・分かりません・・・・・」
「それはな、決して定期預金を勧誘していけない!ということだ。
定期の 「て」 の字も出すな!」
「えっ??・・・・それじゃどうするんでしょうか?」
「数珠と買い置きしてある線香持って、その会った事のないお客様のところに行って、『 お仏壇に、お線香をあげさせて下さい 』 とお願いするんだ」
「それから?・・・・」
「お客様が、故人の思い出話をされるのでそのお話に耳を傾け、
気持ちの上でよりそい、ただひたすらお話をお伺いするんだ」
「その後は?」
「お客様が話終えて、落ち着かれたら、
退出前に一言
『お困り事があったらいつでも、お声がけ下さい!』
とだけ言って帰るんだ」
「・・・・・・・」
「ご縁があれば、定期預金等の運用のご相談があるよ」
その支店では、3度そういう場面に出会いました。
2人は、ご主人が病死、もう1人は、息子さんが仕事帰りに
トンネルで交通事故死・・・・
・・・・今でも、奥様が、夕方になると生前、ご主人様に
『 今日も "ポカリ" する? 』 と声をかけ、
『 いいね ♪ 今日も一緒に "ポカリ" しよう! 』
と会話してたの 💛 とお話されたのが心に残っています。
"ポカリ" とは、お二人の間では、ビールの事だったそうです。
◆ 毎週、金曜日に発信予定です。
次回予告:No.29 こころに残る上司 U副頭取
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